マモル、建国への第一歩の巻
――はじまりの地
光を抜けた瞬間、
足元の感触が、はっきりと変わった。
「……外?」
思わず、そう口に出していた。
頭上には、天井がない。
空がある。
雲の流れ。
遠くに連なる、なだらかな丘。
風が、はっきりと頬を撫でた。
ダンジョンの湿った空気とは、まるで違う。
「……どうなってる」
「隠し口は、単なる通路ではありませんでした」
ゴールドが、周囲を観察しながら言う。
「高位の転移門です。
ダンジョン内部から、別の場所へと転移させる仕組みかと」
「別の場所……?」
「ええ。
おそらく、ダンジョンとは独立した空間、
もしくは人の管理下にない土地です」
俺は、ぐるりと周囲を見回した。
人の気配はない。
建物も、道もない。
あるのは、
手つかずの大地だけ。
「……誰にも、知られてない場所ってことか」
ゴールドは、否定しなかった。
胸の奥で、何かが動いた。
ここなら――
誰にも踏み込まれない。
裏切られない。
奪われない。
「……ここにしよう」
ダイヤとゴールドが、同時にこちらを見る。
「ここを、拠点にする」
言葉にした瞬間、
決意が、はっきりと形を持った。
町に戻れば、また人間がいる。
疑われ、値踏みされ、
いつか、同じことが起きる。
でも、ここは違う。
「俺たちだけの場所だ」
足元を見る。
ライムが、静かに揺れていた。
――次の瞬間。
ライムが、強く発光した。
これまでとは、少し違う光。
広がるような、脈打つような輝き。
地面が、隆起する。
「……何だ?」
光の中から、
次々と、影が立ち上がった。
一体。
二体。
三体――
全部で、十体。
岩のような体。
無骨な腕。
だが、表面は確かに、スライム特有の質感。
「……ゴーレム?」
「はい」
ゴールドが、即座に答える。
「ゴーレム型スライムです」
「戦闘用ではありません。
建築、土地整備、資材加工に特化した個体群です」
「……そんなのまで作れるのか」
「ライム様の能力は、
戦闘に限定されるものではありません」
俺は、十体のスライムを見る。
どれも、命令を待つように、静止していた。
「……名前、必要だよな」
少し考えてから、口を開く。
「お前たちは――
アイアンズだ」
その瞬間、
十体が、同時に地面を叩いた。
――了承。
そんな意思表示に見えた。
「着工を開始します」
ゴールドの言葉を合図に、
アイアンズが動き出す。
岩を切り出し、
地面を均し、
柱の位置を定める。
音が響く。
建てられていくのは、
まだ名もない建物。
でも――
確かに、拠点だった。
俺は、少し離れた場所から、それを見ていた。
スライムたちが働き、
ダイヤが警戒に立ち、
ゴールドが全体を管理する。
人間は、俺一人。
それでいい。
「……スライム王国、か」
ふと、そんな言葉が浮かぶ。
大げさかもしれない。
でも――
ここは、
俺が初めて、
「選んだ場所」だ。
誰かに与えられた役割じゃない。
囮でも、使い捨てでもない。
この大地の上で、
俺とライムたちは、生きていく。
静かに。
確実に。
――これは、その第一歩だ。
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