251-255
251バナナの皮
バナナの皮の花びらが散る
バナナ農園で
少女は実のないバナナの皮を拾う
お腹は空いている
雲一つ無い空のように
空っぽの寂しい風が流れる
隣では
大人たちが
バナナを頬張っている
神は現実を不公平に作り
公平な愛で満たそうとする
少女は愛などいらなかった
バナナの皮を咥えて
腐っていく心を見つめて
鼻水を垂らす
枯れた涙の代わりだと
誰も知らず
笑う
笑われる少女
そんな少女を
バナナは愛している
252焼いた豚をさばくナイフ
刃の欠けたナイフのように
錆びたナイフのように
尖ったナイフのように
焼いた豚をさばくナイフのように
人に恨みを持つナイフのように
人を悲しませるナイフのように
音楽はナイフのように
ひとの心を突き刺してくる
音楽を作った作曲家は
溢れ出す心のはみ出しを削って
ナイフの形にする
253温度計が33度を超え
温度計が33度を超えた状態で
描く双曲線は2つに分かれて
永遠につながることはない
それはどこまで行っても
別れたままで
戻ることのない世界へと
2つの開かれた扉に入っていく
温度計が33度を超えた状態で
描く世界線は3つに分かれて
永遠に交わることはない
それはどこを指す時計の針でさえも
指し示すことのできない
未知の点の世界
はみ出した面の先にある
幻想のガンダーラ
254虚構の服を着て
波打ち際の
行ったり戻ったりする
時間軸のなかで
現在は現実を見失い
現実は虚構の服を着て
歩き出す
道の内側にいるつもりで
未知の道の上を歩いている
草木の生えない
自然林
255野良猫
運命とか宿命とかおはじきとか
恋とか愛とかお手玉とか
勉強とか進路とかカルタとか
真実とか現実とか手鞠とか
子どもの神のもつお人形が
飽きられて捨てられて
崩れ行く人としての形
心は血溜まり
感情はほつれた糸のようで
行き交うサラリーマンに
踏みつけられていく
汚れていく人形を
咥える野良猫は
食べ物と勘違いしている