表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間は信用できないのでスライム王国を作ります!(一話あたり短め)  作者: 公卵
人間王国衝突編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/34

イリナ、嵐の前触れの巻①


王都からアギフスへ向かう道中、嫌な胸騒ぎが消えなかった。

隣を歩くアーサーは相変わらず不機嫌そうで、こちらを一度も見ようとしない。その態度自体には慣れつつあったけれど、今日は特に危うい気配をまとっているように感じた。


水の街アギフス。

その中でも一際大きな建物――オキウィブ商会。


私は一度、ここを訪れている。

だからこそ、扉を開けた瞬間に感じた空気の重さに、自然と背筋が伸びた。


「……またお越しいただくことになるとは」


オキウィブは私の顔を見て、すぐに思い出したようだった。

そして、その視線が隣の男――アーサーへと移った瞬間、わずかに強張る。


私は一歩前に出る。


「以前もお尋ねしましたが……もう一度だけ聞かせてください。この作物の生産元は、どこですか?」


静かに、丁寧に。

あくまで王国の騎士としてではなく、一個人としての問いかけだった。


だが、オキウィブはゆっくりと首を横に振った。


「申し訳ありません。私は“信頼”を最も大切にしております。取引相手の情報は、いかなる理由があっても――」


そこまでだった。


「くだらん」


低く吐き捨てる声と同時に、金属音が響く。

アーサーが剣を抜いたのだ。


「なっ……!」


オキウィブの顔から血の気が引く。

剣先は、ためらいもなく彼の喉元に向けられていた。


「もう一度聞く。作物の生産元はどこだ」


「ア、アーサー! やめてください!」


思わず声を上げたが、彼は一切聞く耳を持たない。


「答えろ。今すぐだ」


震えるオキウィブは、必死に言葉を絞り出した。


「わ、私は……その方の名を、“チタン”さんとしか……存じ上げておりません……! 直接の取引相手は、その方だけで……!」


その瞬間だった。


商会の奥から、足音がした。


振り向いた先に現れたのは、人の姿をした青年。

落ち着いた佇まいで、複数の箱を運んでいる。中身は見なくても分かる――例の作物だ。


「……失礼。納品に参りました」


その声を聞いた瞬間、オキウィブが息を呑む。


「チ、チタンさん……!」


――まずい。


そう思った時には、もう遅かった。


アーサーの視線が、獲物を見つけた猛獣のように細められる。


「貴様がチタンか。なら話は早い」


剣先が、今度は彼に向けられる。


「生産元を言え」


張り詰めた空気の中で、チタンは一瞬だけ目を伏せた。

そして、いつもと変わらない穏やかな声で答える。


「申し訳ありません。その質問にはお答えできません」


次の瞬間、彼の横にいた人物が一歩前に出た。


執事のような装いの男。

無表情だが、その立ち位置は明確だった――チタンを庇うように、剣と彼の間に立つ。


「それ以上は、お控えください」


その声音には、静かだが確かな拒絶があった。


「ほう?」


アーサーの口元が歪む。


その一瞬、チタンの目が淡く光ったのを、私は見逃さなかった。

空気がわずかに揺らぐ。精神に直接触れるような、柔らかな魔力の流れ。


(補助魔法……?)


宥めるためのものだ。

害意のない、心を落ち着かせるための魔法。


だが――


「……ふざけるな」


アーサーの声が、底冷えするほど低くなった。


「俺に魔法をかけたな?」


次の瞬間。


視界が、追いつかなかった。


アーサーの姿が消えた、と思った時には――もう、背後にいた。


鈍い音。


剣が、チタンの胸を貫いていた。


「……っ」


短い息が漏れ、箱が床に落ちる。

チタンの体が力なく崩れ、その場に倒れ伏した。


「チタンさん!!」


叫びながら駆け寄ろうとした私を、鋭い視線が制した。


ゴールド――そう呼ばれていた男がチタンさんの状態を確認したあと、ゆっくりと立ち上がる。

先ほどまでの静けさは消え、はっきりとした敵意が、アーサーに向けられていた。


空気が、凍りつく。


(……まずい)


これは、ただの調査では済まない。

そう直感した瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ