マモル、交易を始めるの巻②
交易をすると決めたものの、いざとなると考えることは多かった。
まず、何を出すのか。
俺は完成しつつある畑を眺めながら、腕を組んで唸っていた。
野菜と芋は確かに大量にある。だが――
「芋や野菜って、他の土地でも採れるんじゃないか?」
そう口にすると、そばに控えていたゴールドが静かに首を振った。
「マモル様、それは誤解でございます。
作物が短期間で育つのは、この土地が特異だからです。他の土地では、同じ品質に育つまで少なくとも三倍以上の時間がかかります」
「……そうなのか?」
「ええ。加えて、こちらの作物は魔力の巡りが良く、味も保存性も優れております。
十分、交易品としての価値がございます」
俺は思わず畑を見渡した。
正直、どこで育てても同じだと思っていた。
この国が、スライムたちが作り上げたこの土地が、そんな特別なものだとは。
「じゃあ……まずは作物だな」
ゴールドの進言を受け入れ、最初の交易品は野菜と芋に決めた。
次に考えるのは、交易相手。
地図を広げ、指でなぞる。
南のイフシアは避けたい。
俺の存在を知る者がいる可能性がある。
北のアマヨットは、ゴールドの件もあり論外。
残るは西と東。
「……ここだな」
俺が指差したのは、西にある水の街――アギフス。
商業が盛んで、人の出入りも多い。
匿名の交易には向いている。
最後に残った問題は、誰が行くか、だった。
俺が口を開こうとした、その時。
――ライムが、発光した。
柔らかな光が広がり、やがて一つの影を形作る。
現れたのは……人だった。
いや、正確には、ほとんど人間と見分けがつかないスライム。
姿形、声、仕草。
言われなければスライムだとは思えないほど自然だった。
「私が参りましょう」
穏やかで、しかし不思議と説得力のある声。
その場にいる全員の意識が、自然とその存在に向いた。
ゴールドが一歩前に出る。
「……なるほど。
この個体は、人の心を読み取り、働きかけることを得意とするスライムでございます。
交渉役として、最適かと」
俺はしばらくそのスライムを見つめ、それから頷いた。
「じゃあ、お前に任せたい」
そう言ってから、少し考え、名前を与える。
「チタン。
スライム王国の、最初の交易担当だ」
「承知しました、マモル様」
チタンは静かに微笑んだ。
その笑みは柔らかく、だが揺るぎがなかった。
こうして――
スライム王国、初めての対外政策が、静かに動き出した。




