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第94話 三死業

 カテドラル帝国軍は、サーシエに展開した部隊だけで一万を越え、更に後詰めの部隊が着々と後方に集結しつつある状態だった。


 王国軍がいくら精強だろうと、これほどの数で奇襲を受ければひとたまりもない。ましてや、たった十人程度の傭兵団など、どれほど強かろうが鎧袖一触だと信じて疑わなかった。


 つい、先程までは。


「き、聞いてないぞ……こんな化け物連中だなんて!!」


 帝国軍は、“紅蓮の鮮血”を前に恐慌状態に陥っていた。


 何せ、たった十人だ。十人の敵をすり潰すどころか、逆に対峙した者から順次吹き飛ばされ、戦闘不能にされていく。


 相手も人間だ、いくら強くとも限界はあるはずだと頭では分かっていても、その“限界”が来るまでの人柱になど誰もなりたくはない。


 加えて、更なる絶望が帝国軍へと襲い掛かる。


『ふふふ、この場にはリリアもいませんし、相手は単なる侵略者……もはや、自重する理由もありません。本気で行かせて貰いましょう……!』


 帝国軍のど真ん中、まだ直接戦闘が起こっていないエリアにて、地面から突如生えるように現れたのは、コーリオだ。


 リリアのために被っていたプルンの肉体を脱ぎ捨て、スケルトンキングとしての本性を剥き出しにした彼が、まるで指揮者のように瘴気を操り、言霊を紡ぐ。


『さあ、サーシエの地に眠りし英霊達よ!! 私の呼び声に応え、悪しき生者を冥界へ送れ……!! 《怨霊演武デスマーチ》!!』


 コーリオの魔法と共に次々と現れる、アンデッドの大群。


 一体一体の強さは帝国兵に劣るが、その全てがどれほどの攻撃を受けても倒れることなき不死の軍勢であり、どこからともなく無限に湧いて来る。


 ただ一つ、“紅蓮の鮮血”に利するはずだった数の優位さえ覆しかねない存在に、帝国軍はもはや瓦解寸前だった。


「ダメだ、こんなの勝てるわけねえ!!」


「撤退だ、撤退しろ!!」


 我先にと逃げ出す帝国軍を、アンデッドの群れが追い掛ける。


 阿鼻叫喚の地獄絵図が、そこに出現しようとした──その瞬間。


「やれやれ、アンデッドの軍勢に恐れをなして逃げ出すなど……なんと嘆かわしい。神も泣いておられますよ」


 聖なる光が戦場の一角を包み込み、アンデッド達を瞬く間に消し飛ばした。


『むむっ、これは……対アンデッド用の浄化魔法ですな』


「その通り。アンデッドの親玉なら、当然把握していますか」


 帝国軍の人波が二つに別れ、そこをゆったりとした足取りで一人の男が歩いてきた。


 白を基調とした司祭服に身を包み、胸元には十字架のネックレスを下げたその男は、どこか薄ら寒い笑みを浮かべたまま頭を下げる。


「初めまして。私の名はレートン、見ての通りの聖職者にして、帝国軍“三死業”に名を連ねております」


『三死業……聞いたことがありますね。広い帝国の中で頂点に立つ戦闘力の持ち主三人を、そう呼ぶ風習があるとか』


「よくご存知で。では、当然あなたご自身の運命についても既にお分かりでしょう。……大人しく天に召されなさい。《祝福の光(ホーリーライト)》」


『おおっと』


 レートンが胸元の十字架を掲げた瞬間、空高くから必滅の光が降り注ぐ。


 それをひらりひらりと器用に躱すコーリオを見て、レートンは顔を顰めた。


「神の導きを拒絶するとは……やはりあなたは邪悪な存在のようですね、覚悟なさい」


『やれやれ、攻撃魔法を放ちながら、回避すれば邪悪呼ばわりとは……とんだ聖職者もいたものです』


 変わらず薄ら寒い笑みのまま攻撃し続けるレートンと、溜息混じりにそれを躱すコーリオ。


 聖職者と死者、相反する二人の戦いが始まった。







 コーリオがレートンと対峙している頃、他の場所でも動きがあった。


 前線で暴れる仲間達の後方支援を担当していたネイルの下へ、妙齢の美女が現れたのだ。


 やたらと露出の多い漆黒のローブを纏った、魔女然とした出で立ちのその女は、ネイルを見るや妖艶に微笑む。


「見付けたわよ、“紅蓮の鮮血”副団長、ネイル……いえ、元カテドラル帝国外交武官、ネイル・シュッテンバイヤーと呼ぶべきかしら?」


「……はあ、そんな昔の話を、よくご存知で。“三死業”のアルマイヤ・ペドロフに知られているとは、光栄ですよ」


 嫌な過去を思い出したとばかりに、ネイルは顔を顰める。


 そんな彼に、美女……アルマイヤは益々笑みを深めた。


「当然知ってるわよ? 今も帝国にいれば、“三死業”入りは確実だったとされるほどの魔法の名手……私はね、あなたと戦ってみたかったの。あなたに勝てば、私は更なる魔法の真髄へと近付ける、そう思っていたのよ。……一戦、手合わせ願うわ」


「遠慮したいところですが……今は戦場ですし、拒否権はないですね。さっさと終わらせましょう」


「つれないわねえ……でも、そういうところも好きよ」


「…………」


 露骨な色目に、げんなりとした表情を浮かべるネイル。


 そんな彼に、幾百もの魔法弾が放たれ、それら全てが岩の盾で防ぎ止められる──


 余人の入り込む隙もない魔法戦が、幕を開けた。

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