11 家と学校
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「なんか、遠目でも『あの家が西園寺さんの家なんだろうな〜』って気づくくらいの家が見えてきたね」
「お察しの通り、あれが西園寺さんの家です」
俺達は十五分程歩いて西園寺さんの家までたどり着いた。
「じゃあ先輩、インターホン鳴らしますよ」
「封印されし神殿の扉を開きたまえ」
インターホンを鳴らすと家政婦の山城さんが出てきた。
「あら、藤織さん。またいらしてくださったんですね。お隣の方は――」
「あっ、彼女は俺の先輩です」
「初めまして。朝檜山高校三年の山吹と申します」
「三年生の方までお嬢様のことを気にかけてくださっているなんて―― 本当にありがとうございます」
違いますよ山城さん。
この人は西園寺さんの家がどんなのか気になって来ただけです。
山城さんは家の中に俺達を通し、再び西園寺さんの部屋まで案内してくれるようだ。
「あの、山城さん。私は少し山城さんからお話を聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」
突然、山吹先輩はそう言った。
「ええ、構いませんよ。私がお話できることでしたら何でも話しますよ」
「ありがとうございます。じゃあ藤くん、そっちは任せるよ」
そう言って先輩は居間に残ることになった。
山城さんは俺を西園寺さんの部屋の前まで案内した後、居間へ向かった。
先輩は何を聞こうとしているんだろう。
ともかく俺は役割を全うせねば。
「西園寺さん、藤織です。入っていい?」
ドアをノックしてそう言って返事を待つ。
「どうぞ」
短い返事が聞こえたのでドアを開けると、西園寺さんは何やら大きな本を読んでいた。
いや、アルバムか?
「ごめんね、また突然来ちゃって」
「いいわよ。あんなキモいセリフ残したあんたでも、アタイを気にかけて来てくれた唯一の人なんだから」
あれ、なんか今日は一昨日よりも元気がない。
今日も勢いのまま暴言と愚痴を吐かれる覚悟でいたんだけどなあ。
「西園寺さん、どうしたの。具合でも悪い?」
「は?なんでよ。別に体調は普通よ」
「いやなんか、一昨日よりも覇気がないというか…… それ、何読んでるの?アルバムか何か?」
「だから普通だって。これアルバムよ。家族アルバム」
「家族アルバム――」
そう言えば、西園寺さんのご両親にまだ会っていない。
というか、家族の話を山城さんからも西園寺さんからも聞いていなかった。
「西園寺さんのご両親は今――」
「仕事よ。まあいつ帰ってくるかも分からないけど」
「仕事って言うと、和菓子屋だよね」
「いや、違うわ。和菓子屋を実際に経営してるのは祖母だったのよ。その祖母も今年の正月明けに死んじゃったけど」
「そうか―― ごめんね」
「別にいいわよ。で、アタイの親は仕事に出て、たまに家に帰ってきても二、三ヶ月は父も母も喧嘩ばっかりでね。今は離婚の話が進んでるわ」
それで山城さんからも西園寺さんからも両親の話が出てこなかったわけだ。
そうか、離婚か――
「西園寺さん、家にいて辛くない?」
俺は聞いていいのか分からないことを聞いた。
家で両親が喧嘩をする。
そうなると子供は家に居づらくなる。
兄弟姉妹がいないとなおさらだろう。
「辛いに決まってるでしょ。親が久々に帰ってきたら喧嘩ばかりしてるのよ?嫌に決まってる。でも学校に行っても前みたいには戻れないし――」
そうか。
西園寺さんは一年生の頃はクラスの中心で人気者。
家でも普通に過ごせていた。
しかし、一年生の終わりごろから両親は不仲になり喧嘩ばかりで、まるで西園寺さんのことを気にかけなくなっていった。
そして二年生のクラスでは西園寺さんは孤立するようになった。
家でも学校でも自分の存在意義に疑問を持つようになった西園寺さんは承認欲求があっという間に高まり、今の性格が形成されたというわけか。
自分の居場所を作る。
そのために自分自身の価値を測る、か。
正直ここまで難しい問題だとは思っても見なかった。
昨日先輩に相談したことが何も活かせない。
攻略における最大の問題は西園寺さん自身の性格ではなく、周りの環境ということか。
学校のことはともかく、家のことには手を出しにくい。
重く、沈黙した空気が部屋に流れる。
まただ。
なんて声をかければいいのか分からない。
結局一昨日と同じだ。
もうわからない。
両親の不仲と離婚――
俺は自分の過去を思い出しながら、いつの間にか俺自身の体験を話していた。
「俺には、両親がいないんだ。離婚しちゃってね」
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