48.二人の異端2
今回は、とあるアニメのキャラソンを使いますが、キャラ名は無視して、歌ってる声優さんの名義にしてあります
『じゃあ、先ず魔法陣の説明からだ。知っての通り、魔術を出すための回路だ。
だから、魔術回路なんて呼ばれ方もするわけだが、魔法陣も電気回路と同様の仕組みだと言っていい。そこに描かれる記述式に活性魔粒子が流れることにより、魔法という現象を作り出す』
ここまでは、極一般的な事で、リューダでも知っている。
『その魔法陣だが、これは想像により構想されて、魔粒子結合体によって概念器官に記述される。
構想とは言わば画像イメージ、記述はそれを実際に書き込む作業ってことだ』
そう魔法陣は概念器官内に構築される。更に、ミストラルは不可視の非物質。
通常では、その姿を見ることすら出来ない代物だ。
『ところで、アンタは相手と丸っきり同じ魔法を使えるか?』
『貴方の様な特異魔法でもなければ、ある程度は可能ね』
急激は話題の変化だが、リューダは冷静にヒューガの話を聞いている。
ヒューガは、一見飛び飛びに話を持ち出すが、最後にはそれらを纏めた話し方をするのだった。
『そうか。だが、何故同じ魔法が使えるんだろうな?』
まただ、また意味が分からない。さっきの解答をまだ貰っていないので、謎は深まるばかりだった。
何故か? 同じものを想像しているのだから、当然なのでは? 普通はそう思う。だが、ヒューガが敢えて問うているのだ。なら、きっとそうではないということだろう。
ヒューガは基本的に説明の際でも、相手との意思疎通を図るタイプだ。
それは、自身の認識と他人との認識に食い違いがないことへの確認のためであり、相手の説明をただ聞いているだけよりも、その間でも自分なりの考察をした方が、より理解を深められるということを考えてのことだ。
だが、説明を受ける側にとって状況によっては勿体振っている様にも感じてしまう。
『何故か? それは、さっき言った魔法陣の構想の方法による。
想像と言ったが、実はそれだけじゃない。一応、訊いて置くが、ならアンタは魔法陣を知らないのに、どうやって魔法陣を作ってるんだ?』
リューダは答えない。ヒューガもそこで答えるとは思っていない。
『使用する魔法の想像は脳でする。そして、想像されたイメージは、概念器官を介して、法則をもった式に変換される。そして、その法則をもって変換された式が魔法陣ということだ。
だが、単なる想像を魔法陣に変換するってのは、ダレがやっていると思う?』
殆どの魔法士が魔法陣の構成式を知らない、法則を知らない、しかし魔法陣は存在し実際に魔術は使われている。
『俺たちの脳てのは、得てして良くできたもんだ。いや、若しかしたら、この世界そのものの仕組みがそもそも元からそうだったのかも知れないな。
単なる想像を法則をなぞらえて変換しているものの正体、それは『アカシックレコード』だ』
アカシックレコード、世界録・概念世界など言い様はいくらでもある。ある種において、神とすら表現出来るその存在は、正しく“全ての根源”。
『俺たちの脳ってのは、アカシックレコードと繋がっている。俺たちの魔法のイメージは、アカシックレコードを介するとこで、特定の法則をもった魔法陣へと変換される。だから、同じ魔法が使える。
本来、脳そのものは個人独特のものだ。個人の思考・価値観が絶対的に統一出来ない限り、“同じ”ものを想像しても、誤差が生じる。だから、丸っきり同じ想像というのは、不可能になる。
だが、アカシックレコードを介すると、“相手と同じもの”という部分で補正が掛かって、近似から同一の結果へと変更される。そして、それをコンバーターを通すことで、“同じ結果”の魔法陣を各々に構成することが出来るという訳だ』
そして、ここに来て漸く『自在に過ぎる』ということに繋がっていく。
『だが、“同じ結果を生む式が同じ式とは限らない”』
一瞬理解出来なかった。だが、数学の式を思い浮かべれば単純な話だ。
例えば1という答えになるような式は、一体どれだけあるだろう?
0+1は1になる、2-1でも0.5+0.5でも答えは1……
『流石がだ気付いたみたいだな。そう、そこに行き着くための式は無限に存在するんだよ。そして、それらは個々人の嗜好や好尚によって決まり、アカシックレコードはそれらを最適化した状態で変換する。
数式の様に、1×1=1、0+1=1っていう単純な話じゃないからな。この様式に偏り易いってのはあっても、特定の式が被るということは先ず無いってことだ。
ここで話を戻す。奴の技は最初に言った、魔導調によっての操作・分解、魔法を一端ラピスへ戻す。それと同時に、ミストラルで魔法陣を手動で構築して、その魔法陣にそのラピスを注ぐ。と言った手順だ。
どうだ、理屈は簡単だろう?』
ここに来て、その技――否、この技を使う者の真の驚異に気がついた。
『ご明察。奴は、魔法陣を理解してる。でなければ、成り立たない。
普通に魔術を施行するだけなら、魔法陣は勝手に形成される。だが、その技をやろうとすれば、ミストラルを使って、自身で描く必要がある。ということは、奴が魔法陣が如何ものかを理解していないと、これはなり立たない。そして、それはただ一つの魔法を発動するのに幾万と存在する。式の式素と法則を理解したってことだ』
勿論、これは仮定の話でしかない。
何しろ数学で言えば、加減乗除などの様々な記号や数式。だが、それらは人が勝手に作り意味を持たせたものに過ぎない。
しかし、魔法式は違う。それらは全て、アカシックレコードが決めたこと。それを、通常は目視も叶わぬ筈のそれを、一体どれ程の式素があるかも分からぬそれを、彼はやってのけたことになるのだ。
確かにその一部は知られている。しかし、その全貌となるとまだまだ研究段階で、とてもではないが実用レベルどころか、実験の域にも至っていないというのが現状なのだ。
現在の魔法界でも、魔法陣の視認は特殊な環境下に限られるというのだから、これ以上早足での研究も現段階では出来ないでいる。
それを、模擬戦とは云え実践してきたというこは、彼はその研究を終えたということに他ならない。
一体どれ程の時間を費やしたことだろうか、想像を絶する。
本来なら、あり得ないと切って捨てるところだ。
事実やってのけたのは認めるが、それ以外には出来ぬ筈だ決めつけるか。或いは、全てを理解したのではなく、単純に自身の魔法陣を作り出しただけだとするのが普通の考えだ。
しかし、ヒューガはそうは考えない。そして、リューダもそれを過大評価だとはしない。
『俺も用途は違うがその手の研究をしてるからな、その関連でファナに聞いた限りじゃ、法列式と魔列式は別物だって言ってた。
よもや、ファナみたいな能力者じゃあないとは思うが、奴もなんらかの特異な、それも異端の力を持っていると見た方がいいな』
そんな甘い考えなど一切考えない。
どれ程小さく少ない可能性だろうとも、絶対というものでなければ、それは有り得ることであり、可能だということ。
彼らは、そのことを絶対に軽んじたりはしない。
更に、幾ばかりかの話を終えて通話が切られた。
実際のところは分からない。否、はっきり言って不可能だと思うのが当たり前だ。
そんな内容のことだったが、彼らはそんな馬鹿げた可能性だけでもこうして真剣に話し合わなければならない。
それは、彼らがたった数名で一国という規模の敵と渡り合うため――――というだけに止まらない。
そう、彼らにはある。どれ程馬鹿げたようであっても、ないっと笑って斬り捨てるとこの出来ない、確固たる理由が……
※※※※
《ヒューガBGM:MIZU-KAGAMI/関智一》
それは罪の名……他の誰でもない。自分が背負う罪。
『カナタ』
誰かがそう呼んだ気がして目が醒めた。そのことにより、自分が寝ていたのだと気付く。
リューダとの話の後、そのまま微睡みに落ちたらしい。どれ程かと時計をみれば、一時間も経ってはいなかったが、その短い眠りの中で、夢を見た。
内容までは憶えていない。しかし、夢を見たという事実だけは確信出来る。
内容そのものは朧気にすらも憶えてはいない。だが、幸福な夢だった……そんな気がする…………
それ故に、今は頗る気分が悪い。
夢の中では幸福だった。しかしそれで、現実の自分が幸福になったかと云えば違う。
自分が幸福だと感じる――感じていたときは、幼き頃より他にない。
だが、その幸福が今も同じかと云えばそうでもない……
全てが元通りなら、或いはそうであったかも知れない。しかし、そうではない。
もう彼女はいない。そして、彼もいない。
何より、彼は自分の手で殺めた。
親友だった。心より信頼し、尊敬し、友として愛していた。
その彼を自分の手で殺めた。その事実はヒューガの中でいつまでも消えることなく、癒えることなく、いつまでも深い傷として、報いとして、断罪の業火が燃え盛っている。
以前、彼の偽物を許さないと云う意味を込めて言ったあの言葉、その言葉に嘘は無かった。
彼の死は、自分が犯した罪であり事実である、そう自負している。それ故に、例えどんな理由であろうとも、その友を下らない工作のために利用されるのは、不快を通り越して憤慨に値する。
どれ程傲慢な考えか、分かってはいる。だが、所詮人間は感情の生き物だ。
己の内から自然と沸き上がる感情という泉の、その種類まではどうあっても制御出来るものでない。
例え、傲慢だとしても、本来その権利がないとしても、ヒューガの友も想う心は嘘偽りなく本物だった。
《ヒューガBGM:All I need is love/酒井ミキオ》
近しい家柄に生まれ、幼少の頃から共に励んだ。
いつもいつも彼の方が優秀で、何をやっても敵うものなどなかった。
若輩ながらに最強などと謳われたこともあったが、彼に勝ったことのなかった自分には、全く意識することもなかった。
彼に対して対抗意識というものも全くなかったし、同い年であった彼に、教えを請うことになんの恥もなかった。
ただ純粋に憧れていた。
それ程に魅力と実力に充ち満ちている人物だった。
しかし、彼はもういない……自分が殺してしまったのだから……
彼の実力は当時ですら恐らく今の“自分たち”を凌駕する。それ程の逸材だった。
故にヒューガたちは細心の注意を払う。
当初こそ、ここまでの警戒など必要だとも思っても見なかったが、やはり『彼』の代行品。彼と偽るだけの実力は伴っている。
実際のところはまだ未知数だが、そう思って警戒する。でなければ、足下も救われかねないからだ。
ヒューガは一枚の写真を眺め始めた。そこに、映るのは少年・少女、2・2の写真。
彼を思い浮かべている内に、この写真を見ずにはいられなかった。
中央に映るのは、周りの子どもたちより少し年の離れた少女……以前は、ずっと離れた存在だと思っていたが、いつの間にか彼女よりも歳を取った自分というものに感慨深いものがある。
その少女の(写真を見て)右下の当たりに、この少女を逆巻きにしたらこの子だとうと思わせる程に良く似ている小さな女の娘。
そして、左側には肩を組み合って映る少年二人組。
少年たちにはそれぞれに特徴があった。
片方の少年の左眼には『金緑石の瞳』が輝き、もう一人の少年の右眼には、鮮やかな紫色が讃えられていた。
この作品、ある変化を元に四つの構成になっています
表-表、表-裏、*、?の四つです(敢えて、伏せてます)
現在ストーリーは、表-表の状態で、表-裏を少しずつ動かしつつ、*をちょっとだけほのめかしている感じです