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皇妃候補は麗しく  作者: 河野 る宇
◆第3章
7/8

*聖母と鬼神

「紹介がまだだったな。俺はカシアス」

「カシアス……カシアス・アーロンか」

 ぴくりと反応し、その存在感を際立たせる。

「!」

 表情が見えないレオンにも、彼の怒りが見て取れた。

「ほ、俺を知っているとみえる」

「誰……?」

「殺しを専門とする傭兵だ」

「え!?」

 青年の問いかけに応えたベリルの瞳がさらに厳しくなる。

「随分と殺し回っているようだな」

「何を怒ってるんだ? やってることはお前と同じだ」

「同じにしてもらっては少々困るのだがね」

 静かだが、その声にえもいわれぬ怒りが感じられてレオンは息を呑んだ。

「いくら死なないと言っても、動きを止めることは出来るよなぁ」

 男は懐からナイフを取り出した。

「ソファの後ろへ」

「わかった」

 起伏無い物言いに従い、青年はソファの背に身を隠す。それを尻目に確認し、ジーンズの裾からナイフを取り出した。

「……ベリル」

 さっき撃たれたばかりなのに……青年はそっとのぞき込み、彼の背中に苦い表情を浮かべる。

 カシアスという男も、それを見越して闘いを挑んでいるに違いない。いくら強いと言ってもベリルは回復したばかりだ、しかも体格差からいってカシアスが有利なのは明らかだろう。

 しばらく見合っていたが、先にカシアスが素早く近づくとナイフを走らせた。

「!?」

 しかし、目の前にいたはずのベリルの姿が無い──男はすかさず視線を下に向ける。そこには、エメラルドの双眸そうぼうが無表情に自分を見上げていた。

「っ!?」

 冷たい宝石に息を呑む。

「貴様の動きは読みやすい」

 カシアスはベリルの怒りを読み取れなかった。感情を表さない瞳の奥にある、その激しい怒りを──

「がっ!? あ……」

 飛び退こうとしたカシアスの胸にナイフが深々と突き刺さる。

「貴様には、泣き叫ぶ子どもの声が聞こえないのか」

 力なく寄りかかる男に、ささやくように発した。

「ぐっ、う……殺しに違いなど、あるものか」

 重く床に倒れ込んだカシアスを見つめて眉をひそめる。

「殺しに違いは無い。だが、命には違いがある」

 目を細め、噛みしめるようにつぶやいた。

「ベリル……」

 目を伏せている彼にゆっくり近づく。彼は無表情に死体を見つめているが、心の中で泣いている……レオンはそう感じた。

「命の……違い」

「本来ならばあってはならない」

 だが、この男を生かしておく価値などあるだろうか。金のために罪もない人々を殺めていくこの男の命は、そんな人々と同じだといえるだろうか。

「もしも命も同じように回っているのだとするならば、この男の命は別の誰かに受け継がれる」

 そう思いたい。

「!」

 突然、後ろから優しく抱きしめられた。

「泣かないで、今は俺が支えるから」

「……」

 伝わる温もりは性別など関係もなく、彼は静かに青年の腕に手を添えた。

『殺めなければならない命がある』

 それに憂いて目を伏せる。

 いつか、私を必要としない時代が来るのだろうか……それは願い、それは祈りだ。

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