マモル、世界について知るの巻
――世界の輪郭
拠点予定地は、まだ骨組みだけだった。
アイアンズが無言で岩を積み、
地面を均し、
柱を立てていく。
その様子を少し離れた場所から眺めながら、
俺は腰を下ろしていた。
「……ゴールド」
「はい、マモル様」
「ここって……結局、どこなんだ?」
俺の問いに、ゴールドは少しだけ視線を遠くへ向けた。
「周囲の地脈、星の配置、魔力の流れを確認しました」
淡々と、報告が始まる。
「この土地は、人間族領のどこかに存在します。
正確な位置特定は困難ですが、
少なくとも魔人族領ではありません」
「……人間の国の中、か」
「はい。
ただし、人の管理から外れた土地です」
誰にも知られていない。
だからこそ、転移門で隔離されていた。
都合がいい。
「それと、マモル様。
魔人族について、改めてご説明を」
ゴールドの声が、少しだけ硬くなる。
「魔人族は、人間族とは異なる異空間の存在です」
「異空間……?」
「はい。
彼らは本来、この世界の住人ではありません」
空を見上げる。
青い。
穏やかだ。
でも、その裏側に、
別の世界が重なっている。
「魔人族は、
異界門を通じて、時折人間界へ侵攻してきます」
「……じゃあ、ダンジョンの魔物とか」
「別物です」
即答だった。
「人間がパートナーとするモンスター、
ダンジョン内に存在する魔物、
そして魔人族」
「すべて、起源も性質も異なります」
頭の中で、線が引かれていく。
今まで、
「敵」と一括りにされていたもの。
それが、分解されていく。
「魔人族の侵攻は、
かつては王国全土に及んでいました」
ゴールドは続ける。
「しかし――
ある冒険者の存在によって、状況は変わりました」
「冒険者?」
「はい。
とあるモンスターをパートナーに持つ、特異な冒険者です」
名前は、出なかった。
「その者の働きにより、
異界門は徐々に王都オイコット周辺へ誘導されました」
「……わざと?」
「結果として、そうなっています」
王都。
イリナがいる場所。
「現在、魔人族の侵攻は、
主に王都周辺で受け止められています」
「そのため、国民全員が
日常的に脅威に晒されているわけではありません」
……なるほど。
だから、地方は比較的平穏なんだ。
「それって……」
言葉を探す。
「王都が、盾になってるってことか」
「そう解釈して問題ありません」
胸の奥が、少しだけ重くなる。
英雄。
最強。
神話級。
そう呼ばれる存在が、
世界の均衡を、無理やり固定している。
俺は、立ち上がった。
「……じゃあ、俺はどうする?」
ここに、拠点を作った。
スライムたちは、増え続ける可能性がある。
人間社会から、距離を置いた。
この先――
どこへ向かう?
考えていると、
ゴールドが一歩、前に出た。
「提案がございます」
「……何だ?」
「富国強兵です」
その言葉は、
やけに、はっきりと響いた。
「国を富ませ、
兵を強くする」
「ここを、ただの隠れ家ではなく、
独立した勢力の拠点とするのです」
俺は、言葉を失った。
国。
勢力。
王国でも、冒険者でもない。
「……俺が?」
「はい」
ゴールドは、迷いなく言った。
「マモル様は、
スライムを増やせる唯一の存在です」
「戦闘、建築、管理、治癒――
すでに、その基盤は揃いつつあります」
視線が、動く。
ライム。
ダイヤ。
ゴールド。
アイアンズ。
確かに――
人間一人より、よほど統率が取れている。
「……人間と、戦うつもりはない」
思わず、そう言った。
ゴールドは、首を横に振る。
「必要ありません」
「富国強兵とは、
必ずしも侵略を意味しません」
「選択肢を持つための力です」
選択肢。
王国に従うか。
冒険者として使われるか。
魔人族に蹂躙されるか。
「……力があれば、選ばなくて済む」
小さく、呟いた。
ライムが、静かに揺れた。
肯定するように。
俺は、決めた。
「……まずは、ここを完成させよう」
「拠点を作る。
人間に依存しないで、生きられる場所を」
ゴールドは、一礼する。
「承知しました」
この場所に、
まだ名前はない。
でも――
ここはもう、
ただの逃げ場じゃない。
世界から切り取った、
俺たちの領域だ。
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