マモル、料理をするの巻
敵襲は相変わらず時折あるものの、防御体制が整ってからは大きな被害もなく、スライム王国は概ね安定していた。
だからこそ、だろうか。僕の中に、ひとつだけ小さな不満が芽生えていた。
――食事が、あまりにもシンプルすぎる。
今この王国で取れる作物は、日本で言うところの野菜と芋が中心だ。
決して不味いわけじゃない。むしろ素材そのものの味はいい。ただ、基本はそのまま食べるか、茹でるかの二択。毎日となると、どうしても飽きが来る。
「ゴールド、正直に聞くけど……この食事、飽きない?」
そう尋ねると、ゴールドは少し驚いたように目を瞬かせた。
「飽きる、でございますか? いえ、私は特に不満はございませんが」
「僕もないよー。おいしいよー」
横からアルミンが元気よく言う。
ライムに至っては、目の前の芋を抱え込んで、無言でバクバク食べていた。
……どうやら不満を持っているのは、僕だけらしい。
「だったら、自分で何とかするか」
そう思い立った。
幸い、ゴールドが旅の途中で持ち帰った胡椒は、すでに王国内で栽培できるようになっている。この世界の作物は成長が異様に早い。つくづくありがたい環境だと思う。
材料は揃っている。
芋と野菜、それから――襲撃してきたオークの肉。
少し抵抗はあったが、食料になると聞いていたし、無駄にするわけにもいかない。
記憶を頼りに、ジャーマンポテト風の料理を作ってみることにした。
火を通した肉の香りに、胡椒を振る。
芋と野菜を合わせて、全体を混ぜる。
「……できた」
半信半疑で一口食べてみる。
「……あ、美味しい」
思わず声が漏れた。
素朴だけど、確かに“料理”になっている味だ。
「ゴールド、アルミン、食べてみて」
二人も口に運び、少し間を置いてから反応が返ってきた。
「……これは、驚きました。実に奥深い味でございます」
「おいしい! いつものとぜんぜんちがう!」
ライムはというと、説明するまでもなく、皿が空になる勢いで食べていた。
その時だった。
「……あれ?」
アルミンが料理を口にしたまま、ふと動きが止まる。
次の瞬間、淡く発光した。
「ま、また……?」
光の中から、ぽん、ぽん、とスライムが生まれる。
「ゴールド、これって……」
「確認しましたが、戦闘能力はありません。ただし――料理に特化したスライムのようです」
「料理特化……」
生まれたばかりのスライムたちは、鍋や食材の方をじっと見つめていた。
まだ何か作れるわけではなさそうだが、妙に手つきが器用そうに見える。
「今はレパートリーも限られておりますが……成長次第でしょう」
「そっか……それなら、楽しみだな」
その日以降、不思議なことが起き続けた。
僕が料理を作るたび、料理を得意とするスライムが少しずつ増えていったのだ。
やがて彼らは簡単な味付けを覚え、焼く、煮るといった工程を真似し始める。
王国のあちこちから、食事の匂いが漂うようになった。
気づけば、食事の時間は王国全体の楽しみになっていた。
スライムたちはそれぞれ好みの料理を囲み、以前よりもずっと楽しそうにしている。
敵から守る力だけじゃない。
生きる中での楽しみも、国を形作る大事な要素なんだと、この時はじめて実感した。
スライム王国に、また一つ――
「食事」という小さくて、確かな発展が加わった。




