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『あなたを、想って』











あたしは、飯島 沙希



ただの女の子で



ただの高校二年生



それでも



一生懸命に



恋してます――

























 いつもあなたを見ていた。

 遠くから、離れた場所から。


 あなたを見ていると

 とても元気が湧いてきて

 胸が、おかしいくらいにドキドキして。


 一度だけ、席が隣になった事があったね。

 毎日が楽しくて、嬉しくて。こんなあたしでも、輝く事が出来た。

 あなたが気さくに話しかけてくれると、あたしは嬉しすぎて、うまく答えられなくて。

 そんな自分に自己嫌悪。せっかくあなたが話しかけてくれたのに。


「ねぇ、沙希〜?」


 あたしの友達。

 仲が良くて、いつも一緒にいる。


「そんなに好きなら、告白しちゃいなよ!」


 あたしは曖昧に笑ってみせる。

 そんな事が出来るのなら、どんなに幸せだろう。

 迷わず自分の想いを伝えられる勇気が持てたら、こんなに悩んでなんかいない。


 あたしとあなたは同じ委員会に入ってて。

 月に二回ある学級委員会。

 あたしは推薦で。あなたは立候補で。

 その時は、どれだけ嬉しかっただろうか。叫んで喜びたかったくらい。


「ねぇ、飯島さん?」


 クラスに残って、学級委員の仕事。

 その時にあなたが雑務をこなしながら、あたしに話しかけてきてくれた。


「飯島さんて、好きな人とかいるの?」


 心臓が、一瞬にして高鳴った。

 顔が熱くなっていくのが分かる。

 少しだけ、指を弄ぶ。そして頭を縦に振った。


「いるんだ?」


 あなたは笑顔になって、あたしに近づいてくる。


「誰か教えてよ?」


 言えないよ。

 言ったら、あたしがあなたの事好きだってバレちゃう。

 あたしはうつむく事しか出来なかった。


「あ、言いたくないなら、言わなくていいから!」


 あなたは慌てて、あたしを慰めてくれた。

 そんなあなたの心遣いが、嬉しくて。

 そして、あたしの勇気のなさが恨めしくて。


「でも、興味あるんだよね。飯島さんの好きな人」


 ――あなたです。

 と、そう言えたら、どんなに素晴らしいか。

 ――あなたが好きです。

 と、そう言えたら、どんなに素晴らしいか。


「わかったよ、俺から言うから、後で言ってよね。俺の好きな人はね……」


 あなたは笑顔であたしを見ていて。

 あたしは恥ずかしさで、目を逸らしてしまった。

 こういうあたしの意気地のなさを、自分でありながら、大嫌い。

 だけど、あなたはそんなあたしを気にせずに語り続けた。


「結構無口で、どこか悲しそうで。でも、笑顔がすごく可愛くて…」


 あなたは、とても楽しそうに話している。

 あなたが、あたしの気持ちに気づく訳ないけど、この話は、あたしには残酷すぎる。


「俺が話しかけても、うろたえるばっかでさ。だけど、たまに遠くで笑ってるんだ」


 あなたに好きと思われている人は、なんて幸せな人なんでしょう。

 でも、その人はあなたに好かれているとは自覚していない。

 その人が羨ましい。その人に嫉妬するあたしがいる。

 だけど、何も出来ないあたし。自分に対する嫌悪感だけが広がる。


「俺はその子を笑わせたいって思ってたら、いつの間にか好きになってた」


 あなたが頬を赤く染めている。

 でも、あなたを直視できない。

 あなたが、好きすぎるから。あなたが、こんな好きな人の話なんてするから。


「……分かった? 俺に好きな人」


 その問いに、あたしはゆっくりと頭を振った。

 そしてうつむく。そうしなければ、涙が出てしまいそうだったから。


「ああ、もう! 疎いっていうか、鈍いっていうか……」


 あなたは頭の後ろを、ガシガシと掻きながらそう言った。

 戸惑うばかりのあたし。あなたが何を言いたいのか分からない。


「よし、ぶっちゃけちゃおう!」


 あなたはあたしの前に立って、あたしを見つめてきた。

 あなたの瞳には、あたしの姿が映っているのが見えた。


「俺は、飯島 沙希さんが、好きです! ずっと前から好きでした!」


 ……。

 ………え?

 今、なんて、言った…?


「俺と、付き合ってください!」


 あなたがお辞儀をして、あたしに手を差し伸べている。

 あたしは、ただそれを見ているだけで。あなたの言葉を胸の中で反芻しているだけで。


「…………やっぱり、ダメ…?」


 あなたが、残念そうに手を引く。

 その瞳は悲しさに満ちていた。

 あたしは、緊張すると、何も言えなくなってしまう性格で。

 あたしの気持ちを言いたいんだけど、口をパクパクさせるだけで言葉が出ない。


「……ゴメンな、急にこんな事言っちゃって…。ただ、飯島さんが好きだってことは言っておきたくて」


 あなたは、寂しい笑みをこぼして、そう言った。

 違う。違うの! あたしは…あたしは!


「ホントに……ゴメン」


 あなたが後ろを向いてしまった。

 その背中がとても寂しそうで。

 気がついたら、あたしは、あなたに後ろから抱きついていて。


「………あたしも」

「え?」

「あたしも、あなたが、好き。大好きなの」


 大きな一歩を踏み出した。

 それはとても勇気のいる事で。

 あたしには一生出来ない事だと思ってた。

 でも、その勇気をあなたが与えてくれた。


 ――あたしたちは、共に、大きな一歩を踏み出した。




















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