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第19話 炎龍出現

 アウラ・デリザイアが密かに企みを進めている西部の盤上に、アマンダの姿があった。


 彼女が受けた依頼は、魔物の出没に悩まされているという村の救援。

 依頼主である男爵家からも数名の騎士が派遣され、彼らと共同で増えた魔物の間引きを行う、というのが依頼内容ではあったのだが……同行している騎士達は、皆同じことを考えていた。


 俺達は、ここにいる意味があるのか? と。


「んー、一ヶ月も経つと、流石に纏まった数の魔物も見付からなくなってきたね。いい加減、飽きてきたよ」


 “鮮血の魔女”などと呼ばれるアマンダは、その実年齢こそ謎に包まれているが、見た目だけは妙齢の美女だ。

 “鮮血”の紅一点として、これまで多くの戦歴を刻んできたといっても、所詮は女……と侮る意識が、騎士達の中になかったかと言えば嘘になる。


 だが、いざ戦場に立ったアマンダを見た瞬間、騎士達の中に僅かにあったその認識が、完全な誤りであったと気付かされた。


 彼女の周囲に広がる、数多の魔法で強制的に開拓された()()()()()()()()()()()と、そこに転がる魔物達の死体の山を目にしてなお、彼女を侮ることなど出来るはずもなかったのだ。


「あの魔物、ハウンドウルフだぞ……俺らだったら、一対一でも苦労するってのに……」


「群れを丸ごと一人で相手にして無傷どころか、息一つ乱してねえ。これが“魔女”の力か……」


「おいアンタら、そんなところで何をひそひそ喋ってるんだい?」


「い、いえ、なんでも! 噂に違わぬ実力だと、感服していたところです!」


「そうかそうか、そりゃあ何よりだ。なら、最後までアタイの実力をしっかり目に焼き付けておきな。ついでに、帰ったらその活躍ぶりをしっかり広めておくように。ウチの可愛い新入りの耳にも届くようにね」


「は、はあ……」


 数日前、アマンダの下に手紙が届いて以来、彼女はずっとこの調子だった。


 可愛い新入りができた、などと嬉しそうに語り、ついでに酒を飲みながら何度もウザ絡みされたため、嫌でも騎士達の記憶に刻まれている。


 血も涙もないバーサーカーの集まりだと聞かされていた彼らからすると、噂とのギャップに戸惑うばかりだ。


 それはそれとして、まるで母親の子供自慢を延々聞かされているような気分になる彼らとしては、いい加減帰りたくなってきたのだが。


「なあ、本当にもう帰ったら駄目なのか? これだけ魔物を狩ったんだ、いい加減依頼はこなしたと見ていいと思うんだが」


「そういうわけにも行かないだろう。俺達のもう一つの任務を忘れたのか?」


「ああ、あの、『時期が来たら連絡するから、それまではアマンダをここに留めておけ』ってやつか? 何なんだろうな」


 事情を知らない騎士二人、そんな会話を交わしながら、もはや日課となった魔物狩りを終えたアマンダと共に村へ帰る。


 到着した瞬間、アマンダを迎えるのは歓声の嵐だ。


 最初こそ、“紅蓮の鮮血”の名が持つ恐るべき噂の数々に震えていた村の人々だが、アマンダの圧倒的な強さと子煩悩(?)でほっこりするエピソードトークにすっかり絆され、完全に打ち解けている。


 ここに来たばかりの頃の、いつ魔物に殺されるか分からない恐怖に震えていた村人達の姿からは考えられないほど、平和で長閑な光景。


 まあ、ここにもうしばらく滞在するのも悪くないかと、そんな風に考える騎士達に、村人の一人が声をかけた。


「騎士様方、本日もありがとうございました」


「いえ、自分達は見ていただけですので。礼はアマンダ殿に」


「だとしても、彼女を連れてきてくださったのはあなた方ですので、お礼くらいはさせてください。っと、お礼もそうですが、実はあなた方に男爵様から荷物が届いております」


「荷物? 男爵様から?」


「ええ。あなた方に見せるまで中は決して見るなと」


 これが例の“連絡”だろうかと考えながら、騎士達二人は荷物の下へと向かう。


 すると確かに、そこには最後の任務に関する指示──箱に入っている魔道具を人知れず起動しろという内容が記されていた。


「それだけか? 一体何の魔道具なんだ?」


「さあ……?」


 中に入っていたのは、一つの水晶玉だった。

 魔力を込める媒体としてよく利用されるポピュラーなそれに如何なる効果があるのか、見ただけでは判別がつかない。


「割ると勝手に起動するらしい」


「よく分からんが……これでいいのか?」


 箱から取り出した水晶玉をその場に落とし、叩き割る。


 一瞬、背筋が凍り付くようなゾッとする魔力が溢れたような気がしたが……それすらも、すぐに消えた。


「なんだったんだ……?」


「アンタら、今そこで何をしたんだい!!」


「っ!?」


 疑問を覚える彼らの下に、アマンダが鬼の様な形相で文字通り空を駆けてすっ飛んで来た。


 正直に答えなければ今すぐブチ殺すと言わんばかりの強烈な殺気に、騎士達はすぐさま答える。


「じ、自分達にも、何がなんだか……」


「ただ、男爵様の指示で、魔道具を起動しろと言われただけで……」


「こんのっ、大バカ野郎がッ!! よく分からないものを無警戒に起動させるんじゃないよッ!!」


 アマンダのあまりの剣幕に、村人達もなんだなんだと集まって来た。


 アマンダは舌打ちを一つ漏らし、騎士達を置いて村人へ向き直る。


「アンタら!! 今すぐ最低限の荷物を纏めて村を出な、急いでッ!!」


「ア、アマンダ様、一体何が……?」


「今は説明してる暇が……ああクソッ、遅かったか!!」


「ギャオォォォォ!!」


 戸惑う村人達の耳に、天を引き裂く咆哮が轟く。


 誰もが驚き、空を振り仰いだ先に……そいつはいた。


「な……あ、あれは……なんで、こんなところに……!?」


「なんでじゃない、アンタらが呼んだんだよ。さっき使った“龍笛”って魔道具でね!!」


「なっ……!?」


 自分がした行為がどれほど恐ろしいものだったのかを知り、騎士が青褪める。


 ──この世界には、竜がいる。俗にドラゴンなどと呼ばれ、それ一体で並の村ならあっさりと火の海に変えられる化け物だ。


 しかし、それでさえ本来“紛い物”に過ぎない。


 天を覆うほどに広がる翼。人が丹精込めて鍛え上げた鋼さえ遠く及ばぬ強固な鱗。


 大空を統べ、人の営みを虫けら同然に滅ぼす世界最強の生命体。


「あれが“炎龍”……ブレイドラだ!! 死にたくないヤツはさっさと逃げな、いくらアタイでも、守ってやれる保証はないよ!!」


 その瞬間、村中がパニックに襲われ──


 炎龍のあぎとから、絶大な威力を持つ爆炎が放たれた。

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