*急襲(きゅうしゅう)
「俺の正室になる人です! 絶対に渡しません」
「いくらなんでも正室を男にするのは止めなさい。私に渡せばいいのです」
この国の皇族は一夫多妻制だ。血筋を絶やさないためのものだが、さすがに男性を正室として迎えた者はいない。
「!」
2人のやりとりをはしばらく眺めていたベリルの耳に、カチリ……という微かな音が聞こえた。
視線をゆっくりとそちらに向ける。
視界の先には部屋の扉があり、静かに開かれていく──それに気付いたのはベリルだけだ。
「?」
音もなく開かれる扉を、怪訝な表情で見つめる。
「!」
そんな彼の目に入ってきたのは、消音器を取り付けた銃身だった。
「伏せろ!」
「えっ!?」
「何っ!?」
ベリルは声を張り上げながら、扉の人影に駆け寄った。軽い破裂音が2~3度して、銃弾がレオンめがけて放たれる。
「きゃあぁ!」
「! なんだ?」
「レオン様の部屋からだ」
レオナの叫び声で、外にいた侍女たちや衛兵たちがざわついた。
「ベリル!」
拳銃を持った男と対峙しているベリルの名を呼び青年は見つめる。相手はレオンを狙うために必死だが、それは動きの予測も付けやすくなる──
「チッ」
持っていた男の武器を蹴りで弾くと、舌打ちをして逃げていった。
「ふむ……」
小さく溜息を吐いて、ハンドガンをゆっくり拾う。
「皇子! お怪我はっ!?」
それから、ようやく衛兵が駆けつけた。その衛兵にハンドガンを手渡して、再び小さく溜息を漏らす。
「……ベリル」
「どこの国にも、ああいう手合いはいるものだな」
駆け寄ったレオンにつぶやき、震えているレオナに近づく。
「心配ない。もう誰もおらんよ」
「怖かったわ」
「部屋に戻って少し眠った方が良い」
抱きつこうとした彼女に優しく発した。
「そうね」
足取り重く部屋から出て行く。
「私は帰らせてもらう」
「! ベリル」
引き留めようとベリルの右腕を掴んだ刹那──
「!? ベリル!?」
ガクンと折れるように彼が片膝を付いた。その顔は痛みに歪んでいる。
まさか弾が当たったんじゃ!?
「早く医者を!」
「! だめだ」
医者を呼びに行こうとしたレオンの腕を掴んで制止した。
「なんで……っ!?」
そうしている間にも胸の辺りがみるみる血でにじみ、苦い表情のベリルと胸を交互に見やる。
「死んじゃうよ……」
「死にはしない。少し、休ませてくれないか」
今にも泣き出しそうな青年に笑みを浮かべた。
「こ、こっち」
震える声で彼を寝室に案内した。