第5話「大手逃れ」
目の前には壁。
そう、ここは最上階。
陽向の顔が青ざめていくのが分かった。
体調でも悪いのかよ?と、いつもならボケをかませるが、そんな余裕はどこにもない。
「ど、どうする?陽向…?」
「どうするって言ったって…」
その瞬間、陽向が頭を抱えて膝をつく。
おいおい、そんなドラマ見たいな絶望の仕方あるかよ…。
「おい、陽向!あいつらが上がってくるって!」
「ッ…グッ…」
ふざけるにしては、やけに苦痛の表情を浮かべている。
「イッテェ…グッ…アッ…!!」
頭を抱え、怪物のような唸り声を出す陽向。
唸り終えると陽向の手は、ダランと無気力に落ちる。
し、死んだ?
そう思うほどに陽向は脱力していた。
「陽向!大丈夫か!?頭痛か?」
「……ヤベェ…」
「ん?なんて言った?」
「ハッハッハッハッ…なぁ、歩…これはヤベェよ!」
「ヤベェ状況なのはずっと分かってんだよ!ふざけてる時間ないって!あいつらが上って…」
ふと見上げると、陽向の後ろには黒アーマーが立っていた。
黒アーマーが腕を振り上げ、陽向目掛けて腕を振り下ろす。
もう、どうしても陽向に触れてしまうその手を俺は見ているしかなかった。
「おい!陽向後ろ!!」
黒アーマーが腕を振り下ろすと、そこには陽向の姿は無かった。
陽向は黒アーマーによって殺された。
いや、消されたの方が近い。
現実味がない現象に脳が追いつかない。
脳は陽向がこの世にいないという答えに辿り着かない。
そんな俺に考える暇を与えず、黒アーマーは俺を次のターゲットにする。
もう、しんどいって…
死にたくは無いが、死んでもいい…。
そんな矛盾を抱き、俺が選択した行動は11階から10階に飛び移るというものだった。
まさに、死ぬ気の一手。
俺は階段の壁を乗り越えて、ぶら下がる。
少し反動をつけ、10階の踊り場目掛けて着地した。
俺ってこんなに運動神経良かったっけ?
そう思うほど、いつも以上に身体が動く。
10階の踊り場に着地した俺は、全速力で1階を目指す。
階段を下っていく中、陽向との思い出が頭を埋め尽くす。
あぁ、あいつ死んだのか…
あいつ、死んだんだよな…
階段を下るという単純作業のおかげで、陽向が死んだ現実に脳が追いついたのであった。
最後までふざけやがってあいつ…
涙が目に染みる。
これが、親友を失くすということか…。
とうとう俺は1階まで駆け下りた。
どこまででも逃げれる平坦な道。
地上のありがたさを感じる。
「おーい!歩!こっち!こっち!」
ふと、後ろから聴き馴染みのある声が鼓膜を揺らす。
「おい!どっち向いてるんだよ!こっちだって!」
その声はどう考えても陽向の声であった。
おいおい、あいつはもう死んだんだ。
幻聴まで聞こえるなんて…
肩に衝撃が走る。
「何してるんだよ!歩!耳聞こえないのか?」
目の前には死んだはずの陽向。
手には人の温もり。
脚はある、透けてもいない。
どうやら幽霊ではなさそうだ。
「陽向…?お前…死んだんじゃ?」
「説明はあと!とりあえずここから離れるぞ!!」
「お、おう…!」
陽向に腕を引っ張られとりあえず駆け出した。
なにが、どうなってんだよ…
———
「はぁ…はぁ…はぁ…」
俺たちとにかく避難できる場所を探し、着いた先は近くのショッピングモールだった。
「はぁ…はぁ…おい…陽向…お前、全然息上がってないな…本当に陽向か?」
「マジの陽向だよ!なんか、さっきのすごい頭痛してから身体が軽いんだよ」
「どうやって、あの黒アーマーから逃げたんだ?」
「あぁ、アレな…うーん、なんか説明がむずいんだけど…」
そういうと徐ろに、側にあった観葉植物に触れる。
「よく見ててね…!」
陽向が目を閉じたと思うと、観葉植物が少し移動する。
いや、陽向と観葉植物の位置が入れ替わったのだ。
「え…お前人間…?」
「マジの人間!!あの頭痛から、この能力が使えるようになったんだ」
「まじか…なんでお前だけ…」
「知らないよ!でも、あの頭痛は過去一、いや人生で1番痛かった…」
「頭痛か……黒アーマーも能力持ち…?」
「人を消す能力…?なんか限定的じゃない?」
「いや、能力を応用して使っているのかもしれん。陽向の能力を、自分以外の人に使うことができれば、その場から消すことは可能だ」
「たしかに…お前、たまにぶっ飛んで頭いいよな…!」
「"たまに"ってなんだよ!とりあえず、今は陽向の能力に頼るしか無いな…」
その後は陽向の能力を使い実験を行う。
実験結果から以下のことがわかった。
1. 最後に触れた物体と自分の位置を入れ替えることができる。
2.入れ替え可能な物体は、自分の体重以下の重さの物のみ。
3.対象が人間の場合のみ重量制限はなく、誰とでも入れ替え可能。
4.一度入れ替えを行うと、入れ替え対象の記録はリセットされる。次に触れたものが新たな対象になる。
5.どちらの手で触れても対象として認識される。
6.同時に別の物体に触れている場合は、利き手で触れている物が優先される。
まぁ、まだまだ分かっていないことはあるがこれくらいで大体分かるだろ。
陽向が辺りを見渡し、驚いた顔で俺を見る。
「なぁなぁ、そういやさ…ここ、人いなくね?」
「だいぶ前から気づいてはいたが多分、黒アーマーにみんな消されたんじゃ無いか?」
「冷静に怖いこと言うなよ!!て言うことは…」
——カツッカツッカツッ
聞き馴染みのある恐怖の足音が響き渡る。




