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第九種:馬鹿に気を付けろ[自慰は有害である]





















実体験のある人物によると本当に有害らしい。学校で熱く語ってる奴が馬鹿に見えてくる。

―一方その頃の香山恋歌―


「みんなどっか行っちゃったし、恋歌もどっか行こー」

恋歌は可愛らしい足音を立てながら少し走ると、その小柄な身体からは想像し得ない跳躍力で天上に貼り付き、そのままヤモリの様に天上を這って移動し始めた。


―約10分後、恋歌は偵察を休んで水道から水を飲んでいた。

と、その時である。


「…はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは…」

何処からか妙に鬱陶しい笑い声が聞こえてきた。

高い聴力を持つ恋歌は、辺りを見渡すまでもなく、その声のする方向を察知した。

丁度自分の右後ろの通路からである。

姿はぼやけてしか聞こえない(・・・・・)が、40代以降の男であることは判った。


恋歌が振り返ると、其処には確かに予想したとおりの人物が立っていた。

ただその格好は余りにも奇抜というか異常極まりなく、どう考えてもまともな奴には見えなかった。


「…うぇ…」

恋歌がそんな声を上げるのも無理はない。

そいつの格好と言えば、頭には黒いシルクハット、顔には白いファントムマスク、深紅のマントを棚引かせ、下半身には青いバスタオル一枚を撒いているだけなのだから。

しかもそれでいてかなり太り気味で明らかに腹が出ている。

どう考えても異常者である事は間違いないだろう。


「はーっはっはっはっはっは!

初めましてお嬢さん。

私は人禍のエリート特殊部隊・デイヴィッド小隊のゴードンと申します。

失礼ですが、貴方のお名前は?」

「…恋歌……香山恋歌…」

「恋歌!なんと美しいお名前なのでしょう!

やはりそうでしたね!貴方と私がこの場で出会ったのは、決定付けられた運命だったのです!」

いきなり荒唐無稽な事を言い出す変態である。

「…は…?」

「戸惑うのも無理は有りません!

この私の世にも美しい身体を見れば、誰もが見とれて言葉も出なくなるのです!」

「いや…ちょ…」

「さぁ恋歌さん!愛を誓い合うために私と抱き合いましょう!」

「……げ」


そう言うと、ゴードンは全速力で走り寄って来た。

露出狂の上、ロリコンでナルシスト(しかも容姿は底辺以下)ともなれば、どう考えたってコイツはこの場で成敗せねばならない。

いや、恋歌は判断力不足の為未だ日異連から絶体絶命の窮地を除き殺人を認められていない。

自分の能力と体力から考えて、精々「音波」の能力で鼓膜を破壊して、とりあえず此処にある洗剤で動きを制限するついでに視覚も奪ってから、適当に手の空いている仲間を呼んで助けて貰うしかないだろう。

とりあえず今は、何としてもゴードンの動きを止めなければ。

恋歌は両手を突き出し、手拍子と共に唱えた。


パァン!

「ぬりかべっ!」


その瞬間、恋歌に飛び掛からんとしていたゴードンはまるで透明な壁に衝突したかのように動きが止まり、地面に崩れ落ちた。

手拍子で出た音波を能力により増幅・調整し、空気の壁を作って相手の動きを阻害したのだ。

しかしゴードンは直ぐさま立ち上がり、言った。

「フフフ…これが最近流行の『ツンデレ』というものですか…実にイイ!何とも素晴らしい!」

恋歌は思った。

「(…こいつ…へんたいでナルシストでロリコンなだけじゃなくて…まぞ………うざ…)」

そして同時にこうも思った。

「(デイヴィッドって…たしかあのトカゲが言ってた………やくたたずのごみどもだって……あたってる…あたりすぎてる…)」

そして恋歌は、動物の口のように組み合わせた両手を突き出しながら再び叫んだ。


「おんぱほーっ!」


ポォン!


恋歌の掌からは何も出ている様子が無かった。

しかしそれはゴードンの腹にぶち当たり、彼を仰向けに倒した。


「…ぐ…Sなょぅι”ょは大歓迎……この程度……我々の業界ではご褒美です…」


「……ならもっとごほーびあげるよ…」

恋歌はそう言うと、先程の構えを再び取って、叫ぶと共に波動を放つ。


「かめおんぱっ!」

バォン!


先程の「おんぱほう」より更に大きな音がしたかと思うと、今度はゴードンの身体が少し吹き飛んだ。

しかしゴードンはというと、

「…く…かはっ……イイ……実にイイ……」

「(…しぶとい…)」

恋歌が再びゴードンを攻撃しようとした次の瞬間、マイケルの時にそうであったように、屋内へと声が響いた。

「おっしゃ幼女、下がって良し!休憩!」

「!?」

「そ、その声は!ま、まさかっ!?」

恋歌は声の主が何処にいるのかその位置を探ろうとしたが、位置を特定することは出来なかった。

対象の動きが早すぎるのである。

そしてそいつは、一瞬にして恋歌とゴードンの眼前に現れた。



「よう」



ゴードンほどではなかったが、そいつも十分変な姿をしていた。

そいつは細身で、長身の男。染めているのか地毛なのか、頭髪は爽やかな青色である。

手足が細長く、その顔立ちは中性的で実に美しい。

しかしそいつの着ている服は明らかに女物であり、全体的に青を基調として短めに着こなされていた。

背中に大きく青い翼がある時点で、それが人間でない事は容易く理解できた。


男はゴードンを見下しながら言った。

「よう、ゴードン。

相変わらずだな」

それに対し、ゴードンは驚いたように言った。

「は、隼人(ハヤト)

何故お前が此処に!?」

隼人と呼ばれた女装男は、ゴードンに歩み寄りながら言った。

「何故、だってェ?

決まってんだろう。総統からの命令でお前等を消しに来たんだよ。

ついでにそこなシンバラのガキも消せりゃあラッキーだな」

ファントムマスクの砕かれたゴードンは、後ずさりながら言い放つ。

「な…私を消すだと…?

何故だ!?何故エリート特殊部隊であるデイヴィッド小隊の、美しいこの私が、何故お前如きに殺されなければならない!?」

末期のゴードンに対し、隼人は冷静にこう言った。

「さぁな…。

総統の御意志だろうよ…あの御方の考えなんざぁ俺にゃあ判んねぇぜ。

俺、バカだからよ。

ただ…俺はお前達デイヴィッド小隊ってのが人禍に出来た頃からお前等の事が気に食わなかった。

それに自分の事をエリート所属だの美しいだの言ってる奴は、全力で殺したくなるんだよ」

それにゴードンは言い返す。

「何!?ではこの私がお前以下のクズで醜いというのか!?」

「よく判ってるじゃねぇか、お前は明らかに役立たずで醜い。

お前等デイヴィッド小隊の活動は人禍に迷惑じゃあ無かったが、同時に無益でもあった…。

それでいて俺達益獣部隊に勝る特殊部隊だなんぞと、よくまぁ言えたもんだな」

「黙れ!そもそも毎晩マスターベーションで必死に鍛え上げたこの美しい身体の何処が醜いと―「それだよ」

隼人はゴードンの言葉を遮るように言った。

「…何…だと?」

「お前の醜さの元凶ってのはな、お前がオナニー狂いだからってのもあるって言いてぇんだよ」

「どういう事だ?」

隼人は、冷静に話し始めた。

「良いか、これは俺の実体験だ。手前を貶める意味だけで出来てる作り話なんかじゃあねぇ。

先ず、男性ホルモンの過剰分泌が抑制されるんで体毛が薄くなる。

見ろよ、俺のこの手足に口元を。

ちゃんと処理してるってのもあるが、無駄毛なんざ殆ど無ぇだろうが。

それに引き替えテメェの身体は何だ。

髭も胸毛も脇毛も、ワイルドさなんざ欠片もなく汚く伸びちまいやがって。

次に、髪の毛がサラついてコシが出てきて、皮脂やニキビも減る上に、あの『男独特の嫌な体臭』って奴が無くなる。

これも体毛のくだりと同じでな。自慢じゃあ無ぇが俺の髪はお前のと比べてずっと強く出来てて、皮膚も脂ぎって無ぇだろう。

しかも俺は身体だって臭かねぇが、お前はそんな格好だから汗臭さも相俟って酷ぇ有様だ。

元々体質や生活スタイルが違うってのも少しはあるだろうが、それでもこの差は驚異的だろ?

で、更には目が気持ち程度に大きくなる。

お前のその目よ、俺のこの大きく見開いた目と比べてみりゃあ歴然だろうが。

第一その仮面だって、元々その醜い面ァ覆い隠す目的ではっつけてんだろ。

あと肌。

ハリとツヤが出てきてスッベスベの綺麗な肌んなりやがるのよ、コレが。

古藤様が話してた、カタツムリの殻真似て作ったタイルじゃねぇが、面白いぐれぇ水気や汚れを弾きやがる。

しかも、無駄な体力使わねぇ分睡眠時間が短縮されるし、性格が外向的かつ社交的に改善されていくし、大人数の前でも平然と大声で話せるだけの精神力とボキャブラリーを獲得できる!

しかもこの事を古藤様に話したらな、何でもオナ禁が健康的って事実は、生物学・医学・生理学なんかにある程度精通してる奴が少し考えたら確信できるレベルなんだとよ!」

そう言うと隼人は、後ろに控える恋歌そっちのけでゴードンの腹を踏み付けながら、静かな口調でこう言った。

「つまりな…これがお前と俺の差なんだよ!

毎晩毎晩オナニー三昧のお前と、オナニー覚えてからオナニーと絶縁状態のお前との差なんだよ!


バカな人間(●●)と、賢い異形(・・)との差なんだよ!」

「……人………間……?

私は……古藤様の力で……異形へと……生まれ変わったのでは……?」

「んな訳ねぇだろ!古藤様だって暇じゃあ無ぇんだよ!

色々と研究したり、色々と実験したり、俺達や軍隊や農場や漁場を管理したり、他にも色々調整したり、人禍の予算調整のためにフリーライターやテレビ出演の仕事したり、あとス●●ムとか、Pi●●vとか、ニ●動とか、M●Fとか、●H3とか、色々大変だっつんだよ!

それにお前なんぞ異形にして図に乗られでもしたら、それこそ人禍なんぞ壊滅しちまうだろうが!」

「…では………私はどうすれば……?」

「はぁ?んなもん知るかよ。

元々猥褻物陳列罪で47回も警察(サツ)の世話んなってたテメェを、人類を上回る存在として人類の捨てた者を拾い上げて更正させてやろうと、慈悲深い総統が拾い上げて下さったんだろうが。

それだっつーのに、手前はあの糞野郎のデイヴィッドにホイホイついて行って、奴の言いなりに外部でバカばっかやらかしてよ。



おぉ、そういやヤー先輩がお前と同じデイヴィッド小隊の糞縞栗鼠野郎ことマイケルのゴミ野郎をブチ殺したんだっけな。

それより前にホロビの姐さんはあの小沢のクソをブチ殺してくれたみたいだしよ…はっきり言ってあの野郎、人禍の兵力の半分管理してるからって調子付いてたんで正直腹ァ立ってたんだよな。

幾らアオアズマヤドリが平和を愛する器用な鳥だからってなァ…義理の親父を藪医者呼ばわりなんぞされてみろ、キレもするんだよ!」

そう行って、隼人はゴードンを掴んでその顔面を思い切り殴ると、首を斜め前へと少し動かした。


すると殴り飛ばされたゴードンの周囲に突風が吹き、彼を一瞬で空中高く浮かせたかと思うと、突風はその頭を真下に向け、ゴードンの身体を勢いよく硬いコンクリート製の床材に叩き付け、首の骨は完全にへし折られた。


「…っケ…ザマぁ無ぇ……さて、残るはあの幼女だが…」

隼人は恋歌の居た方向に目をやるが、既に恋歌は其処に居なかった。

「逃げやがったな……情報に寄ればアイツは相当ハイレベルな異形だっつー話なんだが……余程俺が怖く思えたのか?

…それとも、まさか俺が二次元限定の同性愛者にして三次元限定のロリコンだっつー事に気付きやがったのか?

まぁ良い…こんな時には俺の才能…最高分速マッハ10の高速飛行を生かす時だぜ…。

まぁ、奴の現在位置なんざ曖昧にしか判んねーがよ…」


そう言うと隼人は背中の翼を広げ、低空飛行で恋歌を探しに向かった。

人禍の内、空戦において敵う者無しとされる者に与えられる称号『ハゲタカ』を持つ男・隼人は、玄白の指揮下にある特殊部隊・益獣部隊に所属するアオアズマヤドリの疑似霊長(ファフルトップ)にして、『大気』の異形でもあった。

それは大気と風を自在に支配・操作する能力であり、先程ゴードンを殺した風も彼の意志に操られたものであった。

人禍最速の男を前に、恋歌はどう立ち向かうのか。


―同時刻?・玄白、不二子―

不二子と玄白は電話越しに話していた。

「…で、シンバラや連盟の連中は特殊部隊が足止めしているようだけれど…貴方の方はどう?

順調かしら?博士(ドク)

『はい、疑わしいほど順調です。

巨像本体は既に活動可能で、復活作業自体は終了といっても過言ではありません。

ただ、微調整がかなり残っているので予定より早く起動とはならないでしょうが』

「そう。時間については別に構わないわ。

予定通り攻め込む事を想定しているから」

『左様で。

では、再び作業に戻ります』

「えぇ、頑張ってね」

不二子は電話を切り、ノートパソコンを開いた。

画面に映し出されていたのは、国会議事堂で無茶で矛盾している政策や、金の問題について弁解を続ける、内閣総理大臣・鳩谷幸満。

「…相変わらずバカばっかり言っちゃってるわねェ…アンタ。

やっぱり、アンタに日本は任せらんないわ…日本含め地球は私達異形が…いえ、私達『ゲヘナ革新派』が支配しなくては…」


―同時刻・小山涼也―

突如、少年は目を覚ました。

しかし言葉が出ない。否、出せないのだ。


―!?…何が…どうなってるんだ…?―


試しに目を開けてみると、目の前には白い天井だけが広がっていた。

恐らくあそこで眠らされてから、あの男にここまで連れてこられて拘束されているのだろう。

小山少年はそれを直ぐ悟り、まだ申し訳程度に動く頭と目玉で、自分の今の有様を確認しようとした。

そして彼は、その行動を直ぐさま公開することとなる。


―……!!?―


それを見たとき、小山少年は現実の理解が出来なかった。

当然である。

自分の腕の拘束のされ方は、明らかに普通ではなかったのだから。


その腕は周囲の肉と同化しており、血管や筋肉繊維までもほぼ同化していた。


―……僕は…一体……―


少年は考えを巡らし、どうにか正気を保とうとする。

しかし、彼の意識は徐々に遠のいていく。


―……あぁ…僕は何故こんな事になっているんだっけ…―


―……僕は……何だっけ……?―



―……もう良いや………考えることが面倒臭い……―




―…眠い……もう寝てしまおう……永遠に寝ていよう……―




―……ああ…ねむい……ねたい………ねよう……―



―おや………すみ…………なさい……―




こうして、小山少年は本来の姿―白い巨像の心臓―となったのである。

その光景を確認した古藤玄白は、静かに言った。


「準備完了。あとは最終調整…かな」


ホロビを初めとする『わが子等』へと命令を下して以来、単身付きっ切りで巨像復活の為に全力を注いできた玄白。

怪しい笑みを浮かべながら、彼は作業を再開した。





その笑みの真意とは、一体何なのだろうか?

果たして彼は本当に人禍への忠誠心だけで、ここまでの苦労をしているのだろうか?

彼は、何故シンバラを去り人禍に協力するのだろうか?

そもそも人禍が掲げる人類根絶とは、本当に彼が望むものなのだろうか?

そして作中で未だ公開されていない彼の『能力』とは、一体如何なるものなのだろうか?

何より、初登場以降触手を伸ばしたり身体を分割したりと明らかに只ではないような、そんな彼は何者なのだろうか?


それらの謎は…恐らく第三部で明らかになるであろう。












多分。

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