第四種:無表情な仮面[死闘]
―みんなの異形昔話「錬金術師グリーン・クレイ」―
昔々中世のヨーロッパで、まだ錬金術師という天才たちが無茶苦茶だけど素晴らしい夢を追い回している頃のお話です。
イギリスだかフランスだかドイツだかそこらへんの都市部に、ある錬金術師が一人で住んでいました。
その錬金術師はグリーン・クレイと名乗っていて、みんなからも親しみを込めてそう呼ばれていました。
しかし、それはその錬金術師の髪と眼がまるで人工物のように鮮やかな緑色であった事と、色々な事を上手にこなす技能や、つかみ所のない知的で不思議な性格と雰囲気を「油粘土のよう」と例えた、錬金術師の知り合いの芸術家がつけた源氏名という偽の名前であって、遠い昔に本当の名前を捨ててしまった錬金術師はその名前をとても気に入ったので、そう名乗っているのでした。
さて、錬金術師の思いはみんなそれぞれですが、その頃の錬金術師達の多くが共通して実現したいと思っている夢が三つほどありました。
一つめは、鉄や銅を黄金にしてしまおうというものです。
これは、この世の全てが元素という粒で出来ているんだという真実を派生させた理論で、全ての基本が同じなら、ある物をちがうものに出来るのでは無いかという発想から、鉄や銅や鉛などの安くて簡単に手に入る金属も、化学的にあれこれどうにかしてしまえば、輝かしい黄金になる筈だと考えたのです。
まぁ結局は無理でしたが。
二つめは、不老不死の薬を作ってしまおうというものです。
これは、いわばあらゆる人々が夢見る不老不死―つまり、いつまでも若い体のままで、なおかつ何をされても死ぬことがない究極の体―を手に入れるための薬を自作してしまおうというものです。
ポーションとかエリクサーなんかがいい例です。
三つめは、人の手だけで生き物を作ってしまおうというものです。
これは、そこらへんで集めた色々な材料を混ぜ合わせて、ビーカーの中で人工イクラを作る要領でフラスコの中で「ホムンクルス」という小人を作って育てようという、おおざっぱに聞くだけなら夏休み辺りの自由研究とか学●の教材とか薬理●室の実験みたいで楽しそうだけど、よくよく考えてみると中々難しい上に恐ろしい夢です。
ちなみにホムンクルスを日本語に訳すと「小さな人」という意味で、決して七大悪魔みたいな人の皮を被った問題山積みのバケモノ(皮膚を炭素でコーティングして防御とか才能の無駄遣いしたり、伸びる爪で何でも切り裂いたり、妙に鬼畜だったり、空間ごと食い尽くすデブだったり、幸せな自分の家庭ぶっ壊そうとしてたり、声だけ聞こえて姿が中々見えないとかソレ何て中二病っていう描写だったり)はしませんのでご安心を。
さて、ある日のことでした。
グリーン・クレイはいつものように朝早く起き出してきました。
元々とても綺麗な女の人だというのに、錬金術の研究のためと言って食べ物や物資の調達くらいでしか殆ど外に出ず、しかも身だしなみだって整っていませんから、補正が掛かっているとはいえ、世辞にも美人とは言えません。
ご飯だってとても適当です。
グリーン・クレイはベランダで野菜を育てているのですが、そこで育てている野菜は、一部に密集しているニンジン、ジャガイモ、タマネギや外国から仕入れた香辛料を除きあとは全てキャベツです。
要するにキャベツが主食の一つです。彼女は毎日三食必ずキャベツを食べ、おやつもドレッシングをつけた生のキャベツが殆どです。
それと、昔に食べて気に入っていたお米を育てるために庭では田んぼと、食べたり見て楽しむための魚や貝を育てる目的でプールのようなものを作っていました。
だからグリーン・クレイの食事に使う材料は殆ど自家製で、彼女はカレーが大好きなのですがそのルーを構成している香辛料さえベランダで補っていましたから、街で買うのはもっぱら本や実験器具が殆どでした。
そういう意味で、彼女の食事が全てカレーとキャベツと魚や貝などプールで育てている生き物を適当に油で揚げただけのシンプルなものかというと、そうでもありませんでした。
彼女はとても頭が良かったので、野菜や香辛料や魚が何時も安全に確保できない事を理解していました。
だから時には、街に出て食べるものを買ったり、友達の誘いで街のレストランを利用することもありました。
ちなみに彼女をレストランに誘うのは大抵、彼女にグリーン・クレイという名前をあげた芸術家の男でした。
でも、そんな事は本当の最終手段であって、彼女は野菜や魚が食べられなくなったとしても、お金を掛けず栄養があって健康的な食事を取るための手段を持っていました。
虫などです。
グリーン・クレイの家の近くは草ぼうぼうの荒れ地で、季節によってはバッタやイモムシが多く捕れました。
それ以外にも、家の中に現れるゴキブリは油で揚げればとても美味しいですし、エスカルゴという料理が有るとおり、バターで炒めたカタツムリやナメクジの味も格別です。
ウジ虫だってグリーン・クレイにかかれば甘辛い煮物に変身します。
大体、家庭菜園を営む上で土を豊かにしようと増やしていたミミズだって、体の土を抜いて火を通せば素晴らしい料理になるのです。
さて、そんなグリーン・クレイは、冒頭で掲げた目標の内、何が何でも成功させたいと思っていた事がありました。
それは三番目の、「人の手だけで生き物を作ってしまう」というもので、彼女は「絶対に成功するホムンクルス製造法」を既に編み出していました。
今はちょうど、そのための準備をしているところですが、実質準備はもう既に終わっていて、上手く行けば今日の午後から実験を開始できるだろうと、グリーン・クレイはそう思っていました。
一般的なホムンクルスと違い、グリーン・クレイの作ろうとしているホムンクルスは金属や珪素などの無機物を中心に構成されている、地球上の生物とはまったく違う構造の生き物でした。
それに一般のホムンクルスは体が小さく容器を出て生きることが出来ない非力は存在ですが、彼女の作ろうとしているホムンクルスは体が大きくパワーも強いのだそうです。
グリーン・クレイはこの計画に人生の全てを賭けては居ませんでしたが、人生の六割くらいを賭けてこのホムンクルスを作ろうと努力していました。
そして、グリーン・クレイは自己流のホムンクルスを作るために努力を重ねました。
怪我をしたり、火傷を負ったり、研究器具が吹き飛んだりと、大変な失敗を何度も繰り返しましたが、それでも彼女は諦めませんでした。
そして紆余曲折を経て、彼女は黒くて大きなホムンクルスを作り出す事に成功しました。
その顔は白い仮面のようで、左側に紅い目玉のようなものが一つだけあり、表情というものがまるで無く、そこからグリーン・クレイはホムンクルスを「エクスプレイションレス・マスク」と名付けました。
エクスプレイションレス・マスクはグリーン・クレイの言うことを何でも聞きましたし、指示していないことでもすぐに察して作業をてきぱきとこなしました。
ですがクレイは、そんなマスクについて幸せな未来ばかりを思っていたわけではありませんでした。
何故なら、自分は今の生活と錬金術の研究ができればそれで十分満足でしたが、他のやつまでそうだと言い切れる保証は何処にもありません。
つうか多分違うでしょう。
人間とは、自分の努力で大儲けして楽な生活をしようとか、周囲からチヤホヤされたいとか、そういう願望を何処かに持っている奴が全体の89.31%以上を占めています。
だから、クレイは自分が確立させたホムンクルス製造法を公開していませんでした。
製造法や、或いは完成した実物=エクスプレイションレス・マスクが奪われて、悪用されてしまわないようにです。
でも、情報とは何時何処から漏れるかわかりません。
そこでクレイは数日考えて、ある事を決めました。
確立させた製造法の資料を全て焼き、実験に使用した器具も全て破棄して買い換え、エクスプレイションレス・マスクを―勿論彼との合意の上で―液体窒素で凍らせて、知り合いに頼んで手で北の冷たい海に沈めてしまおうというのです。
二ヶ月後、計画は実行され、エクスプレイションレス・マスクは北の冷たい海の底深くに沈められ、眠りに就くこととなったのでした。
その後、グリーン・クレイはホムンクルス製造法の資料を全て焼き、実験に使用した器具を全て破棄し一新すると、家を売って遠くの国へ引っ越したのでした。
それ以降、天才錬金術師のグリーン・クレイを見た者は誰もいません。
―おしまい―
―前回より・大志、EM―
「と、私はこういった経緯で産まれたのだ」
「おう。お前についてはよく判ったが、この時点で既に三千五百字突破してんな。どうすんだよコレ」
「大丈夫だろう、いつものことだ。
で、これで死を待つだけかと思っていた私だったのだが、ある日急に解放されて妙な処置をされてだな―「俺の発言ほぼ無視じゃねえか!まぁ良いけど」
「―私は異形として生まれ変わり、人禍という組織の中の特殊部隊『奇怪小隊』のパワー担当となったわけだ。
お分かり頂けたかな?」
「判ったけど俺の発言完全無視かよ!
まだまだ傷付きやすい年頃なんだよ、生まれたての283歳なんだからな」
「283歳で生まれつきはないだろう。
それと、私の弾丸を跳ね返しておいてどこが傷付きやすい年頃だ。
傷付きやすい『年頃』どころかまるで傷付かない『肉体』ではないか」
「心だよ心。ホムンクルスはノリが悪ィなオイ」
そう言って硬化させた拳をEMに叩き込む大志。
粘土を殴ったかのように、EMの胸が大きく凹んだ。
「それはすまないな。
だが私は生憎と無機物中心だから、有機物の考えは読めんのだ」
EMは平然と大志の顔面を殴る。
大志の頭から首にかけての部分がシリコンかビニールの様にぐにゃりと曲がった。
「そうかよ。
じゃあ俺が人間とかの気持ち理解できないのと同じだな」
大志は軽く笑いながら勢い良くEMの股間に蹴りを入れる。
硬化した脚がEMの股から腹にかけてまで食い込んだが、EMに変化はない。
そしてその後も、大志とEMの殴り合い蹴り合い突き合いの乱闘は続いた。
しかし、最初は適当な会話など挟みつつ楽しくやっていた二人であったが、段々口数が減っていき、遂には無言で殴り合うまでになっていた(それが正しいのだが)。
そして、丁度三十分後。
EMの眼から、何やら紅い光線のようなものが発せられた。
ビジュオン!
大志はその光線をどうにか避けたが、後ろの壁は光線より明らかに太く焼かれていた。深さも相当である事から、どう考えても普通の光線ではない。
「…それが、お前の能力か?」
大志の問に、EMは答えた。
「そうだ…私の能力は『熱線』。
この目玉に似た部位の他、『発射口』として機能する全身部位から超高温の熱線を発し、対象物を焼き尽くし、溶かし尽くし、切断する…。
打撃や衝撃を吸収し、挙げ句銃弾までも跳ね返してしまう貴様に対抗する為には、手足を刃物にしたりするよりも此方の方が適切だと判断した」
「ほぉ、つまりレーザー的な火炎放射って訳だな?」
「そうなるが、原理自体がレーザーとはかなり異なる」
「どういう事だ?」
「先程の光は、あくまで能力の効果範囲を指定する為の照準に過ぎない。
あの壁を焼いた原理は平たく言えば誘導加熱とそれに近いものでな、しかも金属でなくとも熱をかけられるのだ。
誘導加熱とは本来、金属に高周波を当て、その際誘導される電流によりジュール熱を発生させ加熱するというものだ。
だが私の場合、その対象は非金属にも及ぶ。
つまり高周波により分子を振動させ、その際発生する摩擦熱と静電気から起こるジュール熱によって対象物を一気に加熱し、レーザー光線同様に対象物を焼いてしまうのだ」
「つまり、それがお前の能力の正体って訳か?」
大志はそう聞いたが、当然EMの答えが次のようであるなどと、想像している筈がなかった。
「いや、その可能性が高いと言うだけで、この熱線の原理については私にもよく判らんのだ」
盛大にすっ転ぶついでに、部位ごとに硬度を調節した脚でEMの腹から胸にかけて強力な一撃を叩き込む大志。
猛烈な威力に耐えられず、また衝撃も緩和しきれず、盛大に吹き飛ぶEM。
「ぬぉぉぉぉぉぅッ!?」
ボゴォン!!
吹き飛んだEMの巨体は、鉄とコンクリートで作られた通路の床を突き破る―まではしなかったものの、それでも盛大なクレーターを残した。
こいつがそれだけ重いという事である。
起き上がった二名は、それぞれこう言った。
「盛大な蹴りだな。転んだ勢いを利用するとは、流石日異連」
「盛大なボケだな。有機物の心の隙を突くとは、流石無機物」
お互いを褒め在った後、大志の拳がEMに、EMの熱線が大志に、それぞれ勢い良く向かう。
拳はEMの頭に横から叩き込まれ、変形し衝撃を吸収する間もなくダメージを受けた。
「ぐぶぁぁぁぁぁ!!」
対する大志は熱線の照準が自分の額を捉えていることに気付き、どうにか対抗しようと瞬時に起き上がるが、時既に遅く胸の中央に穴が空いてしまった。
「ッごっへァ!」
幸い心臓にこそ傷一つ無いが、ダメージ自体はそこそこ深かったのか、少量だが大志は吐血してしまった。
立ち上がり体勢を立て直した二人は、再び向かい合う。
「っはハ…初めてマトモに喰らったな…『黒光り』」
大志は口元の血を拭いながら、口元に笑みを浮かべEMに言い放った。
「貴様こそ、私の熱線をよく避けて当たったな…『ラバータングステン』」
そう返すEMも、名前の通り表情など欠片もなかったが、心の中では笑っているように感じられた。
二人は数秒睨み合うと、無言の侭壮絶な闘争を再開した。
EMは大志に右拳を一発叩き込み、更に左拳をもう一発とばかりに叩き込む。
ドゴゥ!バゴッ!
大志は体を軟化させて衝撃を吸収するが、EMの拳の鋭さは軟化した体にも若干突き刺さる。
「……ッ!」
どうにか体勢を立て直そうと考え、軟化させた腕を伸ばそうとする大志。
しかしその隙を、EMは逃さなかった。
ドゴアォン!!
EMは大志の意識が自分から逸れている最中に体を右回転させ、変形によって一時的に融合させた両腕をメイスのような形状に変化させ、怪力と体重と回転力を利用して、隙だらけの大志に強烈な一撃を叩き込んだのだ。
快いほどに吹き飛び、壁に衝突する大志。
と、次の瞬間。
彼の口と胸の傷口から、少量の血が噴き出した。
ドザァッ…
地面に倒れ伏す大志。
どうにか立ち上がるが、大きな血反吐を吐いてしまう。
「…ッ…ゴブェアッ!!」
咳き込む大志に、EMは言った。
「…成る程。
どうやら貴様のその軟化した肉体、表面積が体より下回っており、ある程度鋭く無ければ衝撃を吸収・緩和し攻撃を受け流すことが出来るらしいな。
ついで、その方向性から凹凸にも強いと見た。
その上、自身以外の物体の硬度さえ操れるならば、確かに撲殺や射殺はほぼ不可能だろうし、並大抵の刃物攻撃も効くまい。
だが、貴様の能力には決定的な弱点がある。
それはまず『遠距離に存在、或いは自らが認識出来ていない物体の硬度を操ることは不可能である』という事。
そしてその軟化した体は『自身の肉体より表面積が上回っており、尚かつ硬度が定数を上回る平面に衝突した際の衝撃を緩和する事は出来ない』という事。
更に…」
EMは、大志に歩み寄りながら言い放った。
「更に『その治癒力・回復力はあくまで平均的な異形のそれであり、負傷した肉体を修復する性能はさほど高くなく、寧ろ平均を若干下回る』という事。
これが貴様の、接近戦における数少ない弱点であり、貴様の異形としての『謎』の一部だ」
「…凄ェなァ…今の一瞬でそこまで見抜くってか。
ははは…凄ェよ…やっぱお前…最高だぜ…。
最ッッッッ高ォォォォォォー―!」
そう言いながら、大志は血を流しながらも立ち上がり、負傷の度合いからは考えられもしない速度でEMに向かっていく。
「…その意気や…実に良し!!」
全身を硬質化させた大志と、拳に短い棘を生やしたEMは互いに全力で殴り合う。
EMの拳はBEC結合により硬化した珪素と炭素を余裕で上回る大志の外皮さえ貫き、彼の骨を叩き折る。
対する大志も負けて居らず、猛烈な連打によりEMの体組織を凄まじいペースで傷付けていく。
勝負は対等かと思われたが、無論そうであるはずが無く、大志は徐々に追い詰められていった。
そして遂に、EMは拳を除く両腕を巨大なバネに変化させ、掛けられるだけの力をかけて、大志に向けてバネ拳を突き出した。
バズドォァン!!
バゴァッ!
拳によって吹き飛ばされた大志の躯は背後の扉に衝突するだけに留まらず、何とその扉を打ち破ってしまった。
吹き飛ばされた先はガソリンの倉庫であり、大量のポリタンクが置かれていて、きついガソリンの臭いが充満していた。
大志は思った。
「(っへ…こりゃあ……勝てる……かもな…)」
一方その頃、エネルギーを殆ど使い、疲弊しきったEMはというと。
「フゥーッ ヘァーッ フゥーッ ヘァーッ……そ…総統……総統に………早く……連絡を……」
EMは備え付けの柱電話から受話器を手に取り、触手型に変化させた指先で即座に「総統室」のボタンを押した。
既に体力的に限界のEMは、不二子が電話に出るのを待った。
数秒して、不二子が電話に出た。
『はいもしもしこちら総t―
「そッ……総統!四階第二廊下のエクスプレイションレス・マスクです!
しッ―シンバラ或いは日異連と思しきの―異形を―撃破しましたァァァァァ!!
如何……致しましょう!?」
怒鳴るように不二子へと事態の詳細を話すEM。
『ちょ…落ち着いて。
その低くて独特な響きの声を聞けば、誰だって貴方だと気付くわよ。
だからひとまず落ち着きなさい。
で?どうしたの?』
落ち着きを取り戻したEMは、総統に話し始めた。
「はッ。船内を偵察中、日異連の異形と遭遇し交戦。
現在瀕死状態にまで追い詰め、相手は隔離燃料貯蔵室の217番倉庫で伸びております」
『そう…。それよりその疲弊具合からして…貴方、手塚と戦ったわね?』
「いえ。私が相手にしたのは手塚ではなく、大喜多と名乗る者です。
というよりも総統。幾ら私とはいえ、あの手塚を相手にしたのであれば相打ちさえも夢の又夢でしょう」
『…それも…そうね。
えーと…大喜多…大喜多………大喜多…大志ね。
データベースにあったわ。
何でも元々生命力というより悪運がとんでもなく強いらしくて、重機にひき殺されても一命を取り留めた事で有名らしいわ。
物理的攻撃で止めを刺すのはやめておきなさい』
「了解しました。
ですが、そうなるとどのようにして奴を始末すれば良いのですか?」
『そうね…それが問題だわ……ところでマスク。貴方確か、大喜多は燃料庫の中で倒れてるって言ってなかった?』
「はい。それが何k―」
EMは不二子の発言から彼女の言おうとしていることを悟り、こう言った。
「総統、それは余りにも危険ではありませんか?」
『何言ってるのよ。
引火の事も考慮して燃料を小分けして、保存場所も分厚い防壁で囲ってそれぞれ隔離したんでしょうが。
それに並大抵の火災なんてルルイエがどうにかしてくれるわ』
「それはそうですが…」
『大体ね、この計画が成功し、人類殲滅に成功すれば燃料なんて腐るほど手に入るわよ』
「総統がそう仰るのでしたら、従うまでです」
『そう。それじゃあ、点火次第瞬時に貯蔵庫を密閉して、貴方は自室に戻りなさい。
そんなに疲弊しているのなら、すぐに休まなければ駄目よ』
「畏まりました、総統」
二人は同時に電話を切り、EMは早速怪力で扉を大体元の形に戻し、ライフル型に変化させた腕に焼夷弾を装填。
それを一番奥のポリタンク目掛けて放つと共に、扉を使って燃料庫を密閉した。
ボゴォアン!
大志の入った燃料庫は、瞬く間に炎上した。
EMはそれを見て安心したのか、その場を後にした。