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決戦に向けて

 アレンとハワード、そしてルシアとレナ。四人は手を組み、闇に潜む何かを探り始めた。その過程でレナに、とあることを告げられる。

 その言葉を胸に引っ掛けたまま、アレンは屋敷へと帰宅した。


 ハワードと自室に入り、扉を閉める。部屋の奥にある細長い鏡の前へ向かい、黒い燕尾服を脱いだ。

 鏡に映る彼の表情は浮かない。青ざめてはいないけれど、顔色がいいとは言えないほどには疲れが出ていた。


 (いろいろあって、かなり疲れた)


 甲斐甲斐しく世話をやいてくれるハワードを横目で見つめながら、ため息をつく。


「……ハワード、彼女が言っていたこと、どう思う?」


「よく、わかない」


 ハワードは苦く笑みながら、シャツだけになったアレンを後ろから抱きしめた。そしてアレンの白くて細い首や鎖骨に、ゆっくりと口づけを落としていく。


「んっ」


 ハワードの優しくて温かな馴れ合いに、幸せを感じた。ピクリと反応してしまう自分に恥ずかしさを見出だし、頬を赤らめていく。


 (ああ。そうだ。私は、これを待っていたんだ)


 アレンは彼の甘える姿に愛おしさを覚えた。顎を肩に乗せてくるハワードの頭を、優しく撫でる。


「ふふ。我慢、できないみたいだね? 本当に君は、野生児のようだ」


「しょうがないじゃないか。アレンがあまりにも美しくて、俺を誘惑してくるから」


 ハワードは無邪気に微笑み、アレンを横抱きにした。そしてベッドへと押し倒す。

 アレンの輝くばかりの銀髪がベッドの上に広がった。ハワードがその髪の毛を指に巻きつけ、軽く吐息を溢す。そんな彼の瞳は実に野性的。色欲という名の野心に取り憑かれかのような、激しい呼吸を(まと)っていた。

 

 (ふふ。少しの間離れていただけなのに。こんなにも、私を求めてくれるなんてね)


 余裕のある眼差しを彼に向けながら、ハワードにされるがままの夜を過ごした。


 □ □ □ ■ ■ ■


 二人が愛を確かめあった数時間後、アレンはベッドの中で布団にくるまっていた。うつ伏せになり、レナから授かった攻略本を読んでいく。


「……確かにここには、隠しルートの攻略法が書かれているな」


 隠しルートはすべてのエンディングを迎えると現れる、最後のルートという話だった。そのルートでのアレンは二つの結末を迎えるという。

 

「確かレナ嬢は、こう言っていたな」


 解散する間際、レナがアレンたちに隠しルートについて伝えてきた。


『隠しルートで、アレン様は生存する道もあります。ただあれは、選択肢によって運命が変わるものなので、あまり関係ないかもですが……』


 そう話すレナの表情は、困惑と疑問が入り雑じったような瞳をしていた。


『…………でも、どうしても思い出せないことがあるんです。アレン様が生存する道なのは確かなんですけど』


 歯切れの悪い言い方をする。けれどすぐに前を向き、決意をした視線で唇を動かした。


『二つある内の一つは、アレン様が生き延びられる道です。でも、アレン様は意識不明になって……眠り続けることになるんです』


 唯一の生存結果がこれとはあまりにも鬼畜。その場にいた四人はため息をついて、ゲームの考案者の人柄の悪さにげんなりした。

 

『だけど……どうしてそうなったのか。私、そこだけがどうしても思い出せないんです。この攻略本には結末しか載ってなくて、その過程が不明なんです』


 申し訳なさそうに説明をしていく。そんなレナに何度も謝罪されながら、アレンは自らの運命を呪った──




「──レナ嬢いわく、この世界の主人公は私なんだそうだ。その私が、すべての結末で死ぬだけ。唯一の生存ルートですら、未来そのものがないときた」

 

 やっぱり嫌われているのだろうか。心は痛みはしないけれど、悔しさだけが募っていった。

 攻略本を閉じ、枕に顔を埋める。


「アレン、紅茶淹れたよ」


「ん? ああ、ありがとう」


 ギシッとベッドが軋んだ。顔を上げればそこには、上半身裸のハワードが座っている。湯気のたっているティーカップを二つ持ちながら、一つをアレンへと渡した。

 アレンは体を起こして紅茶を飲む。布団という、薄い布一枚のみが彼の体を包んでいた。

 その姿は儚く、とても神秘的な雰囲気を放っている。ハワードのように筋肉質ではなく、かなりの細身。その細くて華奢(きゃしゃ)な体はしなやかで、美しい脚線美を描いていた。

 

「…………」


「……ん?」 


 隣からゴクッと、紅茶を飲む音とは違うものが聞こえてくる。見ればそれは、ハワードが喉を鳴らしている音だった。

 アレンの美しくも妖艶な姿に、再び欲が出たのかもしれない。そんな正直すぎるハワードの感情に、アレンは思わずプッと吹き出してしまった。


「むー! し、仕方ないよ。君が、あまりにも魅力的なものだから!」


 珍しくもブー垂れる。厳つくて強面な外見を裏切る子供っぽい仕草だ。


 アレンはそんな彼が愛おしくて、ついつい抱きつく。そしてハワードの膝の上に頭を乗せ、ふふっと艶っぽく微笑んだ。


 ハワードはあわあわしながら、耳の先まで真っ赤になる。


「まだ、足りなかったりする?」

  

 コテンッと、小首を傾げた。上目遣いでハワードを見つめ、小悪魔ばりに彼をおちょくる。

 

 するとハワードは……


「うわっ!?」


「アレン、君がいけないんだ!」


 アレンの腕を引っぱり、ベッドに再び押した。はあはあと発情した瞳と呼吸で、アレンの両手首を掴む。


 アレンはアレンで、それをわかっていてやっていた。したり顔で片口を上げ、存分に彼からの愛を楽しんだ。


 □ □ □ ■ ■ ■


 翌日、アレンはハワードを連れて、ルシアの屋敷へと訪れていた。すでにレナも集合しており、四人は応接室で情報交換を開始する。

 それぞれが手に入れた情報を、一つ一つ語っていった。


 最初に話をしたのはレナだ。彼女はノワール皇子の婚約者の座についたフリをしながら、彼の動向を監視している。


「隠しルートについて、思い出そうとしてはいるんですけど……ごめんなさい」

 

 つねに霧のような何かがあって、それが邪魔をしてしまってた。思い出そうとすると頭痛に蝕まれ、苦しくてしかたないと言う。

 

「あ、でも、ノワール殿下についての情報はありました。近々、夜間舞踏会が行われるそうです。そこで私との婚約発表をすると言ってました」


 決着をつけるのならば、そのときが最適。レナはそう告げた。


「なるほど。夜間舞踏会、か。そのときにすべての決着をつけるのは、ありだね。ただ、それまでに証拠などが集まるかだけど……」


 アレンはソファーに座りながら、腕と足を組む。そして視線をレナからルシアへと移した。


 ルシアは真剣な面持ちで頷き、にっこりと幌笑む。


「それについては、私がたくさん持ち合わせていますわ。殿下の悪行の数々、存分にぶちまけてやるつもりですもの」


 悪びれた様子すらない笑顔で語った。


 アレンちは薄ら寒さを覚える。


 (……うん。女性は怒らせると怖いからね。彼女が味方でよかった)


 隣に座るガタガタと震えているハワードの手を握り、大丈夫だと安心させた。


「女性は、本当に逞しいね……それはそれとしてハワード、君はそろそろ、決意を固めるべきじゃないかな?」


 巨体に似合わず泣き虫な婚約者に苦笑いし、じっと見つめる。そして彼に習うように、レナとルシアまでもが、ハワードを注視した。


 その視線にいたたまれなくなったハワードだったけれど……


「……そう、だね。逃げていては駄目だ」


 決意をした瞳をする。


「今まで俺は、兄上(・・)から逃げていた。その結果、大切な君を傷つけてしまった」


「ハワード……」 


 ハワードはアレンの肩を抱いた。まっすぐにアレンを見つめ、銀の髪を静かに撫でる。そして立ち上がり、アレンを見下ろした。


「俺は第二皇子でありながら、兄上の言いなりだった。それがいけなかったんだ。そんな優柔不断な性格のせいで、君は一生消えない傷を負ってしまった」


 アレンの手を引っぱって、ソファーの隣に立たせる。そして方膝を曲げて、アレンの白い手を軽く握った。両目を閉じて唇を噛みしめる。


「俺は、誓うよ。二度と、君を悲しませない。そして……今回のことが終わったら」

  

 アレンをギュッと抱きしめた。


「結婚しようアレン、俺の妻になってほしい」


「……っ!?」


 これにはアレンだけでなく、ルシアとレナも歓喜する。彼女たちからは拍手や、おめでとうという声があがった。

 言われたアレンは一瞬だけ両目を見開く。けれどすぐに頬が緩み、幸せを胸にはにかんだ。





 

 


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おお!  ハワード遂にプロポーズ!? アレンの答えが気になります!!
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