50.魔粒子/二人の想い
今回は、折角なのでちょっとやらかしちゃってる感じです
悪魔病、嘗てそう称されていた現象は、今ではその仕組みが解明され活性魔粒子性変異霊障害と呼ばれている。
その頃は病の原因は掴めていなかったが、何らかの原因が無ければその様なことも起こるわけもないので、その原因を当時悪魔因子と呼称した。
当時にしてみればその悪しき根源でしかなかったそれではあるが、時代が進みその用法を知り有用性を知り、人類の再復興に不可欠な存在となり、その名称も悪しき根源のイメージを払拭するために、しかし身を滅ぼす危険を孕むことを忘れぬ名称として、現在では魔粒子と命名された。
現在の日本の一部の人間は、本来の表記ではDemonParticle:DPが正ではあるが、それを喩えてMagicParticle:MPと称することもある。だが、流石にそう楽観的な見方を出来る代物ではないだけに、後者は(当人たち曰く)第三世界に限っての、所謂スラングと化している。
魔粒子は自由変数因子というその特性上、非常に移ろいやすい不安定という性質を有し、エネルギーそのものではるが変異する、そしてその状態によってその性質が異なる。
初期状態のときは有害性がなく、エネルギーである筈なのに更に高次元のエネルギーを発生・蓄積させるという性質を持ち、その高次元のエネルギーを有した状態こそが有害であり、また有用でもある。その二つの状態を指して、前者を非活性魔粒子、後者を活性魔粒子と称する。
そして、自然界に置いてこのヒスのがラピスになる、有害な高次元エネルギーを有するための課程は実に簡易的だ。
空間中にあるヒスは、大気中に満ちるエネルギーに作用される。それはつまり、風が吹けば流れ、陽が当たれば熱を持つということだ。
そして、それらによる作用でヒスは容易に活性化する。
今や世界中に魔粒子が満ちているのだから、本来ラピスから逃れることは叶わず、人々の生存率はそのまま活性魔粒子抗毒耐性の有無、耐性値に依存することになる。
故に今の世でも尚、ラピスの魔性汚染が霊障を引き起こし、人々を蝕んでいる。
※※※※
「ところで、アンタさ。何だか“あいつ”と"異様"に仲良くない?」
二人で勉強をする最中テーブル越しの目の前の少女が、今まで会話もなく黙々とノートを書き続けていた状況下で、いきなりの質問を投げ掛けてきた。異様の部分を強調して。
この少女が突飛なのはいつものことだが、今日のはいつものとはなんだか異質な感じだ。
この少女が“あいつ”と呼びそうな対象、少年は“あいつ”を思い浮かべる。
「“あいつ”って“どっち”?」
少年に浮かび上がった名前は二つ。少女にとっては兎も角、自分にとっては両方とも“あいつ”なので、過分にして分かりきってはいるが、それでも敢えて問うて見る。
「あたしが、凍夜くんをあいつ呼ばわりするわけないでしょっ!!」
「だろうね。それで、檜山がどうかしたの?」
入学式当日、凍夜たちと一緒に花見に行った際に同行した一人。
少年はそのときに、檜山と友人になった。
「中学までのことは、仕方なかったことだと思う。それに、あたしもそれで、一応平穏無事な生活を送れてた訳だしっ、あんたのお陰で"あたし自身は"変な目で見られることも無かったわよ……」
少女の声がどんどんフェードアウトしてく。
そして、完全に沈黙はしていないが、今は目の前にいるのに最早聞き取れないくらいの声量で、ごちゃごちゃと言っていることしか分からなくなってしまった。
だが、今度はより熱を込めて語りかける。
「今はあのときとは違う。だから、ああ云うことしなくてもいいでしょ」
例の一件で、この少年少女らはお互いへのある想いを隠すのをやめた。凍夜の粋な計らい(?)……少年にとっては騙し討ちによってだ。
そのことで少年、双子の姉弟の弟である智之は凍夜に感謝の念を抱いている、と共に油断の成らない相手として、要注意人物にも指定した。
あのときのあの歌には、力があった。歌った側には、この思いを伝えるんだと云う意思を漲らせ、聴いた側には歌い手の想いをこれでもかという程に伝えてきた。
その効果があったのは、何も自分たちだけではない。故に、姉弟はそれは間違いないことなのだと確信している。
しかし、自分たちの“唄”にそれ程の力がある筈がないことを知っている。ならば、それはそれ以外の要因、つまり凍夜の“曲”の方にあるとしか考えられない。
それが、どういった理屈なのか、そういったことは分からないが、今の彼らにそんなことはどうでも良かった。ただ、そのお陰で今こうしていられる。それだけで十分だった。
そして、そのことにより、姉弟の関係は進展を見せ始めた。
「分かってる。檜山のことはそれとは無関係だよ。単に、本当に"友達として"仲良くしたいってだけだ。
なんか、あいつ初対面って感じがしないんだよな……なんて言えばいいのか、ちゃんとした言葉では言い表せないんだけど。兎に角、気が合うんだよな」
しかし、だからといって万事全てが上手くいくとは限らない。
少女、双子の姉である麻里奈は近づいたことで逆に感じ始めた智之との感覚差に不安を募らせ始めた。
「それは分かるわよ……あたしもなんだか、初めて合った気はしないし…………でも、あたしの中では何だか眼鏡君って感じがするのよね~……なんでだろう?」
っと、どこからか来るイメージに自分で首を捻る。
「それに、あんたと檜山が一緒にいると何か妙な胸騒ぎがするのよね~……」
そのことでからなのか、中学時代のことがあるからなのか、麻里奈は出会って間もない筈の智之と檜山の関係が信じがたい程に良いことに、何とも言い難い焦りを感じていた。
「っと、まあそれは置いといて、何だか今のあんたたちを見てると、逆転したブライアンとウィルを見てる気分になるのよ!!」
(ブライアン? ウィル? って誰だよ!?)
声には出さなかったが、いきなり訳の分からない外国人の名前を出されて困惑する。
両方とも男の名前であることは間違いない。
きっと、自分の中学の頃のことが、引っかかっているのかも知れないと思う。だが、それがどういった経緯でそうなったかは麻里奈にも分かりきっていることのなので、まさかという思いの方が強い。
(常識的に考えて、あり得ないから……)
双子であっても、お互いの思考が読める訳ではない。
想いや思いは言葉にしなければ伝わらない。
「なら、お前はジニーってか? それこそ辞めろよな!!」
(ジニーって誰だ?)
智之も、麻里奈に当てられ訳の分からない返答を返してしまった。自分で分かっていないのだから、世話はない。
「ジニーって誰よ!?」
「知らねーよ。そっちこそ、ブライアンとウィルって誰だよ。然も、『逆転した』とか何か妙に詳しいっぽい設定まで入ってるしよ!!」
「んなこと、あたしだって分かんないわよ」
「なら変なこと言うなよ」
最早、お互いに訳の分からぬ言い合いになってしまった。
「仕方ないじゃない。寂しいんだからっ!!
分かってるわよ。私の我が儘だってことぐらい。でも、仕方ないじゃない……
貴方と少しでもいられればそれで良いと思ってた…………でも、今はもうそれだけじゃ駄目。少しじゃ駄目!! ずっといたいって思っちゃう。男の友達だって分かってるけど、それでも駄目なの私より誰かと一緒にいるとこが嫌なのっ!!!!」
智之の熱が一気に冷えていく。
否、逆だ。
今の麻里奈の台詞で、今までとは別種の熱が一気に燃え上がった。それ故に、冷静さを取り戻す。
今感じているこの熱は、先ほどまでの訳の分からない不毛な感情のぶつけ合いとは違い、智之が幼き頃から常に押さえ込んできた類の熱だ。
それ故に、押さえつけられる。ずっと堪えてきたのだ、自分はこの熱を……
「悪かった」
「私の方こそごめん……」
「もうちょっと、待ってくれ…………もう少ししたら、もっとちゃんとするから。だから、ちょっとだけ我慢してくれ、頼む」
「うん」
確かに、お互いの関係は良い方向へと向いている。
以前までは、外でボロがでない様にと、家にいるときも智之は姉弟としての装いを崩すことはなかった。それが、今では家の中でなら割と良い雰囲気になることもあるのだ。
自分たちはこの間までとは違う。二人がそれぞれにそう感じていることは間違いなかった。
しかし、だからこそ智之はより冷静になる必要がある。
この間までは二人にとって必要だったのは、智之が今目の前にいるこの少女の強い意志を受け止める覚悟だけだった。
今ではそれを受け止め、進展を見せ始めている。
そして、智之はその段階になって初めて見えてきた問題と直面した。
それが、麻里奈が感じている感覚差の正体だった。
麻里奈にとっての問題は全て解決している。後は、智之との間柄をもっと進展させて行くだけだ。
『恋人として』
正式に恋人になったらもっと楽しいことが待っていると思っていた。家でも学校でも、誰に何を言われてもずっと二人で乗り越えられるとそう思っていたから。
だから、堂々とデートなんかをしたりして、ずっと二人でくっついていられると思っていた。
確かに、自分の考えが急なのかも知れない。
でも、今までにあった壁がなくなった瞬間から、想いは洪水の様に溢れ出し、思いは願望となり慾となり始めた。
今までよりも良い状態ではある。だが、こうなってしまうともっともっとと思わずにはいられなくなっていた。
新たに見えた問題、それは智之自身の想いの強さにあった。
四六時中、家でも学校でも、自分の思い人が側にいる。手を伸ばせば届く、思うままに触れていい……
そのことが還って智之に危険信号を発した。
今までは意図して避けてきた。しかし、もう避けることはしないと決めた。
そして今の状況だ。
智之は自分を年頃の男だと認識している。喩え周りから大人だと評価されようとも、所詮はまだ一介の高校生に過ぎない。
それに、その大人という評価でさえ、自分の想いから一歩引いた態度がそう映っているに過ぎない。
なら、それが無くなったら?
生理的に沸き起こる衝動、本能的に滾る劣情、感情的に燃え上がる愛情……
今まだいい。まだ、何もことを起こしていないし、麻里奈はそこまでの考えに至ってはいない。
しかし、一旦何らかの拍子にこれらを押さえ込む、理性という城壁が決壊してしまったら?
壊れたならば、きっともう元には戻せない。
そして、この余りにもの激しい想いが溢れ続けたならば……
それを思い、智之はもう一度冷静に自分を見つめ直している。自分たちがより良い関係でいられるように。
愛する麻里奈のために。
今後も、こんな感じに進めて行きますので、楽しんで頂ければ幸いです
もし、元ネタを知りたければ、ご一報下さい