『向日葵』
君はまるで
明るく輝く太陽のようで
燦々と照る君は
あたしに
笑顔と
恋を
教えてくれた
◇
あたし、工藤 向日葵。中学二年生。
名前からも分かるとおり、あたしは夏生まれ。
八月の中旬ごろに咲いていた大きな向日葵。
それがあたしの名前の由来。
そして、同い年で、
あたしが想いを寄せる君。
名前は、夏野 太陽。
君こそ夏に生まれたみたいな名前。
「お〜い、ヒマワリ〜!」
キミの声が聞こえてきた。
麦わら帽子をぶったあたしが振り向くと、君が元気に走ってきていた。
夏も中旬。あたしの誕生日も近くなってきていて、とても暑い日が続く。
そんな中を走ってきた君は、汗を少し流していた。
「どうしたの、太陽くん?」
首をかしげて、そう尋ねる。
君は頭の後ろを掻きながら、笑顔で言った。
「いや、用は無いんだけどさ、ヒマワリの後姿見つけたから呼んだだけ」
とても元気な君。
一緒にいるあたしも元気になるようで。
君は、いつもあたしを照らしてくれる。
「どこ行くの?」
「買い物だよ。今日の夕食の買出し」
家では、あたしが家事全般をこなしている。
実はあたしの家、父子家庭。お母さんは、あたしが小さい頃に亡くなっちゃってて。
今はお父さんと二人きりの生活なの。
「俺も手伝おうか、買い物?」
「えっ、本当!? そうしてくれたら助かるなぁ」
「じゃ、早速行こうぜ」
あたしと君が並んで歩いている。
並んでみると、あたしより背が高くて。
君の横顔が夏の太陽に照らされていて。
「ん? 俺の顔になんか付いてる?」
「あ、いや、なんでもない!」
慌てて頭を振る。
顔が赤くなるのが分かったから、あたしは少しうつむく。
君はあたしを不思議そうに見下ろしていた。
そのまましばらく歩いて、あたしたちは近所のスーパーに着いた。
「ヒマワリ」
「なに?」
「……こんなに買うのか?」
買い物かごを持った君。
あたしは君のかごの中に商品をポンポンと入れていく。
気がついたときには、かごの中は一杯で。
君の表情が疲労とかで、少し歪んでいた。
「あっ、ゴメン! 大丈夫!?」
少しだけ商品を棚に戻してから、あたしはレジを済まして、君と一緒に帰途に着いた。
外はもう夕暮れ時で。赤い太陽が西に落ちかけている。
君はあたしを見つめながら、つぶやく。
「……大変だよな」
「え?」
「ヒマワリが、だよ。俺と同じ中学生なのに、こんな家事とかやって」
あたしにとっては、それは苦痛ではない。
だって、昔からずっとこうだから。
でも君はそう言う。あたしは少し照れながら言った。
「お母さんがいないのは、あたしにとっては普通だし…。お父さんは仕事で忙しいから、しょうがないよ」
「それでもヒマワリはすごいよ。……俺に出来る事があったらなんでも言ってくれよな。出来る限りはやるからさ」
うん、とうなずく。
君は顔を少し赤くしている。
でも、あたしはもっと赤いだろう。
君は右手で買い物袋を提げている。あたしは君にとっての左側を歩いている。
あたしは、君の手を見て、つぶやいた。
「………じゃ、手……繋いでくれる?」
「え?」
君があたしを見つめてきた。
恥ずかしさのあまり、あたしは顔から火が出そうで。
うつむいて大きな声で言った。
「う、ウソだから!冗談だよ!気にしないで!」
気まずくて、あたしは歩くスピードを速めた。
でも、前には進めなかった。君が、あたしの手を掴んだから。
「た、太陽くん…?」
「ゆっくり……歩こうぜ」
夕焼けがあたしたちを照らしている。
まるで夢を見ているようで。握っている感覚が分からないほど、ドキドキしてて。
でも、君の手から伝わるぬくもりだけは、とても温かくて。
あたしたちは、手を繋いだまま、夕焼けの帰り道を歩いていった。
ねぇ、知ってる?
向日葵は夏に咲く花で、夏の太陽のほうを向いて育つんだよ。
あたしが向日葵で、君が太陽。まったくその通りで。
あたし、工藤 向日葵は
太陽くんが、大好きです。
いつかこの気持ちが、伝えられるように。
いつかこの気持ちが、君に届くように。