*憂い
「ごめん……」
うつむいて抱きしめていた腕をゆるめる。
「お前の望みは叶えられん」
「うん、解ってる」
無言でうつむく青年を一瞥し、服を着る。着終わる頃には青年の気分も多少、戻ったのか顔を上げた。
「いつから不死なの?」
「25からだ」
「えと、25ってどれくらい前……ハッ!?」
それを聞いたら今、彼が何歳が解ってしまう!? 歳を聞くのはなんか怖い!
ベリルは、半笑いのまま固まった青年に目を据わらせる。青年は頭を振って気を取り直し、再び問いかけた。
「ど、どうして不死になったの?」
「色々あってね。まあ偶然というやつだ」
「ぐ、偶然? へえ……あ」
少し大きめの服を整えてリビングに向かうベリルの後を追う。
「ベリル──っ! ……?」
部屋に入り、何か言いかけた青年を手で制止する。険しい表情を浮かべて辺りを窺い、窓に目を向けた。
「逃げなかったのか」
「え?」
体勢をやや低くして青年を自分の背後にし、無表情な声色ながらも強く発する。
「いるのは解っている」
すると──
「!」
中庭が見える窓が静かに開かれて、ゆっくり入ってきたのは先ほどレオンを襲った人物だ。
「お前は!」
「勘が良いな」
「衛兵! えい……っ」
青年が兵士を呼ぶのをベリルが無言で止めろと示した。
「どうして……」
「また逃げられるのがおちだ」
侍従の恰好をしているが、その鋭い眼差しは戦いをくぐり抜けてきた者の目だ。
「何故、彼を狙う」
「報酬がよくてね」
固い黒髪にブラウンの瞳の男は薄笑いでベリルを見つめる。
「なるほど」
予想通りの答えに同じく薄笑いを返した。
「お前からは憎しみは感じられなかった」
「ご名答。独裁国家には暗殺はつきものだろ」
「お、俺の国に反乱分子がいるっていうのか!?」
「まだお前の国じゃないだろ」
男はスパッと言ってのけた。
「アサシン……ナイトウォーカーか?」
「残念、暗殺者でも盗賊でもないよ」
口の端を吊り上げて応えると、ベリルに睨みを利かせる。
「さっき、そいつがベリルって言ったな。もしかしてお前『死なない死人』か」
「死なない死人……?」
「私にはいくつか名前があるようでね」
後ろから怖々と問いかけた青年に応えながらも、男から目は離さない。
「実際にお目にかかれて光栄だ。どうりで一発、胸に当たったはずなのに平気な訳だ」
「どうするね」
諦める様子の無い男に訪ねた。