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18.お花見の誘い3

 小夜は凍夜の腕の中で、凍夜の鼓動を聴きながら、なんとか自分の想いを押さえつけるために、凍夜の身体へと両の手を回し、本来なら苦しみを感じてしまう程にきつく抱きしめ、凍夜の胸へと自身の顔を押しつける。

 泣いては居なかった、自分でも何かは分からないが、ここで泣いてしまっては自分の中で決定的になってしまう気がしたから。

 そして、今朝からのことを思う。

 朝はいつも通りだった、登校は初めて凍夜と一緒に登校して凄く楽しかった。ここまでは、いつも通りの自分だった。

 しかし、校舎に入ってから沙樹と凍夜のやり取りと見たときからずっと調子が狂いっぱなしな気がする(別に、沙樹を悪く思っているわけではない)。

 確かに、凍夜と二人で誰かに会う機会というものがそもそも無かったのだから、若しかしたら、今までの生活の方が異常だったということはありえる。でも、たった数時間の間に自分がどれだけ取り乱したかを考えれば、今日はやはりおかしい。

 日が悪かった、偶々自分が感化される事態が重なってしまった、その程度であってくれればいい。

 だが、もし今後ずっとこの様な事態が続いたら……、果たして自分はこのままの凍夜との距離を保つことが出来るのだろうか? っと、不安がよぎる。


 普段から感情の起伏が激しいわけではないだけに、今日の今までの間での度重なる躁鬱により不安を抱いていた。

 凍夜と二人きりのときはずっと躁状態(それはそれで問題ありなのだが……)なので、鬱になる機会は限定される。加えてそれは、前もっての覚悟を決めてから望むことが殆どだったので、ここまで落ちることはなかっただけに、尚更といえた。

 今は取り敢えずでもなんでも、構わなかった。兎に角、一時的にでも自分のこころが落ち着いて欲しかった。

 小夜の内心など知らぬクラスのものたちは、『またか』っという思いに嘆息する。

 そして、今度の抱擁は先ほどまではホンの一時いっときであったのに、既に2分も経っている。周囲としては、いつまで続くのかと呆れるしかなかった。

 そして、クラスのものたちだけならいざ知らず、A組の廊下にはいつの間にか、人集りが出来ていて、そこからは、凍夜に対して(主に男子からの)キツイ視線が注がれていた。

 就業のチャイムがなってから、即人集りになっていたのだが、皆外に出ることもせず、興味は教室内に集中していたため気づいたいなかった。

 勿論狙いは、四大柱の三人――元い、見目麗しき二人の美少女の小夜と神埜である。

 故に、その内の一人である小夜を独占しているのだから、いくら兄たる凍夜といえど許せる所行ではなかった。

 そこへ、大声で人を掻き分けて教室へと入ってくる二人組がいた。

「はいは~い!! 皆さーーん、生徒会長代理様のお通りで~す!!! 道を空けてくださ~いっ!!」

 草尾副会長の声だった。

「ちょっと、草尾くんっ!! わざわざ私をダシにしないでよねっ!!!」

「いいじゃないですか、細かいことは気にな~い、気にしな~い」

 清水としては、こんな(性格の)人間が、総合主席――全教科にて主席なので、正に正真正銘の学年主席であり、それも入学時から、そして(国立魔法学校)全校でも六位というのだから、納得がいかない。

 国立生の目標の一つたるシフトアップを蹴ってのけるあたり、どういう神経をしているのはが、本当に理解出来なかった。

 そんなやりとりをしながら、草尾が飄々と、清水がこめかみをおさえいかにも悩ましげなポーズを取り、教室に入ってきた。

 そして、二人は凍夜と小夜の状態に絶句する。

 暫し惚けてからやっと言葉が出てきた。

「流石のオレも驚きだな」

「ホントね」

「まさか、こんな白昼堂々こんなことするバカップルが、お前ら以外にもいたなんて……」

 二人の驚きの観点は別のところにあった。

「って、お前らって誰のことよ!!?」

 反応してる時点で自覚してるじゃないかと、からかいながら返す草尾。

 清水にして見れば、ここまで酷くないとのことだが、どうにしろ端迷惑なことに変わりはないと、草尾は今度は思うだけにして、言葉にはしなかった。

「しかし、まあ……これは、やりにくいな……」

「そうね。どう声をかけたものかしら」

 そうはいいつつも、二人へ歩み寄っていく生徒会員の二人。

 だが、丁度そのとき小夜が凍夜から離れた。別に二人に気づいたわけではなく、単にタイミングが良かっただけだ。

 二人(草尾)は、今が好奇と話を切り出す。

「ちょっと、宜し……いかしら

「僕と付き合って下さいっ!!!!」

 清水が、凍夜(たちの集団へ)と話をしようとしたその横で、草尾が小夜に交際を申し込んでいた。

 お前は今何を見ていたのか? という思いやいつもの病気が……など、いろいろ思うところはある清水だったが、今は何より、こいつと知り合いだという自分が何よりも恥ずかしく思えて来た。

 開口一番交際を申し込んできた草尾に対して、小夜は誰なのかと取り敢えず身元の確認を計った。

「失礼、貴女があまりにも愛らしかったので、つい心からの言葉を素直に出してしまいました。

 僕は、三年魔術実習専攻とくじBクラスの草尾たけしと申します。

 慈善活動で本校の副生徒会長をやっておりますので、以後お見知りおきを」

 っと、如何にもな自己紹介をやってのけた。

「草尾様、申し出はありがたいのですが、私は殿方との交際はまだ考えられませんので、縁が無かったものとお引き取り下さい」

 小夜は、言葉遣いは丁寧だが不機嫌に、言い返す。

 普段は、他人に不機嫌な態度をとることなどあり得ない話だが、タイミングがあまりにも悪かった。

 単純にじゃれついていた後なら、面白い人だと笑って返していた筈であり、単に話掛けただけなら、普通の対応が取れた、がしかし、草尾のこのタイミングでの『告白』という行動が、小夜を不快にさせてしまい、今の小夜にそれを押し隠せるほどの余裕はなかった。

 仕方ない状況ではあった、がだからといって、他人にそんな態度を取るような人間を凍夜は好まない、それを知っている小夜は自分の取った態度に嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

 凍夜はそんな小夜の頭にポンッと左手をのせて、軽く髪をかき乱すようになでた。

 ガックシっと自分で効果音を発しながら項垂れて見せるが、別に小夜の返答や不機嫌な態度は関係がない。

 草尾を知るものならば、ここまでが一連の挨拶ということになっている程に、茶飯事のことだった。

「紫司小夜さん。私は同じく副生徒会長で三年、魔術総合そうごうBクラスの清水香里かおりです。

 不機嫌にさせてしまった様で、申し訳ないわね(苦笑)

 彼の事は気にしないで、アレが彼の挨拶みたいな病気だから」

 草尾の所為で、いきなり話の腰を折られてしまったが、気を取り直して改めて話しを持ちかける。


「それでは皆さん、改めまして、副生徒会長であり今は不在の生徒会長の代理を務めている清水です。

 この度は、入学おめでとうございます。

 入学そうそうではありますが、私たち生徒会は、紫司凍夜さん・小夜さん・蒼縁神埜さん、貴方たち三名を生徒会に勧誘に参りました。お時間宜しいかしら?」

「それは、校内でということになりますか?」

「あら? 何か予定がお有りかしら? 用があるのであれば、そちらを優先して頂戴、こちらはいつでも構わないわ。

 でももし、私たちが同行してもいいのなら、こっちは別にどこでも誰に聴いて貰っても構わない話だから、同行させて貰えるとありがたいわね。出来るだけ早い段階で決めてしまった方が、誰もためにもいいことだと思うから」

「ということですけど、皆さんはどうですか?」

 凍夜は、皆に確認を取る。皆は、首を縦に振ることで了承の意を表した。

「では、皆さんの同意も得られたので、お話は道中や着いた先でということで、お願いします。行き先は、三谷美岡みやみおかの桜の園です」

「あら、お花見! いいわね。分かったは、私たちは鞄を取ってくるから、後で正門前に集合しましょう。時間は10分後でいいかしら?」

「ええ、わかりました」

「それでは、また後で。行くわよ!! 草尾くん」

 おうよっと答えて、毅も香里の後に続いて教室を後にした。

「いきなり、生徒会に勧誘とは、流石は紫司と蒼縁ね~」

 っと、麻里奈は感心を露わにした言葉を発するが、智之がそれをたしなめた。麻里奈にそのつもりはないが、要は家柄で引き込まれたと言っている様なものだ。

 そんなやり取り見た凍夜は、やはり良くできた弟だなと智之に感心する。

「なんか、事ある毎というか、何もなくても、どんどん人が増えてくわね~」

 沙樹が楽しそうに凍夜に語り掛けた。

「中学のときもそうだったけど、シヅカちゃんってホントは人集めのまじないでも、使ってるんじゃないの? 然も、絶対に魅惑系よね~」

「中島さん、それホントに洒落にならないんで、やめて下さい」

 沙樹は、中学のときのことを思い出す。凍夜の周りには常に人がいた。

 しかしそれは、紫司という名に集まったのではなく、皆『紫司凍夜』という人物と共にあろうと集ったものたちだった。

 最初沙樹は、そのことに嫉妬していたのだ。自分は、衆家という立場ですら友達を得ることが出来なかったのに、宗家の人間がこうも人を自分自身に惹き付けていることに。

 しかし、気がつけば自分もその中にいた。そして、いつの間にか恋心まで抱いてしまっていたのだから。これは、本当に何かしているのではないかと思ってしまう。

 凍夜も凍夜で、中学時代を思い出しているらしい、ここにいる沙樹以外が知らないエピソードをいくつか思い出しているのだろ。

 凍夜は項垂れ、沙樹は笑っている。

「さて、時間もないですし、最後の方を誘ってしまいましょう」

 凍夜は時間のことを気にて、早々に次の行動へと移った。

 (そのときはまだ誘われて無かった神埜までを含めた)皆が、そう言えばっと思い出す。

 神埜と凍夜のこと、神埜と小夜のこと、更には三人と生徒会のことですっかり忘れていた。

 誰を誘うのだろうと誰もが思う。

 凍夜は、沙樹の机の前を抜ける道で移動し始め、その動きを見て、神埜だけはその相手に見当を付けることができた。凍夜の止まったのは、廊下側から二列目の一番前の席の前。

 その席の男子の制服を着た生徒は、誰とも話しをしていない上に、端末をいじるなど何かをしていたわけでもなかった。

 就業のチャイムが鳴ってから今は約20分ほど経っている、その間この生徒は帰る素振りすら見せずにそこに座っていたことになる。

 凍夜が前にくると、訝しげに顔を上げた。

 そんな生徒に、凍夜は迷わず声を掛けた。

檜山ひやまさん、一緒にお花見に行きませんか?」

 クラスの生徒の名前は机の端末で調べられる(が、普通誰もそれを見ない)、凍夜は最初にこの生徒が一人で教室に入ってきて席についた段階で、既に名前を調べていた。

「オレが?」

「ええ。無理にとはいいませんけど」

「何故だ? あんたとは初対面だと思うが?」

「ええ、初見ですよ。理由は、僕側の至極個人的なことです。それも含めて、出来ればあなたとはお話がしたいと思いしてね。どうですか?」

「メンツはさっきの連中だけか?」

「ええ。もし、あなたの方で誰か誘いたければ、増えても問題ありませんよ?」

 檜山はチラッと小夜たちの方に視線だけを流し、数秒の時間を思考に費やした後、

「迷惑じゃないのか?」

 っと、同行を前提とした質問を返してきた。

「大丈夫ですよ。迷惑なら始めから誘いませんし、そう感じたら斬り捨てますから」

 凍夜は、初対面の人間に対して普通は言えない様なことをサラッと言ってのけた。

 これに、対して檜山は逆に快くしたようだった。

「クッ……ハッハッハッハ」

 豪快ではないが、含みのない笑いだった。

「いいな、おまえ。気に入った。檜山修之のぶゆきだ、宜しく」

「こちらこそ。紫司凍夜です」

 修之が立ち上がり、二人は握手を交わした。

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