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人間は信用できないのでスライム王国を作ります!(一話あたり短め)  作者: 公卵
人間王国衝突編

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イリナ、マモルを想うの巻

王都オイコットでの生活にも、いつの間にか慣れてしまっていた。

魔人族の襲撃を迎え撃ち、異界門を封じ、戻ってはまた次に備える。

そんな日々の繰り返しだ。


ある日の訓練後、城の回廊を歩いていた時、二つの噂が耳に入った。


一つ目は、アマヨット地方にある小さな村が、突如として廃村になったという話だった。

廃村自体は珍しくない。魔物に襲われた、収穫が続かなかった、交易路から外れた。理由はいくらでもある。


けれど、その近隣の村の住人たちが、妙な言葉を口にしていたらしい。


「金づるが消えた」

「金づるが、消えたんだ」


まるで村そのものではなく、何か別の存在を失ったかのような言い方。

それが、妙に引っかかった。


二つ目は、水の街アギフスでの噂だった。

市場に、質の異様に良い作物が出回り始めているという。


見た目が良く、味も良い。

それなのに価格は控えめで、産地ははっきりしない。

流通量はまだ少ないが、もし増えれば市場のバランスに影響が出るだろう――そんな評価だった。


私は思わず足を止めた。


アマヨット。

アギフス。


どちらも、地図の上では遠い場所だ。

私が今いる王都オイコットとも、直接の関係はない。


なのに。


胸の奥に、言葉にできない感覚が広がった。


「……どうして、かな」


誰にともなく、そう呟いていた。


頭の中に浮かんだのは、王都に来る前、イフシアの町で出会った一人の少年。

異世界から来たと言っていた、少し不器用で、優しかった――マモル。


理屈は何一つない。

証拠も、繋がりもない。


それでも、二つの噂を聞いた瞬間、私は彼の顔を思い出していた。


「まさか、ね……」


自分に言い聞かせるように、そう呟く。

マモルはもう、この戦いとは関係のない場所で、静かに暮らしているはずだ。


そう思いたい。


王都オイコットでの戦いが、ひと区切りついた頃だった。


国王の側近に呼ばれ、私は城の一室へと通された。

重い扉の向こうで待っていたのは、国王と数名の高官たちだった。


「イリナ、急な呼び出しですまない」


国王はいつも通り穏やかな声でそう言ったが、話の内容は決して穏やかなものではなかった。


水の街アギフス周辺で流通し始めた、産地不明の高品質作物。

市場の均衡を崩しかねないこと。

そして、魔人族が人間社会の物流に干渉する兆しが、わずかながら見え始めていること。


「そこでだ」


国王は私をまっすぐ見た。


「お前にアギフスへ向かってもらいたい。名目は視察。

だが実際には、異変がないかを確かめてほしい」


断れる立場ではない。

私は静かに頷いた。


「承知しました」


部屋を出た後も、胸の奥に小さなざわめきが残っていた。

理由は分からない。

ただ、嫌な予感と、説明のつかない期待が入り混じっている。


その日の夕方、城外でペガサスの世話をしていた時だった。


いつもは穏やかな彼女が、突然首を上げ、低く嘶いた。

羽を小さく震わせ、じっと西の方角を見つめている。


「どうしたの?」


声をかけても、視線は動かない。

魔人族の気配……ではない。

けれど、何か大きなものを感じ取っているようだった。


私はそっと、たてがみに手を置いた。


「……魔人族、じゃないよね」


ペガサスは答えない。

ただ、どこか落ち着かない様子で、空気を踏みしめていた。


その瞬間、胸の奥に、あの感覚が蘇った。


イフシアの町。

異世界から来たと言っていた少年。

不思議と記憶に残り続ける、マモルの姿。


「まさか……」


思わず漏れた言葉を、私は自分で打ち消す。


偶然だ。

そうでなければおかしい。


けれど、噂と命令と、ペガサスの反応が重なった今、

その偶然を、完全に否定することができなかった。


翌朝、私はアギフスへ向かう準備を始めた。

国のための任務。

それが建前だ。


けれど胸のどこかで、私は思っていた。


――もし、あの噂の先に、あなたがいるのなら。


この旅は、ただの視察では終わらない。

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