感情ディスカス
※読む前に。
第四話 、第五話辺りをグレイ視点で書いているだけなので、特に面白くはないと思います。
企画のリク消化のつもりで書いてみて没ったものです。
せっかくなので短編として上げてみます。
やおい(山無し、オチ無し、意味無しの意味)っぽい気がするので注意。
グレイがその依頼を受けたのは、グインジエの街に長期間滞在していた時だった。
この街に来て、近隣で盗賊の討伐を請け負っていたら、海軍から海賊討伐依頼が回されてきたのだ。
「海賊ねえ……」
煙草を口にくわえたまま、今しがた受付嬢から聞いた内容を頭の中で反芻するグレイ。冒険者ギルドの待合室の隅で椅子にもたれながら、以前に受けた依頼のことを思い出す。
(前はコーラルの旦那に頼まれて、ろくに金にもならない依頼を受けたんだったか)
三隻の船を有する海賊団で、地元民の協力を得て、一つの船に乗り込んで、夜闇に乗じて海賊を殲滅した。休む時は船を固めて休む奴らだったので都合が良く、隣の海賊船に飛び移って、また刃を振るう。そんなことをやってのけたら、今までずっと藍ランク止まりだったのが紫ランクになった、そんな依頼だ。
レステファルテ国を転々と渡り歩きながら、盗賊討伐依頼を中心に請け負う生活をしていたが、アストラテの街では黒狼族というだけで宿に軒並み宿泊を拒否され、更には裏の連中に付き纏われて鬱陶しく、拳と蹴りで黙らせていたところ、偶然、コーラルの目にとまった。普段は冒険者ギルドはギルド員以外は泊めないが、気に入ったから自由に使えと言われたお陰で、町中で野宿をするはめにならずに済んだのだ。更には飲食店や衣料品、鍛冶屋にも口利きしてくれたので、随分楽になった。
人相も口も悪いコーラルだが、一度気に入った相手には面倒見のいい親父といった感じで、世話になっているからグレイも出来るだけコーラルの頼みは引き受けていた。受けた恩は返さねばならない。
グインジエに来るにあたっても、コーラルが紹介状をくれたので、宿探しは楽になった。その代わりに、出来ればここの提督が若手だから、困っているようなら手を貸してやってくれと頼まれていた。
それで何回か海軍からの調査協力といった依頼を引き受けているうちに、提督のサマルとは共に酒を飲む程度の付き合いになった。
最初はコーラルの紹介だからサマルがグレイを差別しないのかと思っていたが、どうもそういう性分なだけらしかったので、付き合いやすい男だった。街周辺の盗賊討伐や、時にはモンスター退治などの金になる仕事をよく回してくれる上得意だ。
ただ、グレイは海より陸の方が強いので、海賊討伐依頼は二度程しか回ってきたことがない。勝手が違うので、慎重に考えてしまう。
海賊の討伐は、海軍の方が強いのは当然だ。小島などに補給に立ち寄った海賊を待ち伏せして一網打尽にしたり、時には夜襲を仕掛け、数でおす戦い方をするのだ。
今回は、商船の振りをして寄港している海賊船を、陸を離れてすぐの沖で叩くつもりなんだそうだ。
ただ、グレイは盗賊の根城に一度乗り込んでさえしまえば、スピードでもって撹乱しながら倒せてしまう。船は岩場砦や砂漠、町中と違って逃げられる心配もない。最近、別の海賊団と戦った所で兵力が少なく、犠牲を出したくないからと、アストラテで功績を上げているグレイに依頼が来たというわけだ。
(付き合いってものがあるからな、請けておくか)
グレイは協調性に欠けているのを自覚しているが、この程度ならば煩わしく思う範囲ではない。
そして、依頼に受けるとの返事をしたその日から、海軍と合流し、共に動きが出るのを待つことになった。
夜闇に紛れて出航した船が沖に出ると、グインジエ沖の小島の影に隠れていた官船は移動を開始した。
船乗りは夜中に出港することはない。うっかり浅瀬に乗り上げることがあるかもしれないし、小型の漁船にぶつかるかもしれないせいだ。
海の真ん中にいる時は、星を目印に方角を確認出来るからむしろ都合が良いけれど、どちらにしろ夜は休息で碇を下ろすだろう。
商船扱いで疑いの目はないと油断している所へ、一気に襲撃をかける。乗っている海賊が札付きの連中ばかりだったので、念の為に官船三隻で襲撃する。
一番船が航路の前に出て動きを封じ、三番船が退路を防ぐ。方向転換しようとして緩やかに反転した海賊船の横腹に、二番船が体当たりを仕掛けるようにして横づけする。それとほぼ同時に、グレイは海賊船に飛び移った。
あとはグレイの独壇場である。
漆黒の衣は闇に紛れて身を隠し、武器を手にして対応に出てきた海賊達は訳が分からないままに仲間が殺されていき、それに怯えて時に同士討ちすら引き起こす。
船長を含めて船員達を皆殺しにすると、グレイは最後に貨物室に向かった。グインジエで何を仕入れたのかを確認する為だ。それに隠れている海賊がいるかもしれない。
貨物室の階段をゆっくり下りていくと、気配があるのに気付いた。しかし殺気のようなものはない。闇の中、青い目が爛爛と光っている。
正体不明のそれを確かめるべく、ジッポライターの火を灯すと、鈍い明かりの中に浮かび上がったのは、小さな檻と、そこに入れられた子ども、そしてその子どもの手にあるポイズンキャットだった。
「子どもと、ポイズンキャットか……」
呟くと、ハルバートを凝視していた子どもがポイズンキャットを更に腕に囲いこんだ。グレイに怯えているのは、こちらから出来るだけ距離をとろうと檻に背を押しつけているのからも分かる。
その目が黒く、そして恐れを含んで揺れているのにグレイは気付いた。
(〈黒〉か、なるほど……)
カラーズの中でも盗賊に狙われやすいのは、〈青〉と〈黄〉と〈黒〉だ。〈青〉は治療師として、〈黄〉は石を持たせているだけで魔石になる為に金づるとして、〈黒〉は魔物避けとして。特に海賊は〈黒〉を手元に欲しがる。海に出るモンスターの害から身を守るには、絶対に必要だからだ。
「こいつは、モンスターだけどモンスターじゃない。悪くないんだ。殺さないでくれ」
怖いのだろうに、子どもはそう言ってポイズンキャットを庇った。
モンスターだけどモンスターではないという言い回しがよく分からなかったが、悪くないと言いたいのだろう。
〈黒〉がいるならモンスターは大人しいはずだから、放置してもいいかと考える。しかし気になることもあった。
「お前自身のことは言わないのか」
何度かさらわれた人間を助けたことがあるが、こういう場面で自分の身を優先させない者は珍しい。興味が惹かれた。
「俺、あんたに殺されるの?」
慎重な声が問う。
「……お前が海賊の仲間なら。だが、仲間なら檻には入れないから違うだろう。だから殺さない」
明確に答えると、更に問うてくる。
「こいつも殺さないか?」
「害をなさない限り」
その返事でほっと肩の力を抜いた子どもは、しかしすぐにまだ信用出来ないと思い直したのかまた肩に力をこめる。
(害のあるにおいもしないしな……)
他ににおいもないし、生存者はこれで最後だろう。
グレイは子どもを檻から出してやると、荷を改め始める。モンスターを腕に抱えて所在なげに立ちつくしている子どもの名は、ツカーラ=シューターというらしい。シューターの方が名のようだ。
“名を呼ぶ”気はなくても、名を聞くのが一族での礼儀作法なので聞いたが、不思議な発音の名前だと考える。この名の並びは、きっとスオウ国からさらわれてきたのだろうと見当をつけた。
オーガーの群れに襲われたり、子どもの連れが変人でリコと役目を代わって子どもが官船にいることになったり、アストラテに着いたところで子どもが魔法を使った反動でぶっ倒れたりして、サマルに子どもの護衛を頼まれた。
「グレイの旦那、申し訳ないんだけどグインジエまで今すぐ戻るというわけにはいかなくなった。グインジエまでの旅費と報酬を払うから、ここでお役御免にしてもいいかな? ついでに護衛金を出すからさ、あの子どもをグインジエまで護衛してやってくれないかい?」
アストラテはオーガーの引き起こした津波のせいで惨憺たる有様だった。サマルは一ヶ月近くはここで働くことになるかもしれないと言って詫びた。この忙しさでは子どもの面倒を見ている余裕はないだろうから、そう頼むのも分かる。
「俺は護衛は専門外なんだがな」
「分かってて、他に頼める人がいないから頼んでるんだよ。ほんとお願いします!」
パンと手を合わせ、頭を下げるサマル。
こいつ本当に腰が低いよなと感心半ばに思いつつ、仕方ないなと返す。
「いいの!? ありがとう! ほんっと助かるよ~。ただでさえ人手が足りてない所に、この災害だろ? グレイの旦那が一緒で良かった。海賊にさらわれた直後に救出された、怪我が皆無の被害者って珍しいからね、出来るだけちゃんと面倒見ないと、バチが当たっちゃうから」
船乗りらしく迷信を口にして、サマルはにっと笑う。
「でも旦那、大丈夫かな? あの子、熱出してるんだけど。ほら、黒狼族って看病って出来ないでしょ?」
「動かさないようにして寝かせとけばいいんだろう?」
「あと飲み水を用意してやって、食べ物もスープ系にしてやって。香辛料入りは駄目だから」
「……分かった。コーラルの旦那に相談する」
「それが賢明だね」
各地から海軍が救援に来ているのを考えると、噂のバカ王子が来るかもしれない。どちらにしろ、コーラルの所に身を寄せた方が良さそうだ。
そんな訳で、グレイは子どもを連れ、アストラテの冒険者ギルドに向かった。
自力で立てない程に消耗している子どもと話しながら、グレイは冒険者ギルドに向かっていた。
どうも子どもは黒狼族がどういうものか分からないらしかった。
人間じゃないの? と聞かれたのは初めてだったので驚いた。いったいどんな僻地で育ったのだろう。スオウ国生まれだとすると、あの国は〈黒〉を夜御子と呼んで大事に神殿に住まわせるというから、神殿育ちなのかもしれない。それか、黒狼族もいないような大陸南部の僻地か。
若干、気だるげで落ち着いた空気をしているし、大人びて知的な物静かさをしている子どもだ。育ちの良さを考えると貴族の子弟という考えも捨てきれない。
貴族の子どもだったら面倒臭いことになりそうだなとちらりと考えるが、貴族特有の鼻もちならない態度は一切ないから、どういった立場にいた子どもなのかさっぱり分からない。だが着ている服は上等だ。
グレイは心中で推測しながら、市街を駆け抜ける。オーガーの生臭いにおいにうんざりしていたが、ようやくオーガー出没地の外に出たことで速度を緩めた。やがてコーラルのいる冒険者ギルドに辿り着き、話をして置いてもらえることになった。
寝込んだ人間の面倒の見方など知らないから、正直、かなり助かった。
自分が面倒を見れないせいで、子どもを死なせるのは寝覚めが悪いし、倒れた原因が、群れで襲いかかってくるオーガーのせいで船が沈められるのを防ぐ為に力をふるった為なのだから、ある意味、グレイも助けられているのだ。
「お前が俺を頼りにするなんざ珍しいと思えば、看病の仕方が分からねえからかい。もっと大物持ってきてもいいんだぞ?」
子どもの世話をコーラルに頼むと、コーラルは長椅子にどっかりと座り、煙管の煙をくゆらせながら言った。どこかつまらなさそうだ。
「旦那には充分に手を借りている。これ以上借りたら、返しきれない。子どもの世話だって、何か対価を払うから言ってくれ」
コーラルの自室、テーブルや長椅子などが置かれた居間に近い部屋では、長椅子で子どもがこんこんと寝ている。背中から下ろしてやって、長椅子に寝かせた途端、今まで起きていたのが嘘みたいに深い眠りに落ちてしまった。熱が出ているらしく、ときどきうなされたりしている。
「そうかい。それなら、駄賃に酒を買ってきてくれ。蛇酒がいいねえ。黒瓶のやつだ」
また上物を頼むな。遠慮の無さに呆れたが、コーラルはいつもこんな感じなので気にしない。
「分かった」
「すぐ右手にある酒場に行け。あそこでしか扱ってねえからな」
「ああ」
グレイは一つ頷いて、すぐに部屋を出て行った。
酒場に出向いて酒を手に入れると、サマルから貰った子どもの護衛金が全て消えた。金には困っていないのでグレイは特に気にせずにギルドに戻る。
コーラルの部屋の扉をノックして開けると、子どもが起きていて、怯えたようにグレイを見て、誰か分かるなり安堵したような仕草を見せた。そのことに片眉を跳ね上げると、コーラルも気付いたようで、取り成すように言った。
「なんだい、賊狩り。遣いは済んだのかい」
軽く頷いて、酒を放る。
「旦那の頼まれ物は買ってきた。ほらよ」
「おう、これだこれだ。子守りの駄賃としちゃ十分だね」
重みのある瓶を軽々と受け取ったコーラルは機嫌良く言い、小間使いを呼んでグラスを持ってこさせると、瓶の中身をすぐにグラスに注いで飲み干す。美味い! と膝を叩くのを、相変わらずの酒好きだとグレイは呆れを含んで見る。グレイは酒は飲むが、酒好きというわけではない。酒に強すぎる体質のせいで、酒飲み潰しといわれるような蛇酒でほろ酔いするかという程度なのだ。酔うのを楽しむというより、香りと喉を焼く刺激を楽しんでいるというだけである。金の使い道を思いつかないから、その辺で適当に消費していると言ってもいい。
その後、グレイはコーラルとサマルの想い人であるリコの話で軽口を叩きあっていたが、そこへコーラルの部下がノックもせずに部屋に飛び込んできた。
第三王子来訪の話に眉を寄せる。タイミングが悪い。
やがてやって来た第三王子ザダックは、噂通り、傍若無人な我儘男のようだった。ろくな育ち方をしていないように見えるが、武人としての力量はあると見えた。だが、将というより、傭兵向きな態度のように見えた。ザダックの家臣達が気の毒に思えた。
ザダックは子どもに用があるようだった。
子どもは見るからに顔色が悪く、今にも倒れそうな状態だったが、グレイは子どもを長椅子から下ろすと、自分の隣で頭を下げさせた。レステファルテの王族は気位が高い。例え相手が病人だろうと、低頭しない者は無礼だとして手討ちにするのが普通だ。
ザダックはコーラルが子どもを庇ったことで子どもに興味を失い、今度はグレイに興味を持った。黒狼族嫌いだったようで、グレイをゴミ扱いして魔法で燃やそうとしてきた。
一瞬、反撃に出ようかと考えたが、そうした方が面倒臭くなるので、仕方なく耐えようと平伏の姿勢のまま奥歯を噛みしめる。幾ら痛みを我慢出来ても、魔法への耐性がないので、しのいだ後にギルドの治療師の元に直行だなと避難ルートも頭で組み上げる。
――しかし、想像していた痛みは来なかった。
動揺したらしき子どもが一瞬だけ頭を上げたのに気付いていたので、何が起きているのか分からないものの、子どもの頭を押さえつけて顔を上げないようにする。
「無効化……。てめえか、ガキ! 俺の邪魔をするとはっ」
ザダックが何かわめいている。
(無効化? 子どもの魔法か?)
どうやらまた助けられたらしい。
やがてコーラルが静かに怒り、ザダックを部屋からそれとなく追い出した。部屋の扉が閉まるなり子どもから手を放して顔を上げ、グレイは僅かに目を瞠った。
美しい青の光が、球状の不思議な紋様をえがいて、グレイと子どもを包んでいた。
よろよろと身を起こした子どもは、その光景に恐れを抱いた様子で身を引いた。
「なにこれ」
「お前の魔法だろう、シューター」
奇異なことを言う。
「あの王子の魔法を無効化してくれて助かった。避けても良かったが、ああいう、無駄に権力をかさにきた連中は、甘んじて攻撃を受けないとつけあがるから面倒なんだ」
受けたら受けたで面倒だし。とにかく面倒。
グレイはそう締めくくり、本気で面倒臭いと内心でぼやく。貴族は好きではない。面倒しか持ちこまない存在だ。
唖然と座りこむ子どもの頭に、何となくぽんと手の乗せる。父親がときどきこんな仕草をしていたので、なんとなく弟子にもこんなことをしてしまう。子ども扱いするなと怒る態度がほとんどだったが、子どもは単純に驚いた様子でぽかんとグレイを見上げた。
「やはりここに来て正解だったな。コーラルの旦那くらいだ、この町であのバカ王子を追い払えるのは」
「ギルドマスターってそんなに偉いのか?」
「町の規模にもよるが、力はある。ただ、コーラルの旦那は前代の宰相で、引退してギルドマスターの役を請け負ったんだ。現国王の信も厚く、王族でもおいそれと手出し出来ない」
だから、コーラルの力は強い。レステファルテ国内の貴族でも太刀打ちできない程に。
グレイは丁寧に教えてやりながら、胸中で眉を寄せる。子どもの顔色は悪くなる一方だ。魔法の使いすぎで倒れたのに、未だに魔法を使い続けているせいだろう。
「……いい加減、魔法を解除しろ。顔色が最悪だぞ。気付いていないのか?」
「そう言われても、どうすれば解除出来るか分からない……」
まさか魔法の扱いすら不慣れとは思わない。
気持ちが悪そうにうつむく子どもを見て、グレイは短く息を吐く。このままにしていては危険だろうというのは、魔法に明るくないグレイにも分かる。実力行使するしかないかと決意する。
「――後で恨むなよ」
一応、その一言だけ付け足して、子どもの首裏に手刀を叩きこむ。
子どもはあっさり気絶して、前のめりに倒れた。それを受け止めると、抱えあげて長椅子に寝かせる。
「まったく、強いのだか弱いのだか分からん子どもだな……」
こうしていると弱々しくしか見えないのだが……。
「無意識に庇う辺り、性質は良いのだろうな」
海賊船で子どもを助けた時のことを思い出す。あの時もそうだった。ポイズンキャットの方を庇っていた。
経験上、こういう者の方が短命なのだよなとグレイは胸中で呟いて、何となく複雑な気分になった。
バカ王子のような者は長生きする場合が多いのだから、世の中、不合理に満ちている。
何となく気にかかり、グレイにしては珍しく、寝込む人間を何度か様子見にやって来ていたが、子どもはずっと眠り続けていた。一日経っても寝たままなので、寝ているように見えて実は死んでいたりするんじゃないかと少々不安を覚えたが、疲労がたまると人間はそういう風に寝ることもあるらしい。なんて心臓に悪い奴らだと思っていたところ、ようやく子どもの仲間が戻ってきたので、やっと安心して離れられた。こんな脆くてあっさり死にそうな者の側にいるのは冷や冷やする。
そんなグレイを見て、コーラルがにやにやとからかい混じりの笑みを浮かべた。
「なんだい、賊狩り。珍しく怖気づいた態度しやがって」
「……怖気づく?」
「何だ、気付いてなかったのか。お前、あのガキが心配なんだろう?」
「……心配?」
恐れや心配という感情がどういうものかよく分からず、グレイは僅かに首をひねる。コーラルは煙をふーっと吹き出すと、「かーっ」とうなって膝を叩く。
「お前、前っから感情が希薄な野郎だとは思ってたが、本気で分からねえのかよ。じゃあ何でまた、そんなにうろうろと様子を見に来てたんだ?」
「簡単な理由だ。寝ているのではなく死んでいるのではないかと思って確認に来ていた。俺達はあんなに眠らない。あんなに眠るなんて、死んでいる奴くらいだ」
「……ああ、そういうことかい。何度も言ってるが、人間は睡眠を取ろうと思えば幾らでも取れる。納得してたんじゃねえのか?」
「分かってはいるが、実際に見ると本当にそうなのか疑問に思う」
コーラルは溜息を吐く。
「だからな、そういうのを心配するって言うんだよ。覚えときな」
「そうか……。だが、怖気づくとは?」
「心配と恐れってのは似てるもんだ。失うのを恐れるから心配する。つまり、今のお前は、あのガキが死んでいそうで“怖かった”から、“心配”してるってことだ」
「そういうものなのか?」
「そういうもんなんだ」
どこか疲れたように首を振るコーラル。
ふぅん。グレイはそっけない返事を返す。
「そういう方面の心配とやらは初めてだな。馬鹿すぎる弟子の将来に不安を覚えたことはあるが……」
「まあそれも心配の一貫だが……。お前がそんなに思う程にひどいのか、そいつ」
「ああ。あんなに不安を覚える同胞はそいつくらいだ」
「……そりゃまた面白い」
かかかと笑うコーラル。
そうしてひとしきり笑ってから、コーラルはふうと煙を吐き、ちらりとグレイを見た。
「ところでお前、弟子なんかいたのか」
「いるぞ。四人ばかり」
「そりゃいいね。お前みたいなつまらねえ奴にも師匠が務まるなんて、勇気が湧いてくるよ」
「余計な御世話だ」
本当に、この駄目爺は口が悪い。
結局、なんだかんだとあって、子どもやその仲間達と共に旅をすることになるのだから、人生とは何が起きるか分からないものだ。
……end.
グレイを一言で表すなら「無味乾燥」。
感情に乏しいとか無表情とか大好きです。一作品、どこかに一人はそんなキャラがいます。
シークはグレイの中では散々な評価です(笑
ここまで書いてみて、だんだん、グレイの感情表現が掴めてきたような気がするダメ作者です……。難しいよ、グレイ!