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優しい月のトリニティクロス~My dear elder brother~  作者: F/L
二章・氷上の平穏
31/73

31.模擬戦2

 全力での魔法使用による戦闘というのは、一般人には本来あり得ない。

 理由は単純にして明快、死傷者が出る可能性が高いからだ。

 (この場合は軍以外でという意味で)一般高校は飽くまでも、前途ある若者の心身健やかなる成長を基盤とした教育が目的なのだ。故に、その様な危険なことをさせる訳にはいかない。

 確かに世の中には魔法格闘技というものは存在する。しかし、それは戦闘ではなく試合に他ならない。どれ程本気でもそこにはルールが存在し、禁じ手があるのだ。

 だが、年頃の若者、特に少年たちが自身の力の全てを費やすことが出来ないというのは、なんとも酷なことである。

 しかし、全く存在しないというわけではないのだ。そう例外が存在する。

 それが魔法科高校の武闘祭。だが、この武闘祭の参加枠は選手五名に補欠が二名と実に狭き門なのである。

 故に、本来ならば全力での魔法戦というのは数多の敵・見方・先輩たちなどライバルたちを退しりぞけて初めて手に入れられる権利なのだ。

 それが、不意に目の前に転がってきたのだ。喜ばねば嘘というものだ。

 それも、相手が魔法が使えないとは言え“紫司”であり、理解不能な技まで使うのだ。真実持って手加減――いや、己の限界をぶつけられるのだから、これ以上はない。


《バトルイメージBIBGM:brave heart/宮崎歩》


《ぶっ飛べっ!!》

 また戦闘が再開され大輔は砲口と共に右の拳を繰り出した。しかし、今度は数メートル離れた地点から。

 右手からは恍弾こうだんが飛び、真っ直ぐに凍夜へと飛んでいく。

 凍夜は魔弾に向かって扇子を一振りし先刻と同様の斬撃(?)を飛ばしそれを相殺爆発させた。

 爆風が起こり校庭の表面の乾いた土や砂が巻き上げられて、視界をさえぎられた。しかし、正面から魔導波を感じる。

 そして、土煙を散らしてまた恍弾が迫ってきた。その恍弾は扇子で直接殴りつけて上方に弾いた。

 その動作により出来た隙を突きに横から大輔が直接飛び込んでくる。

 本日三度目の全力による右ストレート、だが今度の拳には魔法が込められていた。先刻までの様に紙一重で躱しただけならばその効果範囲内に巻き込める。

 これで決着だとは思わないまでも今度こそは決まる。その確信が大輔の中にはあった。

 しかし、凍夜とて先ほどまでとは違う。手には武器を持ているのだ。

 確かに今は、先の恍弾を弾くのにその腕を高らかに掲げてはいる。だがその武器はただの武器ではない。魔法が使えぬ者にでも仮にも魔法の力を与えることの出来る武器、Bアムズがある。

 大輔は凍夜(正確には手のBアムズ)から魔導波を感じている。しかし、

(無駄だっ!!)

 と構わずに突っ込む。

 Bアムズは確かに魔法を使えるようにする。しかし、万能ではないというより、制限が多い。故に、魔法師エンチャンターは先ず使わない。これを使用するのは、ライセンスを取るつもりのない(低級の)魔法士マジシャン――マジシャンは元々は魔術師を差す言葉だが、現在は無資格の者をそう呼ぶ傾向にある――くらいのものだ。 

 先ほど見た限りでは出来るのは斬撃か衝撃波か、そういった類のものを飛ばすだけの筈だ。

 ならば、躊躇ためらう理由はない。恐らく、凍夜は次の反撃のためにチャージしている。と大輔はそう判断した。

 それに、大輔は既に次の手を打ってある。ここは引く理由がなかった。

バシンッ!!!

 大輔の右手に痛みが走る。凍夜に触れる寸前で、右腕が扇子で弾かれた。

 弾いたのは扇子の柄尻の部分、そして先端には太い光がジェット噴射の様に吹き出し、大輔の手を退けさせた。

 大輔は凍夜に軌道とそらされた右腕に引っ張られるかの様な体勢で倒れ込む。だが、その拳を地面をえぐる様に叩き付け、その爆圧で自身の体を後方の飛ばし、地面に着地するまでに体勢を立て直した。

 元からそうするつもりであったかの様なバックステップ(?)の動きに凍夜は感心する。そして、大輔は凍夜の方を確認する。

 凍夜はその場に留まったまま大輔の動きを追ってこちらを見ていた。

(なるほどな……そういう使い方もできるわけか。だがっ!!)

 最初に土煙が上がったときに出した恍弾は一つだけではない。

 大輔が講じていた次の手が凍夜の後ろから迫ってきていた。大輔の本命の一撃。土煙の中で凍夜に気付かれぬように、一度明後日の方向に放っていたものだ。

 今までのはこれを当てるための布石だ。

 凍夜は依然として大輔の方を見ているし、恐らく自分から仕掛けてくることもない筈だ。

 大輔からしてみれば戦闘であり、凍夜にしてみればただの模擬戦であるこの闘いに置いて、凍夜は明らかにこちらの動きを見てから動いていた。

 従って、凍夜があの場を動くとしたら自分が何かしらの接触を試みたときだけの筈だ。それにもう避けられる距離ではない。

 今度こそ決まっ――

「何っ!!?」

 ――た筈の恍弾は凍夜の真横を過ぎて、自分に一直線に向かってきた。

 通常飛弾型の魔法は、手元も離れてからでも自身の意思で制御出来る。しかし、何故か今飛来してくる自分で放った筈の恍弾はその制御を受け付けない。

 相手からの攻撃だというのなら冷静な対処もできるのだが、自分の意思に反する自分の魔法という未知の現象に頭が回らなかったがために、回避行動も取れずに着弾した。

「畜生っ!! どうなってやがる」

 着弾はしても、元々全身を強化して有ったためにダメージは小さい。

 特殊な繊維で出来ているだけあって体育着も無事だ。こんなときであるが、そういったことも考えてしまう。初日から体育着をボロボロにしていたのでは洒落にならない。何しろ、彼らはまだ高校生なのだ。親という存在を怒らせていいことなど何もありはしない。

 などということも、少し頭を過ぎり、少しは冷静さを取り戻した。

 そして、一応確認を取る。

「今のはお前の仕業か?」

「ええ、その通りです」

 やはり、凍夜の仕業らしい。先刻の消えた動き、それ以前に回避の動きからだが、何をしたかは全く理解出来ない。だが先刻凍夜が言っていた『今はそのときではない』と、故に頭を切り換えて目の前のことに集中する。

 最初にあった苛立ちの想いは完全に消えていた。が、それとは違う意味で今はどうしても一撃入れたくなっていた。

 大輔は走り始めた。

 しかし、今度は一直線に凍夜に向かうのではなく、周りを円を描く様な軌道でだ。

おのが力を知れ――

 大輔は円を描く軌道を走りながら、呪言じゅごんをゆっくりと詠唱えいしょうをする。

 そしてその間にも、左右の手で凍夜に二種類の魔弾を繰り出していく。

 一つは氷弾ひょうだんを。

 そして、放たれた氷弾は、凍夜の折りたたまれた扇子の先端から延びる剣の形状の魔恍まこうに砕かれた。

――おのれの限界を知れ――

 次に雷弾を。

 それを、凍夜は広げた扇子を一薙ぎして魔恍の障壁にて阻んだ。

 この雷弾はその障壁に接触した祭に、押し込まれた蛇が飛び出すが如く幾筋かの紫電を迸らせ、先ほど凍夜に砕かれた氷弾の欠片を更に砕いていく。

 凍夜は違和感を感じる。

 この雷弾は、電気ではない。雷電の形状性質を伴った魔恍むぞくせいの攻撃に……

――より強き力を望め――

 次にたま氷弾をと、詠唱が終わるまでにこれを数回繰り返していた。

――立ちはだかる限界を超えろ》

 動きに制動を掛けて立ち止まる。彼の走ったあとには綺麗な円が描かれていた。

 大輔のその踏んだ跡はくっきり残り、両の足は器用にステップを踏んで、走っている間に足跡を線にしていた。

 詠唱の時間はゆっくりと時間を掛けたために約十秒程、その間に大輔は五周をまわりながら魔弾を放ち、凍夜はそのことごとくを防いだ。

 凍夜のその様は扇子やそこから放たれる魔恍の光が衣のようにも見え、あたかも舞を踊っているかの様な光景だった。ただ惜しむなら、着ているものが、体育着というのが頂けない。と、対戦中の相手である大輔にすら思わせてしまう程に。

 そして、大輔は両の手を胸の前に、バレーボールより一回り大きいくらいの空間を空けて合わせる。

 その手の間には雷光が迸っていた。今度のは先ほどまでの雷弾とは違う。

 大輔の詠唱はこれのためのものだった。

 この様に詠唱して行う魔術形式を詠唱魔術をいう。呪言を詠唱することは精神統一、要は自己暗示だ。

 よって、言葉そのものに意味はない、自分がより集中できる言葉ならなんでも構わない。長さは己の力量と扱う魔法のによって千差万別だ。

 この詠唱魔術だがこれが高校生くらいの年頃だとある種かなり難しい。

 言葉を発するというのはそれだけで実に効率良く集中力を高めることができるのだが、その実どういうことを言うのかというのは悩みどころだ。

 あまりにも使い古しの様な定型句では自分の中に安易感があり、威力を削ぐ場合がある。だが、あまりにも自己陶酔じことうすいに過ぎる呪言では、周囲の目が厳しい。

 『あいつ自分によってるな~、これからあだ名はナルシーに決定!!』というノリになりかねないのだ。

 大輔の呪言はオリジナルだ。

 大抵の状況では言うこともない。だが、今は恥もなにも忘れて渾身こんしんの一撃を凍夜に加えたかった。

《くらえーー!!》

 大輔の手の中で十分な威力の雷光が作られ、それが凍夜へと放たれた。

氷片爆発アイス・エクスプロージョン

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