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皇妃候補は麗しく  作者: 河野 る宇
◆第2章
5/8

*虜

 彼の胸を見て青年は呆然とした。血が流れている様子がまるで無く、先ほどよりも元気に見える。

「どういうこと?」

 目を丸くしている青年に小さく溜息を漏らし口を開いた。

「私は不死なのだよ」

「不死!?」

 何それ!? と思ったが……

「じゃあ、死なないんだね」

「うむ」

 彼の声に青年はホ~っと胸をなで下ろした。

「良かった」

 うつむいてぼそりとつぶやいた青年に目を細めたが、次の行動で眉をひそめる。

「なんの真似だ」

「折角なんで」

 ベリルの横に寝ころび彼に腕枕をして、ギュッと抱きしめる。

「離せ」

「嫌だ」

 無理矢理、引きはがそうとしたベリルだが悲しそうに見つめるレオンの瞳に、その手を止めた。

 回復するまでは仕方がないとスルーを決め込む。しかし、青年は抵抗しなくなった彼をグイと引き寄せた。

「っよせ!」

 制止も虚しく唇を奪われる。痛む体で抵抗していたが、深いキスに手に力が入らなくなった。

「……っ」

 ど、どいつもこいつも……私をなんだと思っているのだ! 痺れるような感覚の中、ベリルは怒りをふつふつとたぎらせていた。

「……はっ」

 ようやく解放されて息を吐き出し、青年を睨み付ける。

「いい加減にせんか」

「ベリルって抱き心地いいね」

 やっぱり無視かこのやろう。腹は立つが、まだ回復していないだるい体を起こすのは面倒だ……とベリルは溜息混じりに、青年の我が儘に付き合ってやる事にした。

 心臓の音に目を細めるベリルを静かに抱きしめる。

 しかしふと──

「不死……?」

「ん?」

 ぼそりとつぶやいた青年に顔を向けた。

「不死ってホント?」

「今頃か」

 事の重大さにようやく気が付いたらしい、ベリルを見る目が点になっている。

「うっ?」

 このまま説明しろというのか……身を起こそうとしたが引き留められ眉間にしわを刻む。

「不死って、不老不死?」

「そうだ」

 しばらくの沈黙──

「もしかして、見た目通りの歳じゃないとか?」

「聞きたいか」

「いい、聞かないでおく」

 聞くのが怖い……半笑いを返し、ふと思い起こす。

「もしかして正室になれないのって、それが理由とか?」

「それ以前の問題だと考えないのか」

 確かにそれが一番の問題ではあるのだが、それがなくても願い下げだ。

「じゃあ、愛人に……」

 言い切る前に制裁が加えられる。

「!? つぅ~……」

 青年はスネを蹴られて悶絶した。

「!」

 起き上がった彼に少し悲みを向けるが、これ以上我が儘には付き合ってくれそうもない。

「! あ、服……着替えた方がいいね」

「ん? ああ」

 傷は治るといっても、流れた血まで消える訳じゃない。胸の辺りは流れた血でべっとりだ。

「こっちに洗面台があるから、そこで体を拭いて。タオルは自由に使ってよ」

「すまんな」

「命の恩人がなに言うの」

 笑ってクローゼットを開く。


 ベリルは洗面台の鏡で銃弾を受けたヶ所を確認した。まだ少し傷跡があるが、あと1時間もすれば消えるだろう。

 しかし、銃弾が貫通した軌道の破壊された内部は回復にもう少し時間がかかりそうだ。

「……っ」

 タオルを濡らし血を拭き取っていく、その痛みに顔をしかめた。

「これ、俺の服だけど」

「ん、そこに置いてくれ」

 服を持って入ってきた青年に応える。

「なんだ」

 自分を見つめるレオンに怪訝な表情を浮かべた。

「やっぱ格好いいなと思って」

「! よせ」

 青年は静かに近付いて後ろから抱きしめた。

「何もしないから、このままでいさせて」

 レオンはベリルの温もりに浸った。

 やっぱり諦めたくない……ベリルを好きになったのは衝動でも気まぐれでもない。彼に見つめられて、そのエメラルドの瞳に吸い込まれそうになった。

 何もかもを見透かされているような、何もかもを許すような……そんな愁いを帯びた優しい瞳。

「このまま、君を閉じこめたい」

 耳元でささやくように青年は発した。

 鏡に映される青年の表情には、少しの狂気が宿していた。

「!」

 しかし同時に、映っているベリルの瞳に毒気どくけを抜かれる。

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