09 押すのではなくて引いてみよう
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白馬に乗った王子様
これは女の子が想像上で憧れるものであって、実際にセリフとして言われたら気色悪がられる。
また一つ賢くなったな。
あの後、俺は西園寺さんの家を出て帰路についた。
流石にあのまま残っていても打開策は思いつかない。
報告も兼ねて山吹先輩に相談しようと決めたのだ。
翌日放課後、俺は図書室で先輩を待っていた。
当初の予定では今日木曜日は西園寺さんが少しだけ話しを聞いてくれるはずだった。
まあ、最初から何もかも上手くいくとは思っていなかったので構わない。
想定通り想定外の事態が起きただけだ。
図書室で昨日のことを考えながら待つこと十五分、山吹先輩が入ってきた。
「おや、今日は藤くんが先だったね。その様子だと昨日はうまくいかなかったと見える。何があったのか話してごらん」
先輩は何でもお見通しか。
俺は西園寺さんの様子、言動、そこから分かる本人の性格まで細かく話した。
「なるほど…。なかなかの強敵だね」
「そうなんです。攻略しようにもその糸口がつかめなくて――」
「おいおい、いつになく弱気じゃない藤くん。こういう時は逆のアプローチを試してみるんだよ」
「逆のアプローチ?」
「昨日藤くんは西園寺さんに何を言えばいいかで悩んだわけだ。つまり西園寺さんからの圧を受けながらも、それを押し返そうと考えたわけだ。そして気色悪いセリフを選んだ」
先輩に言われるとダメージが大きい。
「なら今度は引いてみるんだよ。西園寺さんは周りの人間にとって自分がどんな存在なのかを再確認しようとしているんだろ?だったら逆に諦めたふりをしてでも一度引き下がるんだ。すると西園寺さんは落ち込んだり拗ねたりするだろう。そうしてしばらくしてからもう一度会いに行けば『やっぱりわたしは必要なのね!』みたいなことになるかもしれないよ?」
なるほど。
西園寺さんの気持ちを一旦下げて、その後上げると。
その上がり幅の勢いで西園寺さんを登校させるわけだ。
「そして西園寺さんはこう考えるようになる。『藤織くんは他クラスの学級委員でありながら学校一の問題児でもある。そんな彼がわたしを学校に連れ戻してくれたのね!ギャップ萌え♡。わたしは藤織くんに必要とされているのね!』こんな感じで二人の恋は始まって――」
「先輩、俺そこまで求めてないです。あと、西園寺さんの一人称は『アタイ』です」
先輩が暴走し始めてしまった。
「いやいや、そこまで考えるべきだと思うよ。藤くんは、『特別』を作るんでしょ?普通に考えて問題児が不登校の生徒を学校へ連れ戻すなんてことは現実では起こらないでしょ?だからこそ、この作戦が成功すれば『特別』を作ったって言えるんだよ」
いやいや、これをきっかけに西園寺さんに好意を向けられては困る。
まだ俺はかなでへの気持ちに答えが出ていない。
答えが出るまでは誰かからの好意は相手を傷つけることになる。
まあ、こうやって山吹先輩と相談相手としての関係を築いていることもゆくゆくは同じことにもなりかねないが――
……俺なんか自惚れてるな。
西園寺さんに好かれて、今後は山吹先輩にも好意を持たれるかもしれないだと?
まるでハーレム作品の主人公だ。
それを実現できたら確かに『特別』だな。
普通では起こり得ないことなんだから。
「わかりました、先輩。俺ハーレム作品の主人公を目指します!」
「違う違う、そうじゃない」
暴走していたのは俺だったらしい。
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