マモル、ひとときの安寧の巻
――静かな日々
最初に受けた依頼は、薬草採取だった。
イフシアの町の外れ、低い丘のあたりに生えている薬草を集める。
危険度は最低。
初心者向け。
正直、助かったと思った。
「……ここ、だよな」
地面に膝をつき、葉の形を確かめる。
教会でもらった簡単な図と、同じだ。
足元で、ライムがぷるりと揺れた。
「踏むなよ」
冗談半分で言うと、ライムは少し距離を取った。
偶然かもしれない。
でも、ちゃんと伝わっている気がした。
風が、草を揺らす。
鳥の声がする。
静かだった。
――あの教会の重苦しさが、嘘みたいに。
「こういうの、悪くないな」
ライムは、相変わらず何も言わない。
でも、近くにいる。
それだけで、不思議と落ち着いた。
数時間後、薬草は十分集まった。
町に戻り、ギルドで換金する。
……銀貨、数枚。
「……安いな」
生活できないわけじゃない。
でも、これを続けていくのは無理がある。
宿代。
食事。
装備の修理。
現実は、容赦がなかった。
ギルドの掲示板を見上げる。
討伐。
ダンジョン探索。
危険度は、少し上がる。
「……ダンジョン、か」
ライムを見る。
不安は、ある。
でも、ずっと採取だけじゃ、何も変わらない。
「行くしか、ないよな」
ライムは、小さく揺れた。
ダンジョンに潜るには、基本的にパーティを組む。
掲示板の前で立ち尽くしていると、声をかけられた。
「新人?」
振り向くと、三人組のパーティがいた。
先頭に立つのは、穏やかな顔をした男。
その後ろに、軽そうな剣士と、魔物使いらしき少女。
「人数、ちょうど足りなくてさ。
臨時でもいいなら、一緒にどう?」
口調は柔らかい。
笑顔も、自然。
「……俺、スライムですけど」
足元のライムを示す。
一瞬だけ、視線が落ちた。
ほんの一瞬。
「大丈夫、大丈夫」
男はすぐに笑った。
「初心者用ダンジョンだし、死亡報告もめったにないところだ」
「報酬は、均等分配。
危なくなったら、ちゃんと助け合う」
軽そうな剣士が、肩をすくめる。
「新人は最初、緊張するよな」
悪い人たちには、見えなかった。
でも――
どこか、空気が合わない。
三人とも、俺じゃなく、
互いの目ばかり見ている。
「……わかりました」
断る理由も、なかった。
ダンジョンの入口は、町から少し離れた場所にある。
石造りの古い遺跡。
初心者用とはいえ、魔物は出る。
「リーダーは俺な」
穏やかな男が言った。
「無理はするなよ、マモル」
名前を呼ばれたのに、
胸の奥が、少し冷えた。
ライムが、俺のすぐそばに寄る。
「大丈夫だ」
そう言ったのは、
自分を安心させるためだったのかもしれない。
このときの俺は、まだ知らなかった。
この臨時の仲間たちが、
どんな役割を、俺に用意しているのかを。
――そして、
人間を信じる最後の時間だったことを。




