05 図書館の先輩と変わり者の後輩
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「朝高〜ファイト!」
「おう!」
校庭で活動する運動部の生徒たちの掛け声が聞こえる。
これはサッカー部だろうか。
いつも飄々としている京がこの掛け声に応じているところを想像すると違和感がすごい。
俺は当初の放課後の予定である図書室へと向かっていた。
京にゲーセンに誘われて図書室の先輩の話をしたが、あれは嘘ではない。
彼女とは高校一年生の終業式の日に図書室で出会った。
俺の両親が離婚について相談している時期でなかなか家に帰りづらかった俺は、たまたまその日の放課後に図書室に立ち寄ったのだ。
そして今日も彼女は一人でいた。
朝高の図書室は美術棟三階の西側に面している。
そのため、本を読んでいる彼女の姿は夕焼け色に染まっていた。
「山吹先輩、今日は何を読んでいるんですか?」
先輩に尋ねると得意そうな顔で表紙のタイトルを指さしてきた。
「『せっかくお洒落して表参道に出かけたのに、たどり着いたのは異世界のモテ男参道でした』――新刊出たんですね!」
「そうなの!この学校の図書室は新刊のライトノベルも置いてくれるなんて、太っ腹よね〜」
山吹先輩
下の名前は知らない。
先輩は今は三年生だが、二年の三学期に千葉から転入してきた。
図書館以外でもたまに見かけるが大抵一人でいる。
黒髪ロングの美人でどこかのご令嬢のような出で立ちだ。
男女ともに人気の有りそうな先輩だが、基本的に一人で行動し、放課後は図書館に入り浸っているため、他の人からすると知的でミステリアスな印象を受けるみたいだ。
しかし正体は俺と同じアニメやラノベ好きのオタクだ。
「聞いたよ藤くん、郡原くんの件、失敗したそうじゃないか。しかもそれで生徒会に目をつけられたと。難しいね『特別』を作るってのは」
俺にとって山吹先輩はオタク仲間であると同時に、良き相談相手だ。
俺が「自分や他の誰かにとっての『特別』な時間をプロデュースしたい」という目的を持っていることを知っている。
そして何故かその手伝いをしてくれているのだ。
「はい。ちょっと目論見が外れまして。やっぱり先輩が言ってた『体育館で全校生徒が校長先生の話を聞いている中、体育館の照明が好きな女の子の頭上に落ちてくる、その寸前で身を挺して守る自分』作戦のほうが良かった気がします」
「ただその作戦だと、当たっても痛くない偽物の照明を作って、それを設置して、真下に女子生徒が来るように誘導しなければ成功しないでしょ?さすがにコストも手間もかかりすぎるからなあ」
こんな感じでずっと先輩は相談に乗ってくれていた。
本当になぜなんだろう。
変人扱いされている俺をここまで手伝ってくれる理由は何なんだ。
俺の目的を打ち明けているのは山吹先輩だけだ。
しかも話をするとすぐに乗ってきてくれた。
なんの躊躇いもなく。
同じような目的を先輩も持っていたのか?
それなら先輩も実行する側として動くだろう。
『特別』を強く実感できるのは実行者だろうから。
なのに先輩は相談に乗るだけで実行者にはならない。
他になにか目的が――
「―くん、藤くんってば!わたしの質問聞いてた?」
「あぁ、はい。ん?質問?」
少し物思いにふけりすぎたようだ。
「だーかーらー、あの幼馴染ちゃんには思いを伝えられたのかってこと」
「いやあ、まだです。まだこの気持ちがどっちなのか分からないんですよ」
「恋心なのか、幼馴染だからなのかってこと?」
「そうです」
俺はわからない。
かなでに対するこの『特別感』が「恋心故の『特別感』」なのか「幼馴染という存在故の『特別感』」なのか。
幼い頃からそばにいて、今になっても付き合いのある存在。
そんな相手は友人とはまた別のカテゴリーに属する『特別』な存在と言える。
俺が『特別』にこだわり始めた結果、かなでのことを急に意識しだすようになった。
恋人になること、幼馴染であり続けること
どちらも『特別』には変わりがないが、どちらなのかは決着をつけたいと思っている。
だからそれまでは、かなでとは今まで通り普通に接しようと決めている。
『普通』の幼馴染として。
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