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第五種:無表情な仮面[撃破]及びその他闘争について












最初は四話で決着させるつもりだったのに…。

―前回より・前回と同位置―


燃え続ける燃料庫。

その場からかなり離れた位置を歩くEM。

この時EMは完全に安心しきっていた。


これで大志は完全に焼け死んだ。

あとは暫く仲間達に任せ、疲労が回復したら復帰しよう。

彼はそう思った。



と、次の瞬間である。

百戦錬磨のEMでさえ、全く予想だにしない出来事が起こった。

それは科学的に考えても、全く有り得ない事だった。




ドゴァン―ガゴゥン!






恐る恐る振り返るEM。

まず目に入ってきたのは、突き破られた扉。


そして次に目に入ってきたのは、火炎を纏い(・・・・・)手元の火炎を喰らう(○○○○○○)大志の姿。

しかも火傷の後が全くなく、寧ろ無傷で健康な体になっている。



「…貴様……どういう……事だ…?」

EMは震えながら問う。

その問に、大志は誇らしげに答えた。

「コレか?

これはな、俺の身体の力(・・・・)だ!」


大志は自信満々に話し始めた。


「俺にはよ、異形の力以外に『潜在的才能』ってのが眠ってンだよ。

で、肝心なのはその才能って奴の詳細だが…俺の潜在的才能っつーのは、『エネルギーの吸収』って奴でな!

つまり、火炎でも何でも良いから、周囲のエネルギーってのを皮膚から吸収したり、喰って胃袋やなんかから吸収出来るんだよ!


だが普段この能力はあんまアテんならねーで、ぶっちゃけ使えねー。

そう。俺が健康でピンピンしてりゃあ、喰えるエネルギーの量は少ねぇし、食い過ぎると腹ァ壊したり、酷い時ぁ内臓破裂起こす事もある。


しかし。しかしだ!

この能力は、さっきみてぇにボコボコのズタズタにされてグダグダのボロボロって時だとその真価を発揮する。

この状態で火ィ喰ったりガソリン飲んだりして、とにかくエネルギーってのを吸収すると、だ。

脳の奴が身体を修復するためにより多くのエネルギーを摂取して回復しなきゃなんねーと勝手に判断し、それが若干行き過ぎてか俺の身体へエネルギーが多めに注入されるわけでよ。

その結果傷の治りが早くなったり、クスリなんぞ使うまでもなく瞬時にスーパーサ○ヤ人的なドーピングが出来るんだよ。

まぁ頭髪が金煌金(キンキラキン)になって逆立ったり、手からわけわかんねービームが吹き出たり、翼もジェットも無しに空飛べるようにはなんねーけどな。

なった所で俺そんなの全然要らねーから誰得だしよ」


驚きの余り硬直して動けなくなってしまったEMを尻目に、大志は続ける。


「そういうわけで…だ。

今回はまぁ、手前ん所のカシラが俺についてそんな調べてなかったのが悪いっつー事で一つ、許しちゃくんねーか?


まぁ、こんなおっさんなんぞ許さねー方が良いだろうがな、手前等ん所のカシラだきゃあんましつこく恨んでやんなよ?

仕方無かったんだからな」


そう言うと大志は、硬直したまま動けないEMに向けて叫びながら連打を叩き込む。


「スゥ――――――ッ…だぁぁあありゃあああああああAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―」


そしてその連打が丁度自分の歳の数の直前まで入った所で、最後の一撃を叩き込むと共にこう叫んだ。



「―――那覇最高ォォォォォォォ!」



バゴァァン!


その一撃を受けて、人類史上初のホムンクルス、エクスプレイションレス・マスクの身体は粉々に砕け散り、不気味な緑色の体液をしたたらせながらその一生を終えた。



「…ッシャア!

回復したとはいえチト疲れたな…どっかに給水所とかねぇかなぁ…」


そう言うと、大志は再び歩き始めた。


―前々回より・直美、レベッカ―


ズガガガガガガガガガガガガガガがガガッ!!


レベッカはリロードも無しにサブマシンガンを連射する。

明らかに変である。

そこまで内容量が多いとは思えないのに、何故か銃弾が沸くように出てくる。

しかも、そのリロードは一切無い。

普通のマシンガンならばまだ避ける余裕はあったが、高速連射される弾丸が何発も何発も長時間に渡り降り注ぐのでは、直美も避けようがなかった。

例え獣化で得た体力であっても、瞬発力重視の直美にとって持久力には若干限界があった。


「ちょッ!おまッ!

あんたッ!何なのよッ!?

そのッ!馬鹿げたッ!装填数はぁぁぁぁぁぁ!?」


避けながら絶叫する直美に、レベッカは冷ややかに言い放った。

「何って、私の能力よ。

私は『量産』の異形。

予め設定した物体―この場合、弾丸―を、無限に生成することが出来るの。

素材もある程度選べるし、結構便利な能力よ。

でも距離制限は厳しいし、それ以外には何も無いから厳しいところはとことん厳しいんだけど。

しかも一度コレと決めたら量産する物体は変更出来ないし」


「それでッ!十分ッ!じゃないのぉぉぉぉぉ!」

直美は弾を避けながら叫ぶと、体勢を立て直して跳び上がり、右腕を振り上げてレベッカに飛び掛かる。

しかし、そこで易々直美の爪に切り裂かれるレベッカではない。

「甘いわァ!」


ズガガガガガガガガガガガガガガガがガガガッ!!


連射されるサブマシンガンの弾が、直美に降り注ぐ…が、驚くべき事が起こった。


スフォン

スフォン スフォン

スフォン スフォ・フォン


まるで煙か霧を撃つ様に、弾丸が直美の身体を突き抜けて行くのである。

レベッカは悟った。

「…む、霧散…化?

それも…あんな高密度かつ、高密度だなんてッ…!!」


レベッカはサブマシンガンを落とし、瞼を閉じて潔く死を覚悟した。


そして次の瞬間、直美の鋭い爪がレベッカへと勢いよく振り下ろされ―





スパァン!




なかった。

直美は即座に獣化を解き、レベッカの頬を平手で打った。


「!?

何故?今の貴方なら私を完全に殺し切れた筈よ!?

なのに何で、いきなり獣化を解いて平手打ちなんか―「気に入らないのよ、その思え方」


「…どういう―「だから!そう易々と生きることを諦めるなんて、私には許せないのよ!」


黙り込むレベッカ。


「いい?貴方がどれだけこの組織に忠誠心を持っていて、私達を殺すためにどんな手段を使ったとしても、私はそう貴方を咎めたり恨んだりはしないわ。


だけど、貴方が自分を大切にしないんだったら話は別。

貴方が自分なんてどうなったって良いと思っているのなら、私は貴方を全力で咎め、全力で恨むわ。


何故って?


他人の命は兎も角―勿論正当な理由あってだけど―自分の命を大切にしない奴が大嫌いだから。

軽い気持ちで自殺なんてしようとする奴が大嫌いだから。

謙遜するだけならまだしも、本気で自分なんて死ねばいいと思ってる奴が大嫌いだから。

まだ十分生きられる可能性があるのに、他人や誇りの為に自害する事が美学だなんて思っている奴が大嫌いだから。


つまり、貴方が諦めたのがもう気に入らなくて仕方なかったのよ。

貴方の身体能力なら、あそこでどうにでも出来たでしょう?」


黙ったままのレベッカ。


「兎に角、銃を拾いなさい。

そして私と殺し合うのよ。

それこそ貴方が今最も優先するべき業務でしょう?」


レベッカは銃を拾い、頷いた。

それを見て、直美は静かに笑む。


獣化した直美は再びレベッカに飛び掛かり、銃を構えたレベッカは弾丸を直美に向けて放つ。

弾丸は直美の身体を貫くが、それでも虎の勢いは止まらない。

しかし、獣が幾ら迫ってこようともレベッカは弾丸を休む事無く連射する。

まだ勝機が完全に失われたわけではない。


そして、次の瞬間。



ズォゥシュッ!!




直美の爪が、レベッカの胴体に五本の線を残し、紅く染まった。

レベッカはただ銃を握り締めたまま、叫ぶことも騒ぐことも無く、静かに倒れ伏すと、静かにその生涯を終えた。


直美は埋葬どころか黙祷もせず、ただ速やかにその場を立ち去った。


―前々回より・妹尾姉妹、ケイガ―


千歳と千晴は、それぞれライフルと自動小銃で、弾丸と燃料を失い、なけなしの手榴弾も尽きたケイガを追い詰めんと奮闘していた。


ズガン!ズガン!ズガン!

ゾダダダダダダダダッ!ゾダダダダダダッ!


千歳はライフルで狙いを定め、自慢の精密射撃で仕留めに掛かる。

しかし、馬が原型であるにもかかわらずケイガはかなり動作が機敏であり、しかも弾丸の起動を読んでいるかの様にライフルの射撃を回避するので、よけい当たりづらかった。

そしてそんな千歳をカバーする為、千晴は自動小銃を連射してケイガを少しでも負傷させようとしており、それが出来ずともケイガの動作を制限しよう必死なのだが、それも大して意味を成していない。

そして姉妹が共に弾切れに陥り、リロードをしている最中、ケイガが何やら右手を上に掲げるような構えを取り、叫ぶと共に地面を殴った。


「豚の様な悲鳴を上げろッ!」


ガンッ!


ギャリリリリリリリリリリリリリリッ!

殴られた床面からは、氷とも水晶ともつかない巨大な結晶群が凄まじいスピードで生え、波のように姉妹を追尾していく。


「「な、何事ッ!?」」


弾を込め終わった二人は結晶から全速力で逃げ続けたが、待てど暮らせど結晶の勢いは収まらない。

銃の性能上仕方なく逃げ回る千晴とは対照的に、千晴はこのまま逃げ続けても無駄と悟り、結晶と程度距離を取ると、自動小銃の弾丸を結晶に目一杯叩き込む。


ガガガガガガガガガガガガガガガガ…


フルで連射される自動小銃の弾丸は結晶の進行を食い止め、ついには完全に砕ききった。


ガギャァン!

ひとまず安心した千晴だったが


「千晴ー!こっちもー!」


見れば千歳は未だ結晶に追われており、すでに体力が限界に近付いていた。

千晴は迷わず再び結晶に集中砲火を叩き込む。



そし―結晶が砕かれ、少し時間が経ってからの事。

休憩を終えた姉妹へと、ケイガは自らの能力を明かした。


「私の能力…それは今見て貰った通り『結晶』だ。

この結晶は私の触れた場所から発生し、動きは私の意のままだ。

そして氷のように低温で、水晶のように透き通っている。

しかし熱にも衝撃にも耐え、また無論導体としても機能し、電圧をかけた際の振動数も水晶と全く同じだ。

だが、これは氷でも水晶でも無い。

そもそもその正体は私にさえ判っていない、正体不明の物質という奴だったりするわけで…だッ!」


ケイガが両手を空中へ翳すと、手元から氷で形作られた龍が片方から一匹の計二匹現れる。

千晴はライフルからハンドガンへ、千歳は自動小銃からサブマシンガンへとそれぞれ銃を持ち替え、結晶で出来た龍を砕きに掛かる。


ガァン!ガァン!ガァン!

ズガガガガガガガガガガガッ!



姉妹の壮絶な連射の末、龍は砕け散った。

ケイガは叫んだ。

「ブrrrrrrァァァァァァァヴァッ!!

実に素晴らしい!


だが未だだ!未だ終わらんよ!」


ケイガは腕をまっすぐ前に突き出し、手元から発生した結晶で一本の巨大な斧を作り上げ、姉妹の方向へ跳びかかりながら叫ぶと共に斧を振り下ろす。

「結晶で鍛えし水晶斧(スイショウフ)に、断てぬモノなど余り無い!」


しかし、そんな攻撃で易々斬り殺される姉妹ではなく、ケイガへと果敢に銃口を向け叫ぶ。



「「弾丸はパワーだぜッ!!」」


ハンドガンとサブマシンガンが火を噴き、ケイガの持つ大斧へと弾丸が集中する。

鋭い音が連続的に木霊し、衝撃に耐え切れなくなった斧は玄翁で叩かれたダイヤモンドのように砕け散った。

バランスを崩し掛けるも、すぐさま体勢を立て直すケイガ。


三名の壮絶な戦いは、どうやらまだまだ続きそうである。


―一方その頃的な時刻・鉄治―

ホロビを殺害後、甲板を去った鉄治であったが、直後すぐに奇怪小隊の一人と戦う羽目になってしまった。

それも一人だけではない。

一人と一匹である。


ガギャアン!

「く…女の細腕がそこまでやるかよ…!」

「…貴様こそ…この私の剣で断てぬとは…!」


鉄治の台詞に出たように、敵は女であった。

それも薫とキャラが被るであろう、細身の剣士。しかも色こそ違うが髪型もポニーテールである。

しかしその装いは侍というより忍者であり、黒い忍者装束を着込んでいた。

更にオコジョまで連れている。



この女、名前を「建逆(たてさか)リオ」という。

格好だけでなく家系まで伊賀だったという何とも言えない経歴の持ち主である。

とはいっても、無論現役で忍者をしているわけではなく、マニア向けの忍術教室を開いたり、忍関係の雑誌や書籍などを家族ぐるみで発行していた。

しかしある時、唐突に発生した不況のアオリをモロに受け、忍術教室に通っていた人間が起こした暴力事件についてマスゴミに身勝手な報道をされた事で収入源を完全に封じられ、散々な目にあってしまう。

そして人間社会を憎むようになったリオは、玄白に拾われて人禍の異形として奇怪小隊の一員として動くようになる。

また、彼女が小学生の頃から育てているオコジョの政重も同じ人禍の異形としてリオをサポートする存在である。


身構えるリオに、鉄治は言った。

「なぁ…リオ…お前はイイ女だ…人禍に入れとくのが勿体無ェぐれぇによ…」

「そうか…褒めてくれたのは有り難いが、生憎私はもう人間を許せる気がしない…」

「そうかよ…ハハ…じゃあ…そんな無茶じゃねえが…一つ頼みがある…」

「何だ…?言うだけ言ってみるがいい」


鉄治がリオに言った望みとは、実に変わったモノだった。


「俺はお前に全力を出している。

お前も俺に全力を出せ(・・・・・)

リオは疑問符を浮かべ、鉄治に問う。

「何を今更。私はお前に対して全力だぞ?」

「そんなわきゃあねぇだろう。

俺が見たいのはお前の能力だよ、能力。

全力出してねぇ相手に負けたんじゃあ未だマシだが、全力見てねぇ相手に負けんのは何か気に食わねぇんだよ…。

だから見せてくれよ…お前の能力を。

そして俺を殺しに来い…お前の能力で」


静かに頷き、刀を振り下ろすリオ。

振り下ろされた刀身からは、三日月を細くしたような白い波動が放たれ、鉄治の上半身を真っ二つに切断する。


リオは一言だけ言った。


「『斬撃』だ」


当然その程度の傷は鉄治に意味が無い。

金属化させた身体を元に戻す鉄治は言った。

「格好良い能力じゃねぇか。

まるで漫画の主人公だな」

「とすれば、お前は洋画の悪役だな」

「悪くねぇ」


こうして二人はまた、斬り合いを再開した。

まぁ、生体エネルギーを燃料に身体から炎を放つ「発火」の能力を持つ政重が居るのだから、斬り合いと言い表すのは変な気もするにはするのだが。


―同時刻・エヴァ―


一人、無表情で佇むエヴァ。

その周囲にて彼女を取り囲むのは、人禍の機械人間兵達。


『日本異形連盟東京チーム幹部、エヴァ・ブラウン。

無駄な抵抗は止め、大人しく降伏せよ。

さもなくば射殺する』

兵士達は一斉にエヴァへと銃口を向ける。

すると、エヴァは静かにこう言った。

「では、射殺して頂いて構いません。

ただ―あなた方を馬鹿にするつもりは微塵もありませんが―私を確実に殺しきれると、あなた方が確信なさって居られるのなら…私は何時あなた方に殺されても構いません…。

ただ……あなた方が…私を殺すという…その一つの行為に対し、不安が少しでもあるというのなら…いえ、機械であるあなた方にこんな事を言うのは無駄でしたでしょうか…。



ではどうぞ、射殺して下さって構いません」


『…構え』

リーダーと思しき深紅の機械人間が、指示を下す。


ジャキッ!


機械人間達は一斉に銃を構えた。全ての銃口は勿論、エヴァの方向を向いている。

深紅の機械人間が、部下に発砲命令を下さんとした、その時。


『撃――バギャゴッ!!


エヴァの背後―丁度右肩の辺り―から、白い毛に覆われた巨大な獣の腕が現れ深紅の機械人間を頭から叩き潰した。

それまで銃を構えていた部下と思しき白銀の機械人間達は、機械の癖に(・・・・・)、まるで人間の様に動揺した(○○○○○○○○○)


兵士の一人が、人間のようにエヴァに問う。


「き…貴様!隊長に何をした!?」

エヴァは答えた。

「何もしていません」

すると賺さずもう一人が問いつめる。

「嘘を吐くな!だとすれば隊長は何に殺された(・・・・)というのだ!?」



エヴァは答えた。


「あなた方が隊長と呼ぶその御方を殺した(・・・)のは、私ではありません。

それどころか、私の本意ですらありません。

それは私の能力(・・)がやったことです。

私の異形としての能力が、勝手に行った事なのです」


「…能力…だと?」


「そう…私の…能力…。

ご存じないのでしたら、私の拙い説明で宜しければご説明致しましょう。


皆様もご存じの通り、異形にはそれぞれ己自身に最も適切な能力が一つ与えられます。

それらは時として変化し、また進化する事もあります。

それらの特性や性質を、より持ち主に近付け、またより強力にする為に。


そして、異形の能力とは、持ち主の精神世界―言うなれば、異形が必ず持つ、己の精神や思考を基盤とした、霊的或いは非科学的な原理により成り立つ空間―に、姿と意志を持った『能力の化身』が存在します。


それらは能力やその持ち主の性質に沿った姿と性格をしていて、その個性は正しく千差万別と言ったところです。

人の姿を取るものもあれば、動植物の姿を取るものもあり、また、天体や無生物の姿を取るものも居ます。

そしてそれらの一部には、実体化してしまうようなものも、存在するのです…」


エヴァが話している最中も、腕の主は這い出すのをやめず、ついにその全貌が現れた。

それは巨大な白熊だったが、頭に太く長い山羊の角を持ち、背中には巨大で強靱な、純白の翼を持っていた。

また、その巨体の各所に輝かしい黄金の鎧を身につけていた。


「通常…『実体化する化身』は主の意志に従います…。

しかし、『彼』は私が出撃を下せばそれに従いますが、私が撤退を命じようともそれに従いません。

そして、『彼』は私が敵によって追い詰められたならば、私の意志とは無関係に、それらを滅ぼそうとします…。

なのであなた方を助けようにも、私にはどうする事も出来ないのです…。

申し訳御座いませんが…」


熊が機械兵達を殺し(・・)続ける中、エヴァは一言だけ、静かに言った。




「『運が悪かった』と、そうお思い下さい」



そして、数分後。

熊が機械兵全てを一通り全滅させた後、その場において|有り得ないと思っていた《・・・・・・・・・・》光景に、度肝を抜かれた。


「…ッ!!」




残骸となった樹脂と鉄。



それに混じってあるのは、血や臓物。



つまりそれは、機械人間兵達が、生物(・・)である事を意味していた。





エヴァは、自分が人を殺してしまったというショックで、地面に弱々しくへたり込んでしまった。


「……そんなッ……てっきり…き…ききッ…機械だと……機械だとばかり……」


そして次の瞬間

「…『機械だとばかり思っていた』…か?」

「!?」

それは頭だけになりつつもエヴァに語りかける、一人の機械人間だった。

機械人間は話を続けた。

「…我々は確かに機械だ…だが、それは肉と骨の部分だけの話…。

…我々は肉体を金属や樹脂にし、超人的な力を得た…人禍に飼われる…『人間』なのだ…。

…無論…小沢一太のゾンビ兵団には敵わぬが……我々はそれが全滅した時の埋め合わせとして存在する…。


我々は…元々産まれながら絶望的な障害を抱えていてな……一般的に『奇形児』や『結合性双生児』等と呼ばれ畏怖される存在だった…。

現に俺も、口で言い表すのが嫌になるほど無惨で醜い奇形児だった…。


そして我々を引き取ってくれたコガラシ総統は…法制度が幾ら改正されようとも、世間から認められず、異物扱いされ、また過剰に哀れまれる我々をな……心から哀れんで下さった…。

そして思われたのだろう……我々が途轍もなく悲しい存在であると…我々は救われるべき存在であると……。

そして…我々が異形となったとしても、その能力によって肉体的呪縛から絶対に逃れられる訳ではない事を古藤様より聞かされ、酷く悲しまれたそうだ…」


エヴァは既に気を失っていて動けない。

代わりに口を開いたのは、彼女の能力である「浄化」が、その能力の性質と主のイメージによって実体化した熊であった。


『故に、人禍はお前達をそんな姿の兵士にしたのか?』

機械人間の男は答えた。

「…そうだ。俺は総統によって救われたと言っても過言ではない…。

今の俺は総統あってこそとさえ思っている…。

俺を捨てた人間の文明なぞ滅んでしまえばいいんだ…そうだ…滅んでしm―『五月蠅ェ』バグシァ!


熊は即座に機械人間の頭を踏み潰した。


『馬鹿馬鹿しいにも程があんだろうがよ…』


熊はエヴァの背後から、エヴァの中へと戻っていった。

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