第2話「開局」
第2話
鼓膜に直接届いたSOSに気付けば歩の身体は動いていた。
なんの変哲もない日常を淡々と送る高校男児。
頭は悪くはないが良くもない。
至って平凡な男。
……だが、正義感は常人離れの性能を持っていた。
悲鳴が聞こえた暗い路地を進み、悲鳴の発生場所を探す。
歩が呟く。
「確かこの辺りから聞こえたよな…」
陽向はスマホの光を左右にチラチラさせながら歩の正義感に付き合う。
「俺もこの辺りだったと思うんだけど…」
歩と陽向は暗い路地をまっすぐ進んでいき突き当たりを曲がろうとした時、女性の泣き声混じりの怒号が聞こえた。
「返してよ!私のヒョウキくんを返してよ!!」
歩と陽向は曲がり角から隠れながら声の正体を確認する。
目線の先には座り込んで泣きじゃくる女性。
女性を見下ろす影。光沢のある黒いアーマーが、夕闇の中でヌラリと輪郭を歪ませる。
人だと信じたい。
だが、“人の形をした何か” と表現する方が近かった。
「うわぁ、かなりの修羅場っぽいぞ…」
陽向はまだ、予測できる限り1番安全な結果に片付けたいようだ。
「いや、何かおかしいぞ……」
冷静に状況を把握しようとする歩。
「返してってばぁ!私のヒョウキくんを!」
涙をボロボロと流しながら訴えかける女性。
突然、黒アーマーは女性に歩み寄り、女性目掛けて手を伸ばす。
"慰め"にしては、その手は殺気立っていた。
「早く返し——」
黒アーマーが女性の肩に到達した途端、今まで騒がしかった女性の声はピタリと消えた。
「え……」
歩と陽向は顔を見合わせる。
心霊現象に出会したような間抜けな顔である。
先に言語化できた陽向。
「女の人が消えた…いや、消されたような…?」
「そ、そんなわけないだろ人が消えるわけ…」
歩はまだ現実を疑う。
「なぁ、俺の幻覚じゃないよな?さっきまで確かにいたよな?」
「いたけど…人を瞬間的に消滅させることなんて普通できるか?」
「でも、あの黒アーマーが触れた瞬間消えたんだぞ?」
「そうだけど……じゃあ、黒アーマーの手に何か秘密があるのか……?」
歩と陽向は小競り合いに夢中で隠れていることを忘れる。
ふと、陽向が黒アーマーを確認すると身体の向きは明らかに2人を捉えていた。
「な、なぁ、これバレてるよな……」
「あ、あぁ…完璧にこっち向いてるよな……」
「これって…逃げないとやばいやつ?だよな?」
「と、とにかく落ち着け……視線は切るな、少しずつ後ろに──」
歩が後ろに下がり出したその時、黒アーマーは起動したように走り出す。
そのベクトルは完全に歩に向かっていた。
歩と陽向は危機感を感じたのか反射的に身体を黒アーマーから遠ざける。
「クマの対処法かよ!?いや笑えねえってぇぇ!」
陽向は歩にツッコミながら全速力で走る。
「触られたら終わる!陽向、絶対触られるなよぉぉ!」
「地獄の鬼ごっこじゃねーかぁ!ぎやぁぁー!!」
こうして、歩と陽向の退屈な毎日は地獄の鬼ごっこにより一変した。
———
【あとがき】
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