マモル、忠臣との再会の巻
ゴールドが旅に出てから、どれくらいの時間が経っただろう。
正確な日数は分からないが、王国の空気が少しずつ落ち着きを取り戻し、その一方で自分の中には焦りのようなものが積もっていた。
その日も、僕はシルバーの前に立っていた。
開けた訓練場で、何度目かの魔法展開を終える。
「……ここまでで結構です、マモル様」
シルバーは静かにそう言って、にこりと微笑んだ。
「正直に申し上げますと、かなり上達されています。最初に比べれば、魔力の流れも安定してきました」
その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなる。
防御魔法は地味だ。派手な攻撃もなければ、目に見える成果も少ない。それでも、王国を守る力として必要だと信じて、僕は続けてきた。
その時だった。
「ま、マモルさまー!」
幼い声が訓練場に響く。
振り向くと、アルミンが息を切らしながらこちらへ駆けてきていた。
「てき! てきがきたよ! また、そとから!」
「……やっぱり最近多いな」
思わずそう呟く。
以前なら珍しかった敵襲が、ここ最近は間隔を空けずに起きている。
「シルバー、行こう」
「はい」
状況はすぐに把握できた。
王国の外縁に、魔物の小集団。数は多くないが、放置すれば被害が出る。
僕は深く息を吸い、意識を広げる。
魔力を張り巡らせ、王国を包むように防御魔法を展開した。
透明な壁が、見えない圧となって立ち上がる。
直後、シルバーが一歩前に出た。
「では、私が片付けましょう」
彼女の周囲に、赤い魔力が集束する。
次の瞬間、炎の奔流が広がり、魔物たちを一気に包み込んだ。範囲を正確に絞った、無駄のない攻撃だった。
戦闘はあっけなく終わった。
スライム王国側の被害は、今回もゼロ。
「ふぅ……」
思わず息を吐く。
「見事な連携でした、マモル様」
「ありがとう。でも……正直、これが続くのは面倒だな」
口にしてから、自分でも驚いた。
守れたことへの安堵よりも、繰り返される事態への疲れが先に出ていた。
シルバーは少し考えるように目を伏せ、それから言った。
「でしたら、“敵に見つからないための結界魔法”はいかがでしょうか。王国全体の存在感を薄める術式です」
「……それができたら理想だけど」
僕は首を振る。
「今の僕じゃ、維持できないと思う。下手をしたら、肝心な時に防御が抜ける」
「ええ。私も同意見です。技量が追いつくまで、保留が賢明でしょう」
そう結論が出た、まさにその時だった。
「――ただいま戻りました、マモル様」
聞き慣れた、落ち着いた声。
振り返ると、そこにはゴールドが立っていた。
旅装を解き、変わらぬ佇まいでこちらを見ている。
「ゴールド……!」
胸の奥に、すっと何かが収まる感覚があった。
その後、場所を移して報告を受けた。
ゴールドは淡々と、しかし詳細に旅の内容を語ってくれた。
王国周辺の地形。
四方を囲む山々と、人間が容易に入り込めない構造。
北を越えた先にあった小さな村。
そこで出会った人間たちの態度と、依存と、裏の顔。
「……彼らは、善でも悪でもありません。ただ、自ら立つ意志が弱い。それを他者に預けることを、当然だと思っている」
その言葉を聞きながら、僕は静かに頷いていた。
「やっぱり……人間は、信用できないな」
自分の口から、自然とそんな言葉が出た。
ゴールドは否定も肯定もせず、ただ一礼する。
最後に、彼は一枚の地図を取り出した。
「こちらが、今回整理した地図です。ジパング王国全土と、その周辺になります」
広げられた地図を見た瞬間、僕は目を見開いた。
「……似てる」
「はい?」
「この形、日本にすごく似てる」
海岸線、国土の伸び方、山脈の位置。
細部は違えど、全体の輪郭が、驚くほど記憶と重なっていた。
「これなら……覚えやすいな。この世界の地理」
思わず笑みがこぼれる。
その様子を見て、ゴールドの表情もわずかに柔らいだ。
「それは何よりでございます、マモル様」
主人の喜ぶ姿を見て、彼もまた喜んでいる。
そのことが、僕にははっきりと分かった。




