13 俺達はまだ高校生
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「先輩、山城さんと何を話したんですか?」
「別に大した話はしてないよ。ただ、藤くんから西園寺さんの話を聞いたときに家族とかの話を聞いていなかったからね。ちょっと気になったから山城さんに聞いただけだよ」
俺達が帰路についた頃には既に夜八時だった。
山城さんは部屋に入るやいなや、西園寺さんに抱きつき、養子になるよう求めた。
現在の西園寺家の状況を鑑みた結果、行き着いた答えだそうだ。
両親の離婚はもはや秒読み、まだ十六歳の彼女の将来を憂いていての判断だ。
最初はその申し出に戸惑っていた西園寺さんだったが、山城さんの話を聞くうちに涙が止まらなくなっていた。
気の強い性格であるがゆえ、心のうちに押し留めていた思いがあったのだろう。
それが抑えきれなくなっていた。
「でも先輩、西園寺さんの家族の話を俺が先輩にしなかったからといって、西園寺さんの両親に何かあるとは限らないですよね?まあ結果的には何かあったわけですけど――」
「……それは、藤くんからの最初の質問の答えと一緒に話そうかな」
「最初の質問?」
「ほら、西園寺さんの家に行く途中で聞いてきたでしょ?『なぜ藤くんの目的に付き合うのか』、『なぜ藤くんなのか』って質問」
「それと今回の件に関係が?」
「まあ聞きなさい。私にはね、両親がいないんだよ。とはいっても両親が不仲で離婚したとかじゃないよ。かといって交通事故や病気で亡くなったとかでもない」
「じゃあ――」
「捨てられたんだよ。両親は二人仲良く揃って蒸発。私は一人きりになった」
「それは―― いつご両親は―― それで転入してきたということですか?」
「そういうこと。だから結構最近だよね、二年生の途中だから」
「両親の蒸発…… それで今回の件も家族関係を気にされたんですね」
「まあね。私は両親が離婚したわけじゃないから、その時の子どもの気持ちはわからない。でもね、両親が急に自分の前から消えて、『捨てられたんだ』って気付いた時の絶望感は今でも覚えてる。だからって訳じゃないけど、まだ離婚のほうが良いんじゃないかってどうしても思っちゃうんだよね」
人にはいろんな人生がある。
どんな人生を歩むかは自分で選んで、挑戦できる。
ただ俺達はまだ高校生。
人生を親に振り回されることは多々ある。
俺の場合は父親が仕送りを送ってくれる。
そこで親の存在を今も感じている。
先輩は違う。
先輩はこれからの人生で親という存在を完全に忘れて生きていくことになる。
「藤くんは私の下の名前知ってる?」
「いえ、知りません」
「そうだろうね。当然だよ。この学校に来てから誰にも名乗ってないからね。まあ陸山は知ってるかもしれないけど」
「名乗ってない?」
「捨てたんだよ。下の名前を。名前ってのは親から与えられる最初のプレゼントだけど、私は自分を捨てた親から与えられたプレゼントなんて捨てたかった。まあ捨てたというより隠しているだけだけど、今後も明かすつもりはない」
「そのことは学校側は――」
「知っているよ。知っているうえで転入させてくれたんだよ。名前を隠しててもいいからと。うちの学校はどこまでも生徒の自主性を重んじると」
改めてすごい学校だ。
公立なのに。
「まあ、そんなこんなで私の人生は普通じゃなくなった。ある種『特別』と言える人生にね。でもこの人生が『特別』ならば、こんなもの捨ててしまいたいというのが本音だよ。『特別』は人とは異なるということ。それは良いことばかりじゃない。むしろ悪い意味でもあると思うんだよ、私は」
俺は何も言えなかった。
『特別』は良いことばかりじゃない。
俺は親が離婚してから、『特別』という言葉を使ってどうにか自分の気持ちをポジティブに保ってきた。
先輩の境遇ではそれができない。
絶望が大きすぎたから。
「でもね、そんな私でも藤くんに出会ってからは変わった気がするよ」
「えっ?」
「私が藤くんの目的に付き合う理由は、藤くんが作り出す『特別』の行く先を見てみたいからだよ。私は過去を振り返っても『特別』だと感じることはできなかった。
だから、藤くんを手伝うことで私自身も『特別』を感じられるんじゃないかって―― ごめんね、身勝手な理由で」
「いえ、そんな――」
「それで、藤くんはどうして『特別』を追い求めるの?」
「……俺は―― いえ、すみません先輩。その話を最初にする相手は決まっているので」
「そっか」
先輩は短くそう言って、それ以上は何も聞いて来なかった。
自分は質問に答えてもらっておいて、相手からの質問には答えない。
ひどいな、俺は。
俺達は暗い夜道を二人で歩いた。
『特別』を感じたい綺麗な先輩と『特別』を作りたい問題児の後輩。
辺りは暗闇、それでも月明かりだけは二人を照らしていた。
とりあえず第一章は完結です。
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