71.
お久しぶりです……じゃ、本当は駄目だんですけどね
タイトルが上手く思い浮かばなかったのですが、それで投稿をいつまでもしないというのもばかばかしいので、取り敢えず投稿します
空凪作戦が当初の予定とは違った形ではあったが成功に終わり、その翌日は平日ではあったが、参加した各魔法学校は臨時休校扱いとなった。
その明くる日の登校日、当然生徒達の話題は一昨日の話で持ちきりとなる。取り分け、常盤校舎1-Aの教室に置いては、その当事者が居るのだから著しくなるというのは当然のことだろう。
しかし、期待を胸に待つ生徒たちをよそに当事者たる少年、紫司凍夜はいつもの登校時間はとっくに過ぎているというのに一向に現れる気配がない。そしてそれは当然というべきなのか、最早彼の半身とまで皆に認知される妹の紫司小夜も同様だった。
そこで皆の視線はある小女へ注がれる。自分たちよりもより彼らに近い位置にあり、そして恐らくは全ての事情を知っているであろうその蒼髪の少女、蒼縁神埜へと。
だが、高校生活が始まり約一月以上が経とうというのに、このクラスにおいて神埜に気やすく語りかけられる者は凍夜を置いて他になくその凍夜がいない今、それは代わりに誰かが話し掛けねばならないということを指しているのだが、それはこの場にいる殆どの者にとって些かの罰ゲームよりも重い所行と言えた。
彼らのことは気になるが彼女には話し掛けづらい、その如何ともし難く何とも言えない雰囲気の中を勇気を振り絞った(かどうかはわからないが)男子生徒が一人撃ち破り、神埜へと話し掛けた。
「紫司がどうなったのか、君なら分るだろう?」
「ああ、知っている。あいつなら暫く来ない、妹の方はどうだか知らないがな」
神埜のその言葉に皆は一瞬まさか何かあったのかと不安が過った。
「理由は?」
「詳しいことは説明できない。ただ、怪我だとか命に関わるようなことではないから余計な心配はしないことだな」
二人の抑揚に乏しくあまり大きくはない話声は、それでも修之の動きを察して静まり返った教室に行き渡り、教室内の皆に知ることとなった。
何があったのか疑問に思わないわけがないのだが、考えたところでどうしようもないことである。気にはなるが神埜の言っていることを信じるならばそれ程心配することもない筈だ。
神埜も小夜ことではないにしろ、皆の目から見ても十二分に日頃から凍夜を意識しているという事が明確に見て取れる。その神埜がこうして落ち着いているというのだから、言葉通り心配することもないのだろう、と皆納得した。
しかし、そうなってくると現金なもので一昨日のことを聞くに聞けないこの状況に、一同は何ともいたたまれない気持ちに苛まれることになった。
※※※※
三限目の実習Ⅰの授業を前にして、1-Aの生徒たちは漸くその問題へと思考を巡らせることとなった。
「なあ? 大助。この場合、俺たちはどうすればいいんだ?」
"シン"こと間島淳司(最初の自己紹介にて、『"シン"と呼んでくれっ!』っと宣言。理由は不明)が小学校高学年の頃からの友人である坂口大助へとその疑念を問いかける。因みに、大助がシンと呼ぶことはない。
「そんなこと僕が知るわけないでしょ~」
いつもなら後ろの視線を気にして、本来の自分よりも幾分にも姿勢や行動の端々を気に掛けざるを得なくなった彼は、その反動か今日はやけにだらけだ様に見える。否、実際に机に突っ伏し、淳司への返答にも何ともだらけきった間延びした語尾で返した。
「シャキッとしろよな、若しかしたらあの凛々しいお姉様が来て頂けるかも知れないんだからな!」
今朝、小夜が来てないことに誰よりも大げさに落胆して居た者とは思えない程の切り替えの早さに、所詮この男は見目麗しい女性が居ればそれでいいのかと呆れ果てた。
「でも、紫司先生が来てくれることはないんじゃない? 代理の凍夜くんがいないからって。
例の魔獣事件で忙しいから、凍夜くんがやることになったんだよ? 幾ら何でも、たかだか学校の授業のためにそんな重大事件を放ってくる訳ないから」
そして、そのだらけた姿勢のままではあるが現実的で尤もな意見を返し、友人のやる気(?)を大幅に減退させた。
大助と淳司が話していたのと同様に、クラス全体でもその話で持ちきりだ。そして、そんな話が繰り広げる中、始業時間は過ぎたというのに教師はまだやって来ない。
彼らが直面した問題、それは即ち講師のこと。
魔法競技系の授業たる実習Ⅱならば、講師など居てもいなくても監督役の教師さえいれば良い。実習Ⅱは要は魔法主体の体育の様なもので、はしゃぎすぎた生徒たちが無茶なことさえしなければいいからだ。
だが、同じ実技教科ではあっても実習Ⅰは実技指導と訓練が主な内容となっているため、誰でも良いという訳にはいかない。しかし、通常クラスだったならば、それ程大した問題という訳でもなかった。
担当講師が休みで誰かが代行することなど、頻繁にあることではないにしろ寧ろ茶飯事だと言えることである。
なら何が問題なのかといえば、1-Aのクラスが能力向上教育プログラムのテストケースとして、校外からの外部講師の指導の下、独自のカリキュラムによって進行されていることだった。
能力向上教育プログラムは、魔法師育成高校が近年弱体化していうことを懸念されて、発足させられた企画だが、実際のところは一概にそうだとは言えないという実体が含まれている。が、当然それは公には“知られて”いない。
だが、弱体化を懸念しされる要因になった事実は勿論存在する。それが、武闘祭と競技祭などの校外対抗戦に置いての地区予選敗退という結果だ。
全国大会本戦へと出場するためには、地区予選にて上位二枠、そしてそのあとの管区予選にて更に上位二枠以内に残らなければならない。そして、最終的に本戦へと参加出来るのは(高専も含む)全魔法科高等学校中八校だけである。国立育成科は、その中で例年半数以上を占めるという快挙を成し遂げていた。
しかし、数年前から成績不振が続き、本戦出場も常に二枠はどうにか確保出来ているものの斎鳳校舎以外は順当というレベルではいられなくなっている。更には、管区予選どろこかここ数年地区予選すら突破できていない校舎がある。
これらの実績が示す結果こそが“一般”から見る魔法師育成高校が近年弱体化の疑念の要因である。
確かにこれらは事実ではあるが、だからと言って弱体化の疑念が真実であるということの是非とは直結しない。
何故ならば、私立や区立とて何も遊んでいる訳ではない。
私立・区立の教師たちの指導効率も年々確実に向上している。そして、生徒たちもそのより洗礼された指導の下で日々精進しているのだから、魔法学校全体のレベルが上がっているとしても不思議ではない。
更にこの場合には、漠然とした向上意識よりも明確な目標意識が両教師・生徒間に作用したとも考えられる。追う者は追われる者に勝る、国立生という明確な“敵”を持つ私立生は国立生では得られない、ある意味に置いては最高の修行環境を手に入れていると言えるのだ。
故に、結果はどうあれ“弱体化”という事実は本来存在しない。
だが人間は明らかな向上が見られない場合は往々にして、その認識を低下へと向けがちになる。彼らの勝負が圧倒的且つ鮮やか――実力は兎も角、見た目からして明瞭に判別出来、印象に残る……身も蓋もない言い方をすれば派手――な決着の付き方をしていたならば、こうはならなかっただろうが、それこそ無茶な話というものだ。
真相はどうあれ、結果から導き出された結論は誰にとっても何よりも真実である。それを覆すには、同等の結果を見せ付ける必要がある。
が、それは一朝一夕にどうにかなる話ではない。しかし、早急に何とかしなければならない問題でもある。それは、国立としての面目やら個人の廉いプライドなどといったことではない。
確かにそれだけで誰がどう動くというものでもないかも知れないが、“隙と捉えられる可能性のあるもの”はその時点で排除しなければならない。そう、国という組織の維持のために…………
そこで現在の日本の行政組織の最高機関たる支天楼――緋捺璃の管理の下であり緋捺璃が全てを掌握している状態ではあるが、基本的に余程のことがない限りは口を挟まないので、実質的な意味でも最高機関――によって考案されていた対応策が、この能力向上教育プログラムということになる。
最終的な目的としては、更なる全魔法学校のレベルの底上げであり、そのためにも国立生には私立・区立の目標であって貰うためにも頭一つ飛び出ていて貰う必要がある。だが、現段階に置いてそれはまだ先の話であってまだまだその段階には至らない。
そして、目下の目的として重要なのは“弱体化している”という認識を払拭するというところに尽きる。詰まる所がプロパガンダ。
『こう言った対策を取っている。だから、問題ない』『試験運用中であるなら、結果が良いとは限らない』などと思うように一般大衆を扇動し、弱体化云々という思考そのものを有耶無耶にすること、それが現段階に置ける能力向上教育プログラムの表に出ることのない計画目標である。
それ故に、メディアに直接晒されている訳ではないが、その内容はネット上で開示されているのだ。
下位六校のテストケースに選ばれたクラスのカリキュラムは全て異なっている。それでも、一つ共通しているとすればそれは、きちんと体系化された訓練法に基づいて行われているところだ。
だが、一つ例外が存在する。それが、ここ十二校である。
凍夜の指導の下に何やら基礎訓練をやっている様ではあるのだが、それが今一理解出来ない。というのも、端から見た限りではその内容が余りにも低レベル過ぎる。中学生の基礎訓練程度のレベルでしかなく、とても国立に合格した者たちが改めて行うような内容ではないと誰もが思う。
彼のやることにケチを付けるつもりではない――そんなことが出来る者などこの学校は疎か、日本中にもそうはいない――が、やはり意味があるとは国立のエリート教師陣にはとても思えなかった。しかし、自分たちが理解出来ないだけで、それが本当に無意味だとも思っていない。
何せ相手は紫司凍夜。この日本で最強の魔法師にして、最高クラスの魔法師。教師であろうとも知り得ぬ魔法の真理により近き者。ならば、必ず意味がある筈だ、と。
そう思うが故にこのクラスには手が出せないでいる。
凍夜が復帰したときに、彼の意図しない方向へと生徒たちを導いていた場合に、例え格上相手とはいえ自分の無能を晒すということを、エリート意識の強い国立魔法科の教師陣が良しとはしなかった結果だ。
ある程度、文字数的に纏まってから投稿するようにしているのですが、そうするといつもダラダラやってしまうので、これからはもっと区切ってでも豆に投稿しようかと思います
実際出来るかどうかはわかりませんが…………
早く完結出来るように頑張ります…………