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21.特例組

「それでは、行きましょうか」

 凍夜が歩みを促し、沙樹もそれに応じる。いつまでも、浸っている場合ではない。

 だが、今沙樹の頭の中に彼らへの配慮というものはなかった。先輩方には申し訳なく思うが、今沙樹が想うのは凍夜のことだけだ。

 凍夜にこれ以上の迷惑を掛けたくはないという思いから、表面上だけでも普通を装い凍夜の後に続いた。


「済みません、遅くなりました」

 凍夜と沙樹が遅れて到着し、凍夜が開口一番謝罪の言葉を発する。

「大丈夫ですよ、気にしてませんから。さきほど他の子たちにも謝られたばかりですから、そう重ね重ね言われてしまうと、返ってこうちらが申し訳なく思ってしまいます。それに、大変だったのはそちらですから」

 そう言って、香里は朗らかに笑って返した。

「それにしても、いきなり今年の『特例組』がそろい踏みだなんて、正直驚きです。まさか、皆さん知り合いだったんですか?」

 香里はこともなげに言ってのけるが、特例組という言葉に、新入生一同(この場合は凍夜たちだけ)は馴染みが薄い。

 その名称は、凍夜を始めとする特例によって入学したものたちを差すわけだが、それは飽くまで在校生たちの噂話をする際の呼称であるため、新入生の彼らがそれを耳にしたのは詠歌の発言があってからだ。故に彼ら自身は特例組というものが、実際何なのかを知る由もない。

 当然、当人にしてみれば、自分はそれに当たるのだろうという思いはあるが、凍夜は詠歌に大々的に知らしめられたため論外だとしても、それ以外の人間に心当たりがあるわけはない。

 新入生の一般生徒にしてみれば、凍夜・小夜・神埜のこの三名がそうなのだろうという思いこみがあるが、実はその顔ぶれも理由も大きく異なっていた。

 凍夜がそう(特例)なのだから、小夜もそうなのだろうと思っている者もいるが、それは間違いだ。

 小夜は正真正銘、普通に受験(とは言っても、推薦)をしてここに合格している。本来ならば、凍夜と一緒にというわけではなかったのだ。

 よって、このときにはまだ新入生が知る由もないとこだが、小夜は特例組ではない。

 神埜も四柱ということで、小夜と同等の理由により、新入生からはそういう印象を持たれている。

 しかし、確かに神埜は特例組ではあるのだが、その目的は凍夜の件(詠歌に呼ばれた理由)とは別の理由である。

 そして、皆は知らないが、沙樹はその特例組に当たる。

 凍夜はお互いに(ここにいることに)疑問を感じあっていたし、小夜はそんな二人の会話を聞いている、神埜も自分の補佐に人を付けるという話しは聴いていたので、新入生の中でそれを知っているのは、当人たる沙樹も含めて四人だけということになる。

「なんて、冗談です(笑)

 紫司さんと蒼縁さん、お二人が家の繋がりで知り合いなのはわかりますし、紫司さんと中島さんは、同じ中学校の出ですから、知り合いでも不思議じゃないでしょうけど、まさか四区からの転入生の方と知り合いだなんてことはあり得ませんよね?」


 現在の日本は、本州の中心位置に蒼縁の屋敷を据え、それを中心とした結界の中での生活を余儀なくされている。

 とは言っても、その生活圏は本州全域は確保しているので、別段問題があるわけではない。

 因みに昔の区分でいうところの、四国や北海道南部、そしてその他幾つかの小島も結界の安全圏内には入っているが、そちらは政府により、生活圏からは除外されている。

 そして、その本州の区分を現在では四等分にして、上から一から順に番号で区切ってあり、それぞれを四大柱が統括することにより、納めている。一区:緋捺璃・二区:紫司・三区:蒼縁・四区:羽月というかたちだ。ここ常磐は二区の中にあり、つまりは紫司の統括地区だ。

 統括といっても、普段は何かするわけでもない。

 これは、有事の際の指揮系統の最終決定者の明確化を計ったもので、彼らがその地区の政策を直接行うことはない。


 香里にしてみれば、一応疑問系で問うてはいるが、これは付加疑問文だ。

 よって、あり得ないだろうということの確認を計っているに過ぎないのだが、一同はここに来て、それぞれ違う疑問に捕らわれた。

 凍夜・小夜・神埜は他にもいるのか? (然もこの中に)と思い、森川姉弟はそれに加えて沙樹が特例だったのかという驚きも含んもだのだ。

 沙樹は、先ほどのことで頭がいっぱいの状態なので、香里の話などは聴いてはいなかったため、無反応だった。

 そして、凍夜らは森川姉弟の反応から、彼らは違うと判断し、姉弟は沙樹ともう一人を交互に見ていた。

「って、アレ? もしかして、貴方たち知らなかったの?」

 その新入生の反応を見て、驚きと共に質問をする。

 香里からしてみれば、特例組という共通点で集ったものと思っていたので、彼らの反応の方が驚きだった。

「会長代理~~」

 草尾が呆れた様に香里を呼ぶ。

「なに?」

「特例入学者の詳細を知ってるのは俺らだけでしょうが……それに、わざわざ自分からハブられる様なことする奴はいないっしょ?」

 あっ! っと、香里はバツの悪い反応を示した。

 詳細といっても、その理由まではしらされてはいないし、毅は『俺ら』と言ったが、実際にその資料を渡されたのは、会長代理たる香里であって毅は、香里から同じ生徒会の副会長だからということで見せて貰っただけに過ぎない。

 なので、本来彼らのことを知るのは、当人と生徒会長だけの筈だったのだ。

 本来、自分から暴露しなければ、そのまま一般生徒として過ごすことが出来ていた筈なのだ。

 そして、わざわざ自分から悪目立ちしようとする者は少ない。理由はどうあれ、一般生徒からしてみれば、特例入学者を快く思わないのは当然だからだ。

 故に、当人が言わないのは当然であり、学校側もそれを配慮して会長以外には教えていないのだった。

「ごめんなさいっ!!」

 最上級生であり生徒会長代理でもある香里が、下校時刻を程ほどに過ぎ、人の往来(最も今は帰宅のみだが)が少なくなっているとは言え、下校中の生徒の目がある中で、下級生へ人目も憚らずに頭を下げた。

 香里としては当然の謝罪なのだろうが、こんなところで上級生の然も生徒会副会長(会長代理)に深々と頭をさげられる、下級生側にしてみればたまったものではないだろうと思い、毅が両者を気遣って、そして一応は香里へのある意味に置いての罰としての言葉を掛ける。

「はぁ~、最近は大分板についてきたと思ったけど、やっぱり『まさくん』がいないとダメか~?」

 香里はパッと起き上がり、毅に詰め寄る。

「ちょっ!! 誰が雅くんよっ!!?」

「松風に決まってるっしょ」

「べっ、別に私は……(そんな呼び方なんて――)」

 勢いよく詰めかけたが、後半は段々と尻すぼみになり、一人ごとになってしまった。

 これで、香里の方は問題ないので、毅は下級生の方へと向き直った。

「済まないね、君たち。清水も悪気があるわけじゃないんだ。だからって、なんでも許せるとは思わないけど、許して貰えるかな?」

「俺は別に。元々どうでもいい」

 特例組の最後の一人たる修之が答える。そして、自分はいいがそっちが問題なんじゃないか? っと、沙樹の方へと視線を促した。

「そのようだね」

 実のところ沙樹は別に気になどしていない。先ほどのことで、今はそんなことなど全く頭に入っていない。

 しかし、周囲がその様な事情を知るわけもなく、先ほどから不審な反応の沙樹の態度を勘違いしている。

 修之は(凍夜が)少し話しをしただけだが無口な感じだ。だが、そんな沙樹を気遣えるあたりは冷たい人間ではないのだろう。

「お詫びというわけではないのだけど、どうだろう? ここは、僕が責任をもってお付き合いをするということで、貴女の心を癒させてくれませんか?」

 本日二度目、神埜にしてみれば三度目の毅の告白シーンが繰り広げられた。

 毅は手を差し出しているが、沙樹は無反応だった。

「中島?」

 麻里奈が沙樹を気遣わしげに呼ぶ。

 自分の名を呼ばれて漸く頭が外に向いた。

「えっ? 何かしら、森川さん?」

「あんた大丈夫? さっきから変だよ?」

「大丈夫よ。ちょっと考えごとしてただけだから、気にしないで」

「そう? ならいいんだけど」

 今の沙樹の態度に不審な点は感じはない、どうやら本当に考え事をしていただけなのだろうと思い、麻里奈は気を取り直して、皆の足を促す。

「さて、こんなところでいつまでも、立ち話ってのも何だし、取り敢えずは移動しちゃいましょ? 細かいことは、向こうでね? いこいこ」

 毅は最早無視の方向らしい。

 彼は返答の言葉もないまま、その手を下ろすことになり、両肩を深々と下げた。

 そんな彼に誰も(香里も)気を払うことなく一同は、駅を目指して歩き始める。

 そして、小夜は当然とばかりに凍夜の左に立ち、その左腕を絡め取り、登校時の再現をする。それに対して、神埜は面白くない顔をするが、何も言わずに後に続いた。

 だが次の瞬間、空いていた凍夜の右腕を小夜と対になるような状態で取られ、凍夜を始め五人が驚きの表情を表した。

 一番顕著な反応を示したのは勿論小夜だ。

 だが、これ以上凍夜の前で失態を晒したくない小夜は、傍目からは驚いた以上の反応をしめしていない。しかしその実、今までよりも強く凍夜の腕をきつく抱きしめていたのだった。

「えっ?」

「嫌?」

 っと、(身長差から言って自然となる)上目遣いで訊いてくる麻里奈。

「いえ、別に嫌じゃあないですけど……」

 流石の凍夜も歯切れの悪い答え方しかできない。

「じゃ、いいよね(嬉)」

 そして、始めは驚きだったその他の者たちの視線は、今や嫉妬というかたちに変わり、後方から三人(主に麻里奈)を突き刺していたが、その視線を感じて気を揉むのは凍夜だけだった。

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