マモル、決心するの巻
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マモル視点「王国の呼吸」
転移門を抜けた瞬間、胸の奥がざわついた。
――違う。
空気が、前に来たときと違う。
騒がしくなったわけじゃない。
むしろ、落ち着いている。
足元には、一本の道が伸びていた。
以前はただ踏み固められていただけの地面だ。
その道の左右に、畑と建築途中の建物が、きれいに分かれている。
「……こんなだったか?」
俺が首をかしげると、ダイヤは何も言わず、周囲を警戒していた。
変わったのは、景色だけじゃない。
スライムたちの動きにも、迷いがなかった。
呼ばなくても、役割を理解している。
誰かに命じられている様子もない。
「ゴールド」
名を呼ぶと、すぐに執事姿のスライムが現れた。
「お帰りなさいませ、マモル様」
いつも通りの丁寧な声。
だからこそ、俺は率直に聞いた。
「俺がいない間、何かあったか?」
ゴールドは一瞬だけ、思案するように沈黙した。
「小規模な問題がございました」
嫌な予感がした。
「畑と建築予定地が衝突しかけましたが、既に解決済みでございます」
「……誰が判断した?」
「アルミン様です」
その名前を聞いた瞬間、胸の奥がきゅっと締まる。
「俺は……呼ばれなかったな」
独り言のつもりだった。
だが、ゴールドは否定もしなかった。
「必要ではありませんでしたので」
その言葉は、突き放すようで、
同時に、信頼を示しているようにも聞こえた。
畑のほうに行くと、アルミンがいた。
土に触れながら、小さなスライムたちに囲まれている。
「マモル様!」
俺に気づくと、ぱっと顔を上げて駆け寄ってきた。
「おかえりなさい!」
「……ただいま」
少し間を置いてから、聞く。
「俺がいない間、大変だったか?」
アルミンは首を振った。
「こわかったけど……でも、ぼく、きめたよ」
「決めた?」
「うん。どっちも、だいじだったから」
幼い言葉だった。
でも、その裏にあるものは、十分すぎるほど重い。
俺は、その場で理解してしまった。
――この国は、もう俺ひとりのものじゃない。
夜、拠点を見下ろす。
明かりは少ない。
壁も未完成だ。
それでも、ここには流れがある。
意志がある。
国は、確かに成長している。
そして、ようやく気づく。
次は――
俺自身が、成長する番なんだ。
守られるだけの存在から、
任せられる存在へ。
スライム王国の王として。
一人の人間として。
俺は、静かに拳を握った。
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