第4話「挟み将棋」
「いっけぇ!!」
陽向は、廃ビルの10階から手のひらサイズの石を投下した。
——パァーン!!
1.5秒ほど経過したのちに、その破裂音は響き渡った。
実験結果を見るべく階段の壁から身体を乗り出し、真下を見下ろす歩。
気分が高揚したのか、身体を乗り出しすぎて落ちそうになるのを何とか堪える。
「さぁ…どうかな?」
確かに、真下には黒アーマーがいた。
何事もなかったかのように、2秒前から立ち位置が変わっていない様子。
変わっているのはただ一つ、確実に視線が歩を捉えていたことだ。
予想外れな展開の虚しさから、仲間を探す歩。
「あれ?陽向ぁー!ちゃんと落としたか?」
「落としたって!ちゃんと10階まで上がったぞぉー!歩の計算ミスじゃねーの?」
「計算ミスじゃねーよ!ミスったとしても普通の人だったら無事じゃすまないし…」
「無事じゃすまねぇーて、あの黒アーマーなんかノーダメージな感じだったぞ!今もああやってピンピンして…あれ?」
喋りながら陽向の顔が青ざめていくのが分かった。
「おい?陽向?どうした?」
「おい!歩!下見てみろって!」
陽向の指示通り下を見下ろすと、そこには数秒前にいた実験体の姿が見えない。
「おい!あいつどこいった!?」
一瞬の出来事に歩の脳は、ありとあらゆる展開の想定を始める。
———カツッ…カツッ…カツッ…
歩の鼓膜は、階下から聞こえる音を捉える。
一定のリズム且つ、徐々に近づく音。
そんな、鼓膜が捉えた情報から想定していた展開が絞られる。
どれだけ考えても、予想の終着点は同じであった。
「おい!陽向!!やべぇーって!あいつ、階段を上がってきてるって!」
「とりあえず、10階まで上がってこい!!
あいつ絶対怒ってるよ!」
生存本能に従い、陽向のいる10階まで駆け上がる歩。
「…はぁはぁはぁ」
一気に10階まで全速力したため、心臓は派手に踊り、身体は酸素を求めて大きく波打つ。
「だ、大丈夫か!?歩!!」
「…はぁはぁ、あいつが登ってきてる!」
「だ、だよな!とりあえずどこか隠れよう!!」
歩と陽向は、隠れる場所を探そうと、10階の踊り場からビル内に通じる扉を開けた。
扉を開けると同時に、通路奥に影が動くのが見える。
「な、なあ…?なんか動かなかったか?」
まるで肝試しかのように、身体は縮こまり歩との距離を詰める陽向。
「そ、そうか?俺は見えなかったが—」
歩が否定し終わる瞬間、通路奥に影が揺れるのを感じる。
歩の眼は確実にその影を捉えた。
「やっぱり、俺も見えたかもしれん…」
「だろ!だろ!なんかいるだろ!?」
「でもここ、今は使われていないビルだぞ…?誰もいるわけ…」
徐々に影は大きくなり、カツッカツッと一定リズムの音が聞こえてくる。
聞き馴染みのある音なのか、歩の顔が青ざめる。
「え、まさか…」
続けて陽向も察したように、顔色が悪くなる。
「そんな…」
その音は、つい先ほど聞いた"足音"に酷似していた。
いや、まさにその音である。
音の近さに比例して、次第に影の正体が見えてくる。
光沢のある黒いアーマーが、暗闇の中でヌラリと輪郭を歪ませる。
歩は、自身が認知していた位置情報と全く違う場所から登場した黒アーマーに、怒り混じりの驚きを見せる。
「黒アーマー!?あいつ下の階にいたんじゃ…」
「え、え、え?あいつ瞬間移動も使えるの!?」
「瞬間移動って、そんな漫画なこと……と、とりあえず逃げるぞ!!」
2人は、階段の踊り場に通じる扉へ再度向かう。
扉を開け階段の踊り場に出る。
踊り場の扉を強く締め、一瞬安堵の表情を見せる歩と陽向。
その表情が気に入らないかったのか絶望の音が鳴り響く。
———カツッ…カツッ…カツッ…
下の階から上がってくる黒アーマーの姿を確認した歩と陽向。
「また、瞬間移動——」
うんざりする陽向を遮るように真実を知った歩が口を開く。
「いや……あいつは…いや、あいつらは2人いる……!」
「え…まじ…?」
確認するかのように先ほどの通路奥を確認する陽向。
下から上がってくる黒アーマーと10階ビル内にいる黒アーマー。
瞬間移動ではなく2体いることが現実として確定する。
「マジじゃん…!これ囲まれてるよな…」
「あぁ、確実に下とこの10階はな…と、とりあえず上の階に逃げよう!」
「でも、上にも3人目ががいたらどうするよ!!」
「そうなったら詰みだが今はそれしかできねぇよ!」
必死で階段を駆け上がる2人。
11階についた途端、2人の表情は絶望に包まれるをする。
そう、このビルの最上階は11階。
これより上に逃げることは、不可能であった。
———
【あとがき】
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