マモル、新たな仲間の巻
目を開けると、天井が見えた。
……違う。
天井じゃない。
ダンジョンの、岩肌だ。
息を吸うと、胸が痛む。
右腕が、動かない。
でも――生きている。
体を少し起こす。
視界に、倒れている巨体が映った。
「……ハイオーク?」
あの化け物が、
地面に伏して、動かない。
首から胴にかけて、
一直線に、斬り裂かれている。
――倒したのか?
視線を、前に戻す。
そこに、立っていた。
鎧を纏った戦士。
大剣を地面に突き、静かに佇んでいる。
だが、違和感があった。
鎧の質感が、金属じゃない。
光を、柔らかく反射している。
……スライム?
理解が、追いつかない。
「……何が、起きた?」
声に出しても、答えは返ってこない。
戦士は、微動だにしなかった。
足元を見る。
ライムが、いた。
さっきより、少し小さくなった気がする。
それでも、確かにそこにいる。
「……ライム?」
呼びかけた、その瞬間。
ライムが、再び光った。
さっきより、穏やかな光。
空間が、歪む。
光の中から、
今度は、別の姿が現れた。
黒い燕尾服。
白手袋。
整った姿勢。
――執事、だ。
だが、やはり色合いと質感は、スライム。
「初めまして、マモル様」
はっきりとした人の声。
頭が、完全に止まった。
「……喋った?」
「はい」
執事は、軽く一礼する。
「私は、ライム様の魔力によって生成された存在。
状況説明を任されております」
戦士の方を見る。
「こちらは、先に生成された戦闘個体。
高出力魔力を用いたため、人語理解および戦闘特化構造を有しています」
「……は?」
言葉の意味が、頭に入ってこない。
執事は、表情一つ変えない。
「ライム様は、自己の魔力を消費し、
新たなスライム個体を生成する能力をお持ちです」
「……そんな、能力……」
「通常のスライムには存在しません」
淡々と、事実だけが告げられる。
「マモル様を守るため、
ライム様は、許容量を超える魔力を使用しました」
視線が、ライムに向く。
小さな体。
何も言わない。
ただ、そこにいる。
「……俺、守られたのか」
執事が、肯定する。
「はい」
頭が、ぐらついた。
戦士に、視線を戻す。
「……お前」
戦士は、反応しない。
でも――
さっき、確かに俺の前に立っていた。
「……ダイヤ」
そう呼んでみる。
一瞬、
戦士の剣が、わずかに傾いた。
「……ダイヤ、か」
執事を見る。
「じゃあ……お前は」
「ゴールド」
名前が、自然に口をついた。
「ゴールドだ」
執事――ゴールドは、静かに微笑んだ。
「承りました、マモル様」
その瞬間、
胸の奥で、何かが落ち着いた。
そして――
遅れて、現実が押し寄せる。
逃げていく背中。
『捨てるぞ』という声。
囮という言葉。
「……あいつら」
喉の奥が、冷えた。
人間。
信用してはいけない存在。
そう、理解した。
一瞬だけ、
青空の下で笑った少女の顔が浮かぶ。
――イリナ。
「……例外、か」
小さく、呟いた。
でも、結論は変わらない。
俺は、人間を選ばない。
視線を、ライム、ダイヤ、ゴールドへ向ける。
「……俺は、お前たちと生きる」
言葉にすると、
妙にしっくりきた。
裏切られない。
捨てられない。
必要なのは、それだけだ。
ライムが、静かに揺れた。
肯定するように。
ダイヤは、剣を収める。
ゴールドは、深く一礼する。
「承知いたしました」
「我らは、常にマモル様の側に」
ダンジョンの奥は、暗い。
でも――
もう、独りじゃない。
そして、
人間社会から、少しだけ距離を置く決意が、
このとき、静かに固まった。




