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19.道なき道を行く

 一同は、香里と毅との待ち合わせの場所へと向かおうとするが、まず教室からどうやって出るかが問題になった。

 行く手には人集りが出来ている。それをいかにして突破するか? というのが問題だった。

 集まっているのは男子生徒が殆どなので、可能性としてはあまり高くないだろうが、不埒な真似をする輩もいないとも限らない。

 失礼ながら顔が並の程度の女子ならそこまで警戒することもないのだが、何せメンバーがメンバーなのだ、警戒しなければならない。

 小夜と神埜は言うに及ばず、沙樹も十分に可愛いと言われる部類に入るし、麻里奈は双子ということでどちらかと言えば、可愛いよりは格好いいや凛々しいという表現が似合うが、十分異性を惹き付ける魅力的な顔だちをしている。ということを凍夜が表現したことにより女子二人は大いに舞い上がっていた。

 始め麻里奈は、何かされる前に突っ切ってしまえばいいと言っていたが、それほど容易く抜けられるほど、密度も薄くはないし距離も短くない、無理矢理突破しようとすれば、野次馬側に怪我人が出る可能性もあるっと、智之に指摘された。

 それでも、それは道を空けない野次馬が悪いのであって、自分たちに否は無いとして、反論する麻里奈。

 幾つかの問答はあったものの、良い案が出ぬまま約束の時間をもう少し過ぎてしまった。やはり無理矢理押し切るしかないのではっと、麻里奈のみならず、皆が思い始めた。

 だが、ここで『女の子に危害が及ぶようなことは、可能性のある時点で却下だ』と、凍夜が断固拒否した。

 確かに女の子ではあるのだが、普通普段からそんな『女の子』扱いを受けることなどまずない、それを何の臆面もなく言い放つ凍夜に、(神埜以外の)女子たちは流石に気恥ずかしさを覚え、頬をほんのり朱に染めている者もいた。

 余談ではあるが、小夜は常日頃そんな凍夜から女の子扱いを受けている。然も、なかり甘々に。しかし、だからと言って凍夜からの好意にれることなど、小夜にはあり得える筈もなく、皆と同じ様な反応を示していた。

「じゃあ、さっきの生徒会の人みたいに、『どいたどいた四大柱のお通りだー!!』ってのは? これなら、安全じゃない?」

「馬鹿! そんな真似できるかっ!!」

 麻里奈の意見に智之が即座に反論する。

「なんでよっ!! これならみんな退けるわよ、何がいけないのよ!?」

「ならお前、自分の名前を誰かに叫ばせて、道を空けさせながら、その後ろを歩けるのか?」

「っう……それは……」

 智之の意見に麻里奈は絶句するしかない。

「無理だろ? だから却下だ。済みません、皆さん。うちの姉がまた変なこと言って」

 麻里奈の意見を智之が却下し、皆に頭を下げる。

 森川姉弟と過ごした時間はまだほんの僅かな時間だが、最早このやり取りはもう既に見慣れたものと成っていた。

 だが、悠長なことを言っていられる時間はない。約束のたる十分という時間を更に十分ほど過ぎている。

「仕方ありませんね。では、空いてるところから出るとしましょう」

 皆が懐疑的な表情を浮かべる。

 廊下が空いてる隙間などない程に人で埋め尽くされているから問題になっているのだ。それを、空いているところとはいったいどういうことなのか?

「皆さんは、空間系・引力系・衝撃緩衝のどれか使えますか? できれば、衝撃緩衝よりは他の二つの方が好ましいのですが……」

 流石にこれを言われて分からぬものはこの場にはいなかった。

 確かにそこなら空いていた。

 しかし、問題がもある。

「私は、どれも無理かな……一応、緩衝は使えるけど、今回のは耐えられるかどうかは、流石にわかんないから……」

 沙樹だった。

「わかりました。他の方は?」

 他とは言っても、凍夜は端から小夜と神埜のことは気にはしていない。

「あたしらは平気。引力操作はよくやってるから、ね?」

「ええ、姉のキューブの練習によく付き合わされてますから」

「オレは衝撃緩衝でいける」

「わかりました。では、行きましょうか」

 そいうって、凍夜たちは外側の窓の方へと進んでいく。

 そして、ベランダ出た時点で真っ先に修之が何の躊躇いも見せずに、ガードレールを乗り越える様なのりで飛び降りた。

 時間にして約1.5秒。その間に緩衝魔法を発動し、着地の体勢を取り、無事にアスファルトの上に降り立った。

 降りた先を見て見ればものが落ちた痕跡がない、きっちり衝撃を相殺した証拠だ、大した演術力えんじゅつりょくである。

 それに、なかなかの度胸だ、と凍夜は感心する。

 いくら衝撃緩衝魔法を使うとはいっても、(魔法科に通う)普通の高一なら、高さと自己の重さから衝撃の計算を行い、チャージ(魔粒子を活性化して待機した状態)し、発動させてから飛び降りるものだ。

 それに、いざ飛ぶとなるとこの高さだ、魔法の施行が無ければ大怪我・死傷にもなりうるのだから、躊躇われて当然の高さである。沙樹のように、少量の不安でもあればまず出来るものではない。

 自己の怪我を恐れて必要以上に力んで、地面に跡を残すのが、普通の高一レベルだ。

 そして、普通とはいっても、これは塾――とはいっても、どちらかと言えば道場のイメージ――やかなり有力な私立校に通っていた者の場合だ。

 基本的に、中学までの魔法科は『魔法を使わない方法を学ぶ』ところであり、本格的に『使う方法を学ぶ』のは高校からということになる。つまり、今のこの入学式当日という時点で、これほどのことを平然とやってのけている修之は、かなり高いレベルといえるのだ。

 続いて森川姉弟、まずは弟の智之がベランダの壁の脇の手摺りに立った。

 そして、そのまま前に踏み出し、直角に回転してベランダの壁に垂直に立った。

 そこから、ベランダ横の壁へと移動してから、姉の麻里奈を呼び手を差し出した。

 麻里奈は修之の手を掴むと、足に力(極々微弱な強化魔術)を込めて、ベランダから飛び出し、智之がそれを引っ張って壁に垂直に立たせた。

「じゃ、あたしらも先降りるね」

 といって、壁を地面に向かって垂直に降りていく。

 彼らが使っているのは、どうやら自概じがい制御式の引力系魔術のようだ。と、凍夜は看破する。

 自概制御というのは自己中心性概念制御のことで、自分を(含む含まないは任意)中心に捉えて、周囲の概念的事象を制御することを差す。

 つまりは、今彼らの中での世界では、彼らの足の着いた方向が地面という認識になる。

 ただ引力で足を壁につけた場合には、身体は重力の働く方向に加重がかかるため、それを制御するのに、何通りかの方法があるが、結局どれも複数の魔法を使う必要があるのだが、自概制御はそれを意識することで、それらを複合した魔法を最適化した状態で、つまり一つの魔法として発動することが出来るというのだ。

 もっとも、これは意識しなくても基本的に人間は自分を中心にもの事を捉えているので、当たり前ということにはなる。

 実は魔法というのは、これらのように無意識的に様々な作用を用いて施行されることが多いのだ。だが、その原理を知るのと知らないのとでは、天と地程の差がある。

 そして、彼ら(1-Aの生徒たち)は今後その事を凍夜から見せつけられることになる。

「お兄様、ではご一緒に」

 小夜は当然とばかりに凍夜へと手を差し出し、一緒に降りることを促した。

 勿論、沙樹も一緒にだ。本来別に手を繋ぐ意味はないのだが、そこは気分の問題である。

 しかし、

「いや。僕は中島さんと二人で降りるから、小夜は先に降りてなさい」

「えっ?」

 沙樹が素っ頓狂な声を上げてしまった。

「……分かりました。では、沙樹さんお兄様をお願いしますわ」

 凍夜の言葉に、沙樹は驚き、小夜は内心かなり渋々ではあるが、凍夜の命に反する小夜ではないので、それを了承して、沙樹に凍夜を頼んだ。

「じゃ、あたしも降りてるわ」

「えっ!!」

 小夜と神埜までがいなくなってはいったい自分たちはどうやって降りるのか? っと、沙樹は慌てた。

 そして、その間にも二人は宙に浮き、下の方へと離れてしまった。

「ちょっと紫司さん、どうするのよ? 私、さっき無理っていったじゃない!!」

 凍夜が魔術を使えないのは知っている、ならこの場合自分がやるしかない。まさか、土壇場で出来るようになれ、というわけじゃないだろうなっと不安に駆られる沙樹。

「大丈夫です、落ち着いて下さいよ」

「でも、いったいどうするのよ?」

「では、取り敢えず、お手を宜しいですか?」

 っと、自らの左手を差し出してきた。

 その様は、中世貴族の貴公子よろしいもので、そこに手を置いたら、手の甲に口づけをされる(して貰える)のではないかと、おずおずと手を差し出す沙樹。

 先ほどまでは不安が駆け巡っていたが、今は身体が心臓になったかの様に、全身を血液が駆け巡っているのがわかる。

 凍夜がそういうことをしないのはわかっている筈なのだが、どうにも凍夜といると理性的ではいられなくなる。

 凍夜といるときのこういうところが、実は何かしているのではないか? と疑いたくなる理由だった。

「では、チャージだけお願いしてもいいですか?」

 凍夜の手に沙樹の手が置かれ、凍夜がその手を親指で挟むように軽く握り、沙樹に指示を出した。

 何もない、当然だった。

 そのことに、安心したような、残念なような沙樹は取り敢えず落ち着きを取り戻した。

 そして、凍夜の指示に怪訝な表情になる。

「チャージだけ?」

「ええ、あとはこちらでやりますから」

 こちらでやる?――――どういうことなのかは分からない。しかし、今は素直に凍夜の言うことを聴く沙樹。

 取り敢えず、チャージしようと魔粒子ヒス活性化ライズさせたら、その瞬間から自分の中に魔術の使用感が湧いてきた。

 あり得ない、自分は今何もしていない。だが、これは間違いなく魔法の発動する感覚。

 然も、今まで感じたことのない感覚のもの、つまり今まで自分が使ったこのとのない魔法ということだ。

 そう思っている間にも、いつの間にか体が、先ほどの小夜や神埜の様に浮いていた。

「えっ? うそっ!!?」

 いろいろなことに頭が混乱する。

 そんな、慌てる沙樹に凍夜は、自分の指示に従うように言った。

「大丈夫ですから。兎に角、今は何もしようとしないで下さい。あとは、ゆっくり降りるだけですから」

 体は、ベランダを完全に抜けて、何もない宙に浮き。ゆっくりと、地面へ向かって降下していく。

 凍夜と沙樹がアスファルトの上に足を着いた。

 これで、皆無事に降りられたことになるが、今や問題はそれだけではない。

「さて、もう随分待たせてる筈ですから、急いで靴に履き替えて、正門へ向かいましょう」

 っと凍夜は、皆を次の行動へと促した。

 沙樹はまださっきのことに呆けている。

「中島さん!! 詳しいことはあとで説明しますから。今は急ぎましょう」

「えっ? ええ……」

 沙樹としては一刻も早く知りたいところではあったが、今は人を待たせている。取り敢えず、自分の疑問のことはおいやって、何とか体を動かす。

「取り敢えず、今のこと今のところは他の人には内緒にお願いしますね」

 沙樹の耳元で凍夜が悪戯な笑みを浮かべて囁いた。

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