『幸せについて考えて』
幸せなんて人それぞれ。
そんなことは知っている。
でも、君の幸せと
あたしの幸せが
少しでも同じであったなら
これほど幸せなことは無いと
あたしは思うんだ。
◇
「ねぇ、秀くんにとっての幸せって、なに?」
あたしの名前は、高木 玲。
みんなからはレイって呼ばれてる。
これでもロマンチックなあたし。君の幸せについて聞いてみた。
「んあ?」
君の情けない声が返ってくる。
あたしたちが付き合うことになったのは、本当に奇跡で。
二年前に恋愛に興味ないっていう感じの君が、突然あたしに告白してきた。
理由を聞くと、『なんとなく、好き』だって。
「秀くんの幸せって、なに?」
恋愛沙汰には、とことん疎い君――津村 秀彦。
これでも、あたしたちは付き合っているの。
「幸せね〜、なんだろうなぁ〜?」
今いる場所は、大きな公園にある広場の中。
青く茂った芝生に寝転がっている君と、そこにお尻をついて座っているあたし。
天気は良好。気温・湿度ともに適度で、心地よい午後二時。
暖かい日差しの中で、あたしたちは日向ぼっこをしていた。
「……なんて言うか、漠然としてて、言葉にするのが難しいな」
寝転がっている君が、上目遣いであたしを見る。
答えに困っている顔をしている君に、あたしは笑いかけた。
「あたしも。幸せの答えって、正解なんてあるのかな?」
幸せって、何だろう?
昔から考えているけど、答えに辿り着いたことは一度も無い。
だからこそ、君に聞いてみた。
「幸せが欲しい人は……手を広げて、集めるものなのかな?」
あたしがそう尋ねると、君は少し考えるように少し唸った。
そしてゆっくりとした口調で言う。
「そういう人もいるんじゃないかな。でも……」
君の言葉に耳を傾けるあたし。
恋愛には疎いけど、頭は良い君。
胸に期待を膨らませて、君の言葉を待っていた。
「俺は違うな。幸せって、欲しがるんじゃなくて、勝手にやってくるものだと思う」
君は寝転がっていた上半身を起こす。
そしてあたしに向き合って、続けた。
「もちろん少しは努力しなくちゃ、幸せなんて来ないけどさ。」
笑顔をこぼす君。
あたしも釣られて笑ってしまう。
「レイは幸せってどんなものだと思う?」
「……あたしは…」
……幸せ…かぁ。
お金がたくさんあること?
偉い人になること?
どれもこれも、なにか違う気がする。
「………なんだろうな……、分からないや」
「じゃあ、こういうのは幸せ?」
そう言うなり、君はあたしに抱きついてきて。
突然のことにあたしの思考回路は完全にオーバーヒート。
頭の中がこんがらがって、体温だけが上がっていく。
「な、な、ななな…!?」
君の匂いを感じる。
それが心地よくて。
あたしも、君の腰に手を回した。
「……幸せ?」
君が尋ねる。
あたしは無言でうなずいた。
声を出したら、上ずってしまいそうだから。
「俺も、幸せ」
君の声。
君の匂い。
君の感触。
それら全てを感じ取れて。
あたしは……幸せ。
確かに、幸せって感じてる。
あたしは、今、紛れも無く、幸せ。
「なぁ、レイ。そろそろ、離してくれる?」
君の声にハッとした。
長い間抱き合っていたようで、周りの人たちの好奇の視線を感じる。
あたしには、それが一瞬のようで。
「あ、ゴ、ゴメン!」
とっさに離れる。
君の顔はとても赤くなっていて。
君も幸せを感じていたのかな?
もしそうなら、あたしの幸せと君の幸せは…。
「……結構恥ずかしいな、こういうの」
君が照れたように言う。
「う、うん。そうだね」
あたしも素直に返す。
きっとあたしの顔は真っ赤に違いない。
「………ね、レイ?」
「なに?」
「も一回、やっていい?」
君は赤い顔を更に赤くして。
あたしに体温も更に上がって。
恥ずかしい。でも、断れない。
断りたくない。あたしも君を抱きしめたい。
「うん」
今度はゆっくり近づいてくる君。
そして静かに、あたしの背中へと手を回す。
君の体重がのしかかって。
上半身だけを起こして座っていたあたしは、地面に倒れこんで。
君があたしの上に覆いかぶさるようになって。
お互いに抱き合った。温かい。
君のぬくもりを感じる。
「ドキドキしてる?」
あたしが君の下からそう聞く。
「めちゃくちゃ」
あたしの耳元でそうつぶやいた。
そう言ってくれると、あたしも嬉しくて。
「あたしも、すごくドキドキしてる。こんなの……初めて」
あたしは感じた。
幸せのカタチを、確かに感じ取った。
君といること。それがあたしの幸せ。
君の幸せは……あたしと少しは同じかな?
こんな風にして、お互いを感じあっている。
そこに幸せを感じるなら、あたしと君の幸せは、きっと一緒。
大好きな人と一緒に感じられる幸せ。それは、とっても大事なもので。
「好きだよ、レイ。なんとなくじゃない。……お前が、大好きだ」
「あたしもだよ。大好き、秀くん」
幸せは、手を広げて求めるモノじゃない。
きっとそれは近くにあって。それに気が付かないだけで。
あたしはそれに気が付いた。
幸せを、この手に握り締めた。
あたしの幸せっていうのは―――君といること。君を感じること。
それだけで、あたしは、幸せなんだよ。