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9.噂

「清水先輩、会場の方はオッケーです」

 体育館にある放送準備室、パイプ椅子に腰掛けて、手元の紙を読んでいる女生徒に、ドアを開けて顔だけ覗き込ませて来た後輩と覚しき女生徒が報告を受した。

「そう。分かったわ。じゃあ、貴女ももう席に戻って」

「は~い、分かりました~」

 後輩の女生徒は快い返事をして踵を返した。だが、

「っと、そうだ。清水先輩は『あの噂』って本当だと思いますか?

 副会長なら、何か聞いてます?」

 一旦は振り向いたものの、気になることを思い出し、それを先輩に問いかけた。

「『あの噂』っていうのは、『どの噂』かしら?」

「ええ~っと、全部と言えば全部なんですけど、やっぱり『無能者』ってやつが……」

「確かに気になる話題ではあるわね。でも、残念ながら私の方には何も」

 副会長たる女生徒は首を横に振った。

「それにしても、今年はどうなってるのかしらね? いくら何でも『特例』が多すぎるわ」

「そっちも何も?」

「ええ、『誰が』来るかってだけ。理由まではさっぱりね」

「そうですか……じゃあ、今度こそ私は戻りますね。清水先輩、“会長”挨拶頑張って下さいね」

「ええ。戻ったら念のため、もう一度静にするように放送入れて頂戴」

「リョーカイ!!」

 っと、後輩の女生徒は最もらしく敬礼してその場を立ち去った。

 後輩の女生徒が出ていった後で、もう一度挨拶文の書かれた用紙を見て確認に入るが、先の後輩との会話の所為で集中できなくなってしまった。

「全く。今年はどうなってるのかしら?」

 つぶやいてから、ため息を一つ吐いて、今度こそ集中し始めた。


 今年の十二校の入学式は、いつになく“表面上は穏やかで、その実混乱の極み”だった。

 一つ、去年より噂に上がっていた、能力向上教育プログラムという、よくは分からないが取り敢えず、『外部の講師』を招いて、より生徒の能力を引きだそうというものらしい計画で、その外部講師が今日から赴任するということ。

 二つ、紫司小夜が入学してくるということ。

 三つ、『特例』として入学する者がいるということ。然もそれが『四人』いるということと、その『顔ぶれ』が異常だということ。

 四つ、これは大方何かのデマだろうと思ってはいるのだが、どうやら『無能者』がその『特例組』にいるのだということ。


 これらが、春休みの間に生徒全体に広がっていた。

 他にも、これらの噂に関する詳細が付けられた噂がいくつもあり、生徒はこの話題で持ちきりなのだが、内容が内容なだけに、口に出している時点でどうかというものなのだが、小声でなら――みんな言ってからというなんとも無意味ないい訳と的外れの安心感から、結局このはばかられる筈の内容の噂を各々口にするのだった。

 皆が話している時点でもうわざわざ小声で話す意味もない筈なのだが、後々のちのちもし目を付けられたらっという脅迫観念から、これらの噂をするときは一様に声を潜めて、態度だけは取り繕っている。

 中には真実そのことに興味のない生徒もいて、その者からしてみれば滑稽でしかない。目を付けられたくなければ、端からこんな話を出さなければいいのだっと。

「ウィ~ス!! 会長“代理”」

 清水の元へ今度は男子生徒がやってきた。

「おかえりなさい、草尾副会長くん。どうだった? 『あの』の様子」


「どうもこうもないぜ。いやっ、もう完璧!! こっちはもう気疲れでヘトヘトだよ」

 そういって、清水の前の席につき、背もたれに両手を垂らし反り返る。

「ふふっ、それはお疲れ様。でも、貴方でも女の子に気疲れなんてことすることあるの?」

「ありますよ。失礼だな~もう。久方ぶりにテンパっちゃいましたよ。お陰で、上手いこと付き合ってくれと(告白)言えなくて、間違って結婚をって(プロポーズ)言ったんですから」

「それホント?」

「ホントもホント、マジですよ」

 清水はこの草尾という、自分と同じ生徒会の副会長たる少年を、ただ黙って半眼で睨んだ。

 この草尾という男のどこをどう真面目に取ればいいのか、真剣に悩み始めた清水だったが、諦めることにして、本題に戻ることにした。

「それで、彼女はどうだったの?」

「どうって、そりゃ決まってるでしょ?

 流石の僕も初対面にプロポーズが成功するとは思ってないですよ。結果は予想通りです。『貴方に興味がない』って言われちゃいましたよ。

 ふっ……(嗤)流石に傷つくな……」

 清水としては、彼女にやって貰うことになる新入生挨拶のことだったのだが、草尾としてはもう少し引っ張りたいらしく、分かってて話を続けてきた。

「はぁ~……」

 ため息をついて、草尾から話を聞くのを諦めた。

 こんなのではあるが、最初に完璧だと言っていたのだ、それは信頼して間違い筈だ。

 恐らく今は何の話を振っても、そこに行き着くようにするに決まっているので、もう切り上げることにした。

「それじゃあ、そろそろ私たちも行きましょう?」

「おうっ」

 そろそろ式が始まる。生徒会役員たる二人が、遅れる訳にはいかないので、余裕をもって移動を開始した。

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