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第28話 ミルク連行

「ん……んぅ……?」


 頬にぷるぷるとした感触を覚えながら、私はゆっくりと目を覚ます。

 すぐそばには、どこか私を心配そうに覗き込む、プルンの姿があった。


「……大丈夫、心配かけてごめんね」


「ふん……気が付いたかよ」


 プルンに声をかけていると、知らない男の人の声が聞こえてきた。


 顔を向けると……そこにはやっぱり、知らない人が座ってる。

 でも、よく見れば何となく、魔力に見覚えがあるような……。


「……誰?」


「ついさっきまで戦っていた相手をもう忘れたのかよ。……いや、あの時は顔を隠してたな、それでか」


 結局思い出せなかったから聞いてみたら、なんと暗殺者の人みたい。言われてみれば、この人が着てる真っ黒な服は見覚えがある。


 えーっと、確か……急に飛んできた炎龍の攻撃を防ぐのに全力を出しすぎて、そのまま倒れたんだっけ、私。


 手足は金属の枷で固定されてるし、地面は揺れてるし……馬車で運ばれてるのかな?


「これから、お前を主の所へ連れていく。下手な抵抗はするなよ、痛い目に遭いたくなければな」


「うん」


 軽く動かしてみたけど、普通のやり方じゃこの枷は外れそうにない。

 取り敢えず、しばらくは様子見しよう、と思って答えると……男の人は、不思議そうに目を丸くした。


「てめえ、随分と聞き分けがいいな……何を企んでやがる?」


「え? えーっと……」


 特に何を企んでるってわけでもなかったんだけど、それを言っても納得してくれなさそう。


 うーん、聞き分けが良い理由は、って言われると……。


「……あまり、悪い人には見えないから……?」


「は? ……それは、俺のことを言ってんのか?」


「うん」


 この人と対峙してる間、私の眼に映っていたのは殺意ばかりだった。


 でも、さっき戦って、プルンの攻撃で一度この人を倒した時……殺意が消えたその下にあったのは、決して悪い人の心じゃなかったように思う。


 だからあの時、飛んできた炎を咄嗟に受け止めようと思ったんだ。結局、無理だったんだけど。


「まさか、たったそれだけの理由で俺を助けたってのか?」


「うん。それに、私が倒れる前に、プルンにお願いしてたから。しばらくじっとして、もし危なくなるようなら逃げてって。プルンが今も、こうして私の傍にいるってことは、あなたが私達に何もしなかったってこと。だから、やっぱり……悪い人じゃないと思う」


「……度を越した馬鹿だな。そんなことで、よく傭兵のとこで暮らそうなんて考えられたもんだ」


「……?」


「傭兵は、金で雇われれば何でもする連中だ。特に“紅蓮の鮮血”は、王侯貴族からの依頼で俺達暗殺者とほぼ変わらない仕事もやってる。そんなお人好しなことじゃあ、すぐに死ぬことになるぞ。大体、自分の身も守れねえで人助けなんざ……おい、何が可笑しい?」


 気付いたら笑みが浮かんでいた私に、男の人が問いかけてきた。


 ほとんど無意識だったけど、何を思ったかはちゃんと言葉に出来る。


「だって……まるで、私がまたみんなのところに帰れるって、信じてくれてるみたいに聞こえたから」


 その主って人が、何を思って私を捕まえようとしてるのかは分からないけど……きっと、前のご主人様と同じか、もっと酷い扱いをしてくると思う。そしてきっと、このまま何もしなければ、もうみんなとは会えない。


 それなのに、私に傭兵として大事なことを教えてくれるなんて、やっぱり良い人だなって。


「…………くだらねえ」


 男の人は、それだけ言ってそっぽを向いてしまった。


 どこか拗ねたみたいな態度が可愛いな、なんて思いながら、私は馬車の床をゴロゴロと転がって傍に近付く。


「私、ミルク。あなた、名前は?」


「なんでてめえに教えなきゃならないんだ……」


「名前ないと、呼ぶ時に不便」


「お前を運び終えたら、もう会うこともねえよ」


 取り付く島もないとはこのことか、と少ししょんぼりしていると……小さな声で、ボソリと。


「……クロだ。周りからは、そう呼ばれていた」


 そう教えてくれた。


「えへへ……ありがと、クロ」


「ふん……」


 その後も、無愛想なクロに話しかけながら、私はこれからについて考える。


 正直なところ、私は逃げようと思えばこの馬車から逃げ出すことが出来た。


 プルンが殺されることもなくこうして傍にいるし、この枷も……どうやら、これがあると体の中にある魔力が動かせなくなるみたいだけど、私は精霊眼のお陰で外の魔力を操れるから、何の意味もない。


 それでも本当に逃げようとまではしなかったのは、単に今いる場所が分からないからというのが一つ。


 窓の外を覗いてみても、本当にここがどこだか分からない。こんな状態で脱出だけしても、みんなのところに帰れないよ。


 それから、もう一つの理由は……私が狙われた理由が何なのか、ちゃんと知りたいと思ったから。


「これ以上、みんなに迷惑はかけられない」


 いくら私でも、流石に分かる。クロは何も言ってないけど、あんな風に炎龍がいきなり現れたのは、きっと私を捕まえるためだって。


 今回のことだけじゃない。王都に居た時も……もしかしたら、アマンダさんが炎龍に襲われたことも、偶然じゃないかもしれない。


 このまま逃げたら、きっと次はもっと酷い方法で捕まえに来る。そうなったら、ラスターも、アマンダさんも……みんなが、危ない。


 だから。


「私が……終わらせなきゃ」


 この先に待っているのが誰だったとしても関係ない。

 私だってもう、“紅蓮の鮮血”の一員なんだから。


 みんなを危ない目に遭わせた人は……絶対に、お仕置きする!


 そんな決意を胸に、私はひたすら馬車に揺られ続けるのだった。

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