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51.魔法/友情

 今や地球に、魔粒子の存在しない地はない。よって、魔粒子ラピスの魔性汚染の危険のない場所なども存在しない。

 そうそれが自然状態であるならば……


 確かに人々はラピスの毒素という負の影響を過分に受ける。だが、それと同時にそれ相応の恩恵をも手に入れているというのも、間違いない事実だ。

 『魔法』そう称される術は伊達ではない。

 人々がある程度その使い道を理解し始めたころより、人々は結界という法をもってその毒素へと抗ってきた。

 しかし、その効果や大きさは術者に大きく作用される。そして、その結界とて完璧なものを作り出せているものは少ない。

 通常よりは結界内の方が活性化ライズが起こりにくい、というだけで無効に出来る訳ではなく。また、外でライズしたラピスを遮断する効果も万全とは言い難いものばかりだった。

 だが、世界で唯一その中で完璧な理想的な結界を作り出したものがいる。

 それが、『血晶結界』を作り出した蒼縁の開祖。『第一魔法』:『悠久』を司る『世界で最初の“魔法使い”』の子孫の家系。それが、蒼縁だ。


 現代の世に置いて『魔法』という定義は、『魔粒子を使って生み出される現象』とされる。

 その意味に置いてはその言葉通りではあるが、現在の世にあって尚通常の意味の魔法という言葉よりも更に、より旧時代的な意味合いが強い、それこそ現在の魔法を旧時代の科学と置きかえるならば、その当時の『魔法』こそが現在の世のそれに当たるという程に、未だ持って不可解であり絶大あり不可能の領域にある『魔法』がただ『三つ』だけ存在する。


 日本に置ける“最高の魔法師家系”『蒼縁』の開祖、『凍結』の『君織蒼きみしきあおい』の『第一魔法』:『悠久』

 QGの世界を救いし英雄、『救済』の『カライル・エルクスティス』の『第二魔法』:『消滅』

 同じくQGの無限の知識、『不老』の『アスラ・ファーノック・レイド』の『第三魔法』:『破壊』


 現在歴史の表舞台で『魔法使い』の称号を得ている彼らの施行した魔法は正しく人々が古来より想像する魔法のそれだった。

 現在通常に使われている『魔法』という言葉は実のところ、理想的なそれに値しない。

 そう呼ばれているのは、"そうありたい""そうあろう"とする希望のもとにある。いずれは全ての者がそうあれる様にと願って……

 そして、定義としては同じではあるが、この理想的な正に『魔法』と呼べる代物を、それを区別する際には『神魔法』と呼ばれる場合がある。


 現在の『魔法』は完璧ではない。

 物質を作り出すことは出来るが、それは一時的なもので内包される活性魔粒子エネルギーが尽きれば消滅する。

 物を消し去るという表現はするが実際のところ質量を消滅させる訳ではない。原子レベルにまで分解することはあっても、その原子を消滅することは出来ない。

 これらは、『この世界オーベ・レセル』が『アカシックレコード』より分岐、創世されたときから決められているこの世界の法則『概念序列ジドリックレコード』を超えられないということを証明している。

 この世界には物理法則というものが存在する。

 この世界は、概念序列の序列順位が決まっている。そしてそれらが、複雑に干渉し合いそれを作り出している。

 そして、より高位の概念を超えることが出来ないということになっている。

 分かり易く喩えるなら『生』と『死』というものがある。

 この世界の序列は死の方がより高位に値する。故に、死した命は生き返らない。

 身体的な働き……心臓が動いているなどを生きていると表現するならば、確かにそれは可能である。しかし、それはただそれだけのことであり、そこに依然と同じ人間性を宿すことはない。

 そういった意味で、生は死を超えることはない。

 これが概念序列と云われるものの考え方だ。

 神魔法というのは、その概念序列をも超越した魔法ということになる。

 悠久――それは正しく尽きることないの魔法の現象。外部の干渉がなければ半永久という時を刻み続ける魔法

 消滅――それは質量保存の法則というものを無視し、原子すらこの世から消し去る魔法

 破壊――それは序列或いは概念そのものを破壊する魔法

 これらは正に、神たるアカシックレコードに反する魔なる法だと言える。


 そして、その三つの内で世界で初めて行われた神魔法、悠久を駆使して施行された魔法:『血晶結界』は二重の意味で人々の希望だ。

 一つは、効果そのものに――――

 今の世で、安全な『普通の生活』をするということがどれ程価値のあることか、それは世界中の誰もが分かっていることであり、それを可能にしている血晶結界が計り知れない価値があるというのは当然の話だ。

 もう一つが、その存在に――――

 神魔法というものの存在が伝説や言い伝えなどそう言った、神聖性だけが高まり信憑性の薄れたものとして伝わるのではなく、実際に存在するものとして『ある』ということの証明になっている。という点だ。

 それ故に、世界中の誰もが焦がれて止まない。

 そして、今世界はその恩恵を受けられるか否かで二分されている。


※※※※


コトンッ……


 っと、机の上に今までノートに淀みなく文字を書き綴っていたペンが、手から滑り落ちてころがっていた。

 それを聴いてから実に数十秒の時が経過していた。

 それを耳にしたときに、その正確な意味が理解出来ずに『そうか』としか思わなかった。

 しかし、その単語の意味をかみ砕き飲み込むと同時に、手の力が抜けた。

「紫司に喧嘩売った」

 少年が同じことを繰り返す。

 上田祐司うえだゆうじは親友と呼べる程に親しい少年、小野大輔の方へと机に向かっていた体を反らし、椅子の背もたれ越しに見やった。

「それは、アレか?

 何時ものつい突発的に怒鳴りつける様なチンピラ風ではなく、物静かにドスの利いた大物の風格を手に入れたと、そういうことか?」

「んっなわけあるかっ!?」

「だとすると、喧嘩ではなく決闘を申し込んだと……そう解釈すればいいのか?」

「だから、なんでそうなるんだよっ!!!」

「そうか……じゃあ言葉通りなんだな?」

 祐司がようやくまともな思考に入ったと思った大輔は、『ああ』と答えた。

 その返答を聴いた祐司は、大きく溜息をついた。

 昔から誤解も色々あったが喧嘩っ早い性格はしていた。だが、流石にそんなことをするとは露程も思っていなかった祐司は心底呆れたという態度を示し、大輔も流石にそれは仕方ないことだと諦めた。

「流石に、今回のはショックだよ……」

 祐司が声を落とした調子で言った。

「……ああ」

 そう答えた大輔の言葉は、先ほどと同じものではあったが、今回の方が明らかに覇気がなかった。

「まさか、お前が女の娘に手を挙げ、あっ!!!あああ~~~~~」

 祐司は椅子から転げ落ちて額を抑えて悶えていた。

「人が真面目に話してんだから茶化してんじゃね~よ!!」

 大輔が祐司の言葉が言い終わる前に、デコピンのフォームで(硬度と大きさがパチンコ玉くらいの)魔弾を弾いたのだった。

 祐司が必要以上に痛そうに叫ぶので、今度は指ガンを作って狙いを付ける。

 その瞬間、祐司は叫ぶのを辞めて正座して大輔と向き合う。

「ったく、お前には真面目に話すってことは出来ないのかよっ!?」

「いや~、昔っから注意力散漫って言われてるからね~~

 お前だって良く知ってるだろ? 俺が、一つの物事にいつまでも集中出来ないって」

「今のは、そういうレベルじゃね~だうが」

 分かってはいたが、やはりこの男に真面目に話しを振ろうとした自分の方が馬鹿だったのかと後悔した。


 たった一月程だったが、その会わない期間でこの男への付き合い方を忘れてしまったのか? と自分を問いただしたく成るほど無駄な時間と労力を使わされた。

 そして、ここに来て漸くこいつとの円満な付き合い方は相手にしないことだったということを思い出し、いっそう疲れた気分になった。

 しばらく不毛な応酬を繰り返しやっとのことで、大輔はやっと話を本線に戻すことが出来たのだった。

「それで、"それがどうかしたのか?"」

(っふん!! つくづく……)

 そう思わずにはいられない。

 『紫司』に喧嘩を売った、そのことを“それが”と言い切ってしまう当たりやはりこの友人は大した器だと心から思う。

「そんときに、アレをやった」

「アレ?」

 アレの意味を祐司は計りかねた。

「アイス・エクスプロージョンだよ」

「早速使ったのかよっ?」

 あれ程の大技だ。魔法学校に入ったばかりのヒヨッ子が使う機会などないと思っていたが、いきなり使用報告が来るとは全くの予想外だった。

「ああ、相手があの紫司だからな」

「っで、どうだった?」

 先ほどまでとは違い、祐司は嬉々とした表情を見せ始めた。

「丸っきり歯が立たなかった。

 俺の力不足で最後まで発動は出来なかったけど、あいつはそれをたった一回で“お前の技”をきっちり見破ったよ」

 凍夜はあのとき大輔に感心していたが、あの技は大輔が考え出したものではない。

「そっか。でもまあ、紫司が相手じゃ、端から勝負以前の問題でしょ。そんなに落ち込むなよ。

 それに、お前なら直ぐ使えるようになるだろ?」

 落ち込むのは自分ではなく寧ろ祐司の筈だが、祐司にその気配は全くない。自分が苦労して考えた技であるのにだ……

「なら、大会目指して頑張れよ!! そこで、みんなの度肝を抜いてやれ」


 祐司は、学業面でも(一部、そうとは認めたくはない部分があるが)それ以外でも頭が良い。しかし、その反面魔力が乏しく、自分で考えた技ですらまともに発動することが出来ないでいる。

 そこで、祐司は大輔と協力し合い研究開発をしているのだった。

 氷片爆発アイス・エクスプロージョンはその中の一つで、出来としては攻撃系で最高のものだった。

 それをただの一撃で、然も最後まで見られもいないというのに見切られたのだ。本来ならば、悔しくて当然の筈だ。

 それは本来大輔にも言えることではあるが、大輔は間近でその圧倒的な様を見せつけたれたので、そんなことを思う気持ちすら失せた。だが、祐司は違うのだ。

 間近で見た訳ではない。そして、自分が直接放つことも出来ない、様々な想いを託した技をあっさりと見切られた。

 通常の思考の持ち主なら、喩えそれが紫司であろうと四大柱だとしても、悔しくない筈がない。

 自身の才能を容易く凌駕されて傷つかない人間は稀だ。

 そして、祐司はその稀なる人間だった。

 というのも、先ほど彼自身で言っていた様な祐司の性格に起因する。『一つの物事にいつまでも集中出来ない』という点だ。

 本来こういった性格は人の短所として挙げられる場合が多いが、祐司の場合は違う。彼は自身のそういった面を理解した上で、それに反らず様々なことに目を向ける様にしている。そして、それが彼の短所たり得ない最大の理由は、彼の場合一挙集中型というところにある。

 一度興味を持つと、寝ても覚めてもそれ一つのことを考える。

 それでいて学校の勉強を疎かにしない当たりは流石というところだが、その代わりに一度興味を失った研究課題は途中であろうと完全放棄する可能性もある。

 しかし、元々頭のいい彼であるので、そこで得られる成果は周囲にもきちんとした評価を得ているのだった。

 彼曰く、『いつまでも楽しくやり続けこと、それがいい結果を出すための秘訣だよ』だそうだ。

 魔法研究は断続的に続けているが、時折別のものに興味を持って数ヶ月単位で別のことに耽っている。

 現に今が丁度そのときで、先ほどまで書き留めていたノートは、最近興味を持ち始めた半導体についてのことを書き連ねていて、ここ暫くは魔法の研究の一部すらしていない。

 そして、今回は被ることはなかったが、研究課題になんらかの接点がある場合には、今までの知識も実に有効的に活用される。

 思わぬところで伏兵もあったりするので、彼にとってこういった性分は損というものではないのだった。


 そんな彼なら知っているかも知れない。そう思って大輔は祐司の元を訪れたのだった。

 大輔は凍夜との決闘の話をして、不可思議な現象のことを訊いてみた。既に、相手の魔法を使役する方法『波導調』についての説明は受けた。

 だが、他の三つに関してはまだ説明を受けてはいない。

 自分はただ一人あの中でその技を使う者と直接手合わせをしているのだ。誰よりも興味があって当然だと思っている。

 それ故に色々調べては見た。しかし、一向にその糸口すら見つからない。

 いっそアップルツリーにでも……っとまで思ったが、流石にそれはやめておいた。

 やはり、これを使うのは負けた気がする。自分に……

 そうして思いついたのが祐司だった。


 大輔の質問を受けて、祐司は全ては分からないが、黒い箱の見当はついたという。そして、それを大輔に伝えた。

(流石、ユージ)

 口には出さずに、胸の内のみで賞賛を述べた。

「さてと、そうとわかりゃ、後は特訓あるのみだな。今度こそあいつをギャフンと言わせてくるぜ!!

 じゃあなっ」

 大輔は立ち上がり祐司の部屋を後にした。

「おう。まあ、頑張ってこいや」


※※※※


 春休み――――公立の合格発表のときから、大輔が一方的に気まずく感じて連絡が取れないでいた。

 それが、大輔が苛ついていた原因だった。

 祐司は頭が良い、しかし魔力の基礎値が乏しい。一応、国立の合格を目指してトレーニングを積んでいたが、基礎値そのものの値はギリギリ足りていなかった。

 しかし、その値でも場合によっては合格者がいない訳ではない。それ故に、一縷いちるの望みを掛けて受験したのだ。

 結果は不合格。

 元々大輔自身は高校はどこでも良かった。正直、普通科でも良かったのだ。

 その大輔が国立(魔法科)へ行くことになったのは、祐司から誘いを受けたからだった。

 誘った側の祐司が落ちて、誘われただけの自分が受かってしまった。

 祐司はそんなことに頓着する人間ではないが、自分が気にせずにはいられない。よって、その気まずさから春休み中には連絡が出来なかったのだった。

 そして、凍夜の一件だ。

 能力不足で親友とまで呼べる友が落とされた、しかし『“魔法”が使えない』凍夜が国立ここにいる。

 そのことが、大輔には納得がいかなかった。

 今は凍夜のその底知れぬ技量と知識をの当たりにして、そんなことなど有り得ないということは分かっているが、入学式当日に詠歌から言われたときには、四大柱としての権力としか映らなかった。最もそれは大輔の事情に関わらず誰しもがそう思っていたことであり、未だクラスの者以外にはそう映っている状態だった。 

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