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▼~お花見編~ 23.乙女の想い

今回の話から、BGMを入れて行きます。

といっても、タイトルいれるだけなんですけど……


今回は一つしか出してませんが、BGMにはいくつか種類があります。

イメージBGM(IBGM) 意味より曲の雰囲気を重視したもの

シーンBGM(SBGM) 歌詞の意味も含めてそのシーンに合わせたもの

キャラクターサイドBGM(**BGM) **はキャラ名、各シーンにおけるそのキャラクターよりの曲


劇中歌(**IS) **はキャラ名、一部のキャラクターは歌う設定になっております、歌は既存のオリジナルの音声のままで歌うことになっていますので、キャラソンという感じではないかな?

《IBGM:RADICAL DREAMERS ~盗めない宝石~/みとせのりこ》


 花片の舞う桜並木を、特に(神埜以外の)女性陣は嬉々として表情をほころばせて眺めながら、ゆっくりと歩く。

 普段は強い風など(特に女子には)迷惑でしかないだろうが、今は時折吹く風が木々を揺らし、花片を巻き上げとても美しい光景を作り出すため、言葉には出さないが皆それを待ち遠しく思う。

 桜の園と名付けられただけあって、三谷美岡の桜は二区の中でもかなり有名だ。

 蒼時雨あおいしぐれという品種改良された、名の通りに薄い青色の色づいた花片をつける桜で、その桜吹雪は正に幻想的といえる。

 昼間も美しいが、やはり夜のライトアップされた桜はその比ではないと言える程に、また見事に美しい。

 しかし、今日はその時間までいるつもりはないので、残念ながらそれはまたの機会ということになる。

 因みに、この蒼時雨は人が管理してやらねば直ぐ枯れてしまう程に弱く、その管理もとても手間のかかるもののため、二区の中で見られるのはここだけに限られる。

 四区域にはそれぞれにこういった場所が一カ所づつ設けられて、国の管理の下で維持されて、人々の憩いの場として親しまれている。

 決まった目的地はない。みんなでゆっくり出来そうな場所を探しているだけだ。

 それなりに人はいるが、春休みではないので埋め尽くされているわけではない。

「ホントにきれー」

 麻里奈がここに来て何度目になるか分からない、感嘆の声を上げる。

 そんな麻里奈に、凍夜は気懸かりに思っていることを告げる。

「森川さん」

「何?」

「いいんですか? 僕なんかとこうしていて。本当は彼とこうしたいんでしょう?」


《IBGM:beloved~桜の彼方へ~/Spanky》


 『こうして』のところで、右腕を振り上げる。

 麻里奈は、一瞬ハッとして、後方を……智之を確認する。

 先ほどまでの声とは違い、小声で凍夜に語り掛ける。

「分かる?」

「何となくでしたけど」

 凍夜は鈍い男ではない。どちらかと言えば、ことこういった感情には鋭い方だ。

 とはいっても、気づいたのは麻里奈が腕を組んできてからだ。

 そのときから向けられている智之の視線が、教室で接していたときのような大人びた少年のものとはほど遠い、鋭い嫉妬に満ちているものだったので、見当を付けることが出来た。

「ごめんね。勝手に巻き込んで……」

 そう、麻里奈が凍夜に接触してきたのは智之を焚き付けるためだ。

 小夜と凍夜のやり取りを見ていた麻里奈は、凍夜は(いい意味で)女性の扱いになれていると思い、その凍夜に接触することで、智之を煽り立てていたというわけだ。

 決して褒められたことではないので、心から謝罪する。

 事が済んだら事情を話して謝ろうと思ってはいたが、流石にこの段階で気づかれるとは思って居なかった。

「それは構いませんけど、このままだと彼、ただこっちを睨むだけで、何も言ってこないと思いますよ?」

「はぁ~、そうだよね……ねぇ? あたしらのことどう思う?」

 どう思うか?とは、二人の関係についてだ。

 確かに、法的に言えば姉弟きょうだいの結婚には何ら問題はない。しかし、だからと言って人の倫理観というものはそれほど容易く変わるものではない。

 魔族というのは、特別だ。

 彼らの血統が絶えるということは国力の低下、引いては日本という国の存続にも関わってくる。

 故に、人々は魔族の親近婚は当然のものとして受け止めることが出来る。

 しかし、そうでない場合というのは実は以前と変わっていない。

 法的には認められていようとも、倫理観が今まで培ってきた道徳が生物としての本能が……未だ持ってそれを許しはしない。

 魔族は、全部ではないがその殆ど唯家ゆいけだ。唯家でなくとも、魔族の家名くらいは、常識的にしっている。

 故に、人々は直ぐにそれと分かる。従って、それ以外の家の者が、姉弟きょうだいで交際していると世間の風当たりはきつい。

 唯家というのは、唯一家名またはそういう体制を取る家柄のことで、その家の者以外に他で同じ家名(名字)が存在しない家を指す。日本に一つきりの名字を持つ一族だ。

 余談であるが、魔族の家系では蒼縁・紫司の他に、ほとり月友つきとも氷志ひし井吹多いふたなどがある。

 森川というのは、どこにでもありふれた名字だ。勿論、魔族ではない。

 更に、彼女らは双子だ。世間からすれば異常だと思ってしまう。

「お似合いだと思いますよ、本当に。とは言っても、僕の言葉じゃ説得力が在りませんね(苦笑)

 僕らは付き合うという関係じゃあないですけど、それでも普通の兄妹よりは大分仲がいいですから」

「ん~うん、理解してくれる人がいるっていって言うのは、それだけで凄く……本当に、凄く嬉しい……世間もそれくらいの目で見てくれりゃ、あいつだって……」

 凍夜自身が言っていた様に、凍夜と小夜は誰から見てもいい仲だ。

 麻里奈が凍夜に近づいた決め手は、小夜との関係だ。

 自分たちと近い者たち、故に同族意識という親近感を一方的に持っていた。

 だが、ここに来て改めて……きちんと自分たちの関係を知った上で、認めて貰えたことへの喜びは大きかった。

「詳しいことは分かりませんし、お二人とは今日会ったばかりですから、あまり知ったようなことを言うのは、良くないでしょうけど。それでも、今日見た限りでの森川くんはかなり、良識的な方見たいですからね。きっと、貴女のことをおもんばかってのことだと思いますよ?」

「そう……なんだよね。分かってるの。あいつ優しいから、でも……」

「心中お察ししますわ。麻里奈様!!」

 幾ら声を小さくしているとは言っても、流石に小夜との距離で聞こえないわけがない。

 小夜には、聴かれてもいいと思っているからこそ話していた麻里奈ではあるが、小夜のいきなりの介入に少々驚いていた。

「麻里奈様からしてみれば嫌みに聞こえるかも知れませんが、私も似たような想いを抱えていますから」

 凍夜越しに顔を出し、麻里奈へと語りかける小夜の顔には演技ではあり得ない憂いが見て取れた。

 智之は麻里奈を大切に思うが故に、世間体を気にして人目のあるところでは男としての自分をさらけ出さない。

 だが麻里奈は、それに対して寂しさを感じ得ない。自分はどう言われようとも、二人でいることの方が何よりも大切なのだと思うから。

 小夜と凍夜の関係は外から見ただけならば、何を気に病むことがあろうか? という程に良好に見える。確かに二人の仲に問題はない。

 ただ、二人の感覚には大いなるズレがあった。

 小夜は麻里奈に『似ている』と言った。がしかし、それは想いしたうという思いに同じく、想い返されるとい意味に置いて絶対的な違いがあった。

 小夜と凍夜の間にあるのは愛情の相違――――愛という意味にして同じく、その種類にして大いにことなる感覚差が二人にはあった。

 小夜の想いは、恋慕。恋愛感情という恐らくは人間の持つ中で最もぎょしがたく、最も大いなる活力たる感情だろう。

 しかし、凍夜の想いは好意。それ以上でもそれ以下でもない、数多あまたある愛情の中に合って尚、最も根幹にして初歩の感情。

 なんという皮肉だろか…………

 どれほどの愛を説こうとも、それを好意を持ってして、いや好意のみでしか返されることがないのだ。

 小夜は確かに愛の言葉を口にしない。しかし、その想いは全てをその胸の内に隠しきれるほどに小さいものではない。

 体を迫るような直接的な行動も勿論しない。だが、自分に許される限り、妹という立場で表現出来るだけの、あらん限りの愛を、小夜は常日頃から凍夜に捧げているのだ。

 それが、自分の望むかたちでは決して報われることはないと知っていても…………

 小夜と麻里奈、二人の抱える問題は恋愛感情という同じ類の悩みでなりながら、その性質はあまりにも違う、しかしそれでも同じ『女』として、同じ『女として男を愛する者』として、その想いは理解できうるものだった。

 麻里奈には小夜のその抱える想いを知ることは出来ない。

 しかし、先ほど見たあの顔は、見間違いなどではまずあり得ない、自分に対するたかが同情などという感情では作り得ない、そしてどれ程秘められたか計り知れない悲しみに暮れていた。

 故に麻里奈は思う、きっとこの二人にも(悩みという意味で)自分と同じ思いを抱えているのだと。

「どうでしょうか? 折角こうしてお兄様に頼って下さっているのですから、ここはお兄様に全て任せてしまっては如何ですか?」

 麻里奈は驚くしかない何しろ『頼って』というのは正確ではない、本来ならば『利用』していたのだ。

 彼女にしてみればいい迷惑でしかない筈の自分たちのことを、こうまで気遣ってくれるこの少女に、いや小夜だけではない、凍夜にもだ、この二人の兄妹に麻里奈は感激で泣きそうになってしまった。

 今まで自分たちの関係を知って異常だと言う者はいても、応援してくれる者はいなかったのだから。

 そして、ここに来て、自分の行いを恥じた。

 確かに仕方なかったはと思う、何せこの二人のことを知らなかったのだ。

 しかし彼らを知った今、一方的に利用しようとした自分の行いが、どれ程恥ずかしいものかと思い知らされたのだ。

 だがそれだけではない、この二人に知って貰えたことに喜び、そして、矛盾するようだが、恥ずべき筈の自分の行いも、この二人と本当の意味で知り合えたことを顧みると、それも何だか誇らしいことの様にも思えた。

「私風情が、お兄様の意思も確認せず、差し出がましいことを言っているのは、重々承知です。ですが、お兄様っ!! 麻里奈様のお力になって差し上げてはk――――

 凍夜の右手の人差し指で小夜の台詞は遮られた。

 最後まで言わなくても分かっている、小夜は凍夜の行いとその表情からそう読み取る。

「そう自分を卑下する言い方は、僕は嫌いだな。前にも言っただろ? 駄目じゃないか、チャンと覚えておかなきゃ」

 今は左手は小夜が抱きしめていて動かせないので、代わりに右手で小夜の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「はい。申し訳ありません、お兄様っ!!」

 謝ってはいてもその顔はとても満足そうな、満面の笑みだった。

「それに、僕が手伝ったからってどうにかなるとは限らないし、何より――」

 小夜に向けていた顔を麻里奈に向けてた。

「――森川さんの意思が第一だ。どうしますか、森川さん? 貴女が許可して下さるのなら、僕らは貴女に協力しますよ。本当に力になれるかは、残念ながら保証はありませんけど、それでも宜しければ、僕らはお手伝いしますよ」

 この言葉で限界に達してしまった。

 麻里奈は涙を堪えることが出来ずに、嬉し涙に頬を濡らした。

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