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第三種:奇怪な異形達の部隊









異形なんて大抵変な奴ばっかりだとか、そんな事は百も承知である。

額に作った即席の第三眼球(サード・アイ)で、鉄治は真実を見ることに成功した。


「(…へッ。

どうにか幻術は破れたぜ…だが、問題はこの幻覚をどう打ち破るかなんだよな…)」


鉄治は幻覚を打ち破る方法を考えたが、良い案が浮かばず十秒も経たない内に考えるのをやめた。

そして鉄治は、決断を下した。

彼はもう一度、肉眼で幻覚を目視し、聡美(・・)を見た。

「(……っと…悪ィ、妹…馬鹿で不器用なクソ兄貴を許してくれなんて…そんな贅沢は言わねぇよ……)」


鉄治は両腕を組み、振りかぶってその腕を巨大な棘付き金棒へと変化させる。

ふと眼をやれば、ホロビは幻術の維持に集中しており、周囲は意識していないようだった。

鉄治は黙ったまま、金棒を幻術の少女へと振り下ろした。


ガギャアン!


幻術の少女はまるで陶器のように砕け散り、消滅した。

そしてそれと同時に、幻術で作られた偽りの世界もまた、一気に崩壊する。



ガギャガオォゥン!



大規模な幻術を破られたショックで、幻術維持に集中していたホロビは衝撃派のようなもので遠くに吹き飛ばされる。


鉄治が携帯電話との融合を解除し、本来の眼を開ける。

するとそこには、案の定いつもの甲板と、吹き飛ばされて倒れたホロビの姿。


「(あいつ…ピクリとも動かねぇが…本当に死んでいるのか?)」


カツ…コツ…カツ…コツ…カツ…コツ…

鉄治はホロビの生死を確かめるため、静かに歩み寄った。

そしてホロビとの距離が遂に20cmとなった、次の瞬間。




ガバッ!


突如ホロビが起き上がり、爪牙を剥き出しに鉄治へと跳び掛かる。



ガシッ!


「っg…」


しかし鉄治の反応はそれより若干早く、変化させた右手でホロビの首を掴み、その上腕を伸ばすことでホロビの爪牙からも難なく逃れている。


ホロビは自分が何をやっても無駄なことを理解したのか、潔く力を失っている。


ニュォ…クゥイン……ジャキッ!

鉄治は背中から二本、例の生物的な刃を生やし、それを地面と垂直に、先端を上に向けて立て、そこ目掛けてホロビを自由落下させる。


もはや生きることを諦め、死体同然に堕ちていくホロビの腹と胸に、鉄治の刃が突き刺さる。



ズグョア!!


生暖かくどろりとした鉄臭い滴が鉄治の刃を伝い、甲板に滴り落ちる。

しかし、鉄治の攻撃はこれで終わりではない。


二本の刃は後ろに傾いていき、戻した反動でホロビは空高く投げ上げられた。

快くない音がして、ホロビの身体から刃が抜け、投げ上げられたホロビの身体は暫くして重力に従い始める。


そして、鉄治の攻撃は再開された。



ズガャ!


ズゴシャ!

ザグァ!



ガシュッ!



自由落下で落ちて来たホロビの身体が、鉄治の背から生えた、カマキリの腕を人間用の武器としてフィクション的に特化させたような生物的な可動式の刃二本によって、素早く切り裂かれていく。



しかも、激しく斬っているというのに切り口はとても綺麗だった。

しかも、乱雑に斬っているというのに長さは全て23.57cmきっちりであった。

しかも、素早く斬っているというのに内蔵は甲板にこぼれ落ちていなかった。


鉄治は輪切りにしたホロビのパーツを更に半分に斬り、それらを今度は縦に斬ったりを繰り返し、一辺が3.51cm程の性六面体に仕上げてしまった。


頭の先から内蔵からつま先から尻尾まで全てサイコロ型に切り刻まれたホロビは、サイコロとして音もなく甲板上へと落下し、力無い肉塊として潰れていった。



そこにホロビの持つ優雅さや気高さや美しさは微塵もなく、ただ崩れた肉塊が甲板に広がっているだけであった。


鉄治は急いでその場を立ち去った。

人禍の疑似霊長が全て玄白の指揮下に在ることくらい鉄治には余裕で予想が付いた。

そして何より玄白が、生物(・・)に対して強い感情を抱き、また徹底する性格であるという事もよく知っていた。


―同時刻・総隊長室―


梃子摺(てこず)らせてくれたもんね…アンタ、流石だわ」


全身生傷と火傷だらけの直美は、口から引き裂かれて息絶えたヤールーの亡骸を見つつ、懐から取り出したウィスキーを飲みながら言った。


「…さて…」

ウィスキーを飲み干し、その瓶を投げ捨てる直美。

ガシャン!

と、快い音がしてガラス瓶が砕け散った。


「…ビールが美味しく飲める場所を探しつつ、敵の相手でもして行こうかしら」

そう言って立ち去った直美であったが、普通は順番が逆なのでは無かろうか。

突っ込んでも無駄なので、別に突っ込まないが。



と、その時である。



バシュ!


「!?」


直美の肩を銃弾が一発、素早く貫いた。


しかも奇妙な事に、彼女が銃弾を受ければ普通傷口は瞬時に塞がるというのに、今つけられた傷からは血が延々と流れ続けている。

それも滴り落ちるとかそんな程度ではなく、


「(…血が…止まらない…?)」


直美がじっと傷口を睨みながら立ち尽くしていると、案の定後ろから声がした。


半獣(ヴェアヴォルフ)は銀製品に弱い…連中(・・)にしか当てはまらないとばかり思っていたけど、まさか似たような性質の異形にまで適応されるなんて、世の中って案外単純なのかしら」


そう言って現れたのは、ウェーブのかかった長い茶髪を棚引かせ、黒のニット帽・赤のTシャツ・長いジーパンを着込んだ褐色肌の細い女であった。

目は澄んだような青で、手足は細くも筋肉がついていることが容易に判断できた。


女は懐からメモ帳を取り出して、それを開きながら再び口を開いた。

「ナオミ・カトリ。女性。経過247歳。外見約20代中盤。先天性。獣化型能力所持。

シンバラ緊急特務科の派閥無所属者(サシ)。日本異形連盟東京チーム池袋ユニットを率いる幹部。

生まれながらの得意体質によりその体型が変わることはなく、常に健康でいられる。

外見に似合わぬ筋力・持久力・耐久力・瞬発力を有し、その格闘能力は非常に高い。

好物は酒類全般と一部の肉及びジャガイモ。

趣味は飲酒と昼寝と野球・格闘技観戦、映画鑑賞等、ドライブ等」


「随分と私について調べ上げたみたいね。

それに、夜族の乱まで知ってるなんてね」


「まぁ、こっちも一応組織だから。

人類根絶と異形をトップとする文明社会を作る事が目的なんだもの、データベースの規模はwikiの十倍よ。多分。

あと貴方について調べたんじゃないの。

貴方達について知らされたのよ。

それと、自己紹介が遅れたわね。


私はレベッカ・ロード。

年は貴方の半分くらいかしらね。元は南米でサブマシンガン片手に傭兵やってたり、欧米でポルノ女優やってたり、日本で漫画家のアシスタントしたりしてたわ。

それが今では人禍の構成員。特殊部隊『奇怪小隊』所属。まぁ、そうは言っても人禍の集団戦力は殆ど小沢の馬鹿が指揮してたゾンビ軍団に頼ってたから、古藤玄白の傘下にある『益獣部隊』とかみたく特殊部隊ばっかりなんだけど」


「そう…ところで、レベッカ。

一つ質問しても良いかしら?」


「何?」


「いい加減血が止まらないんだけど。しかも凄く痛いし。

まさかブラなんたらとか仕込んで無いわよね?」


見れば直美の肩からは、血が延々と流れ出ている。

ブラなんたらとは、つまりブラジキニンの事であろう。

スズメバチの毒等に含まれている強力な発痛ペプチドであり、その他蛇毒でも確認されていたりする。

また発痛だけでなく、炎症や動物の血圧低下にも一役買っており、様々な効果を持っている。


「あー……ご免。

その血なんだけど、私にも何時止まるもんなのか分かんないのよ。

何たってアンタが人狼(ヴェアヴォルフ)ぽい能力だからって馬鹿な理由で純銀製の銃弾撃ったらさ、連中みたく血が止まらなくなっちゃったんだもん」

そして2分ほど、他愛もない会話が繰り広げられた後、二人は闘争を開始した。


レベッカは愛用するサブマシンガンで尽きることのない弾雨を直美に浴びせ、

直美はそんなレベッカの猛攻を避けながら変身しつつ、爪牙や拳を叩き込む。


―同時刻・別位置・妹尾姉妹―


ズガガガガガガガン!

ガゴォン!ガゴォン!


千歳と千晴は、共に道中遭遇した敵一名と交戦中であった。

拳銃を使いこなす相手に二人は機関銃と散弾銃で応戦していたが、如何せん相手の運動能力が半端なものではなく、相性が途轍もなく悪かったので二人は逃げ回りながら戦っていた。


「何なのよアイツ…動きが明らかに生物逸脱してるわ…」

「そうね…もしかしたら生物じゃないのかも…」


というか、そいつは生物を逸脱していて当然だった。

筋骨隆々な疑似霊長の雄で、原型は白馬なのだが、その左腕と下半身が明らかに金属製で、言うなれば機械なのである。

作者は義手・義足というものがどれほど本体に馴染むのかは知らないが、それでも生きている時同様の器用な動作は不可能であろうし、一般人でもまず不可能なアクション映画的動作をやってのけるなど、絶対に無理だと思われる。

というか、義手・義足には専門の職人というのが居るらしいのだが、彼らがここまで高性能な代物を作れるとはまず思えないし、2009年現在最新の工学技術を駆使してもこんな物はまず作れないだろう。

しかしこいつは、それを軽々とやってのける。


ドォア!

ガゴォア!

ズガォゥン!


壁際に隠れた姉妹に向けて、馬男は威嚇射撃を暫く続けたが、急に射撃を止めると、語り出した。


「フゥハハハハハァ!

お前達、随分素晴らしい銃撃センスを持っているじゃあないか!

どうせ異形なんだろうが、見る限りでは齢百年にも満たない若造なんだろう?

そのくらいお前達の面構えと肌を見れば解る。

だが私は若造だからと見下したり、差別をしたりはしない!

第一私とて今年で173歳になるが、五百年だ千年だという方々からすればガキも同じだしな。

寧ろ若い異形の力は素晴らしいものだと思っている!


と、名乗るのが遅れたな。

私は奇怪小隊のケイガ。

見ての通り白馬の疑似霊長で、元はドイツ陸軍に居た。

この腕は戦争で敵軍の砲弾を受けて失ったものでな、その時同時に下半身不随にもなってしまったので軍を引退し、車椅子で隠居生活をしていた。

しかしある日、この素晴らしい人禍様に拾って頂いてこんなにも素晴らしい身体を手に入れ、再び戦うことが出来たのだから私はとても幸福なのだとつくづく思っている!


見たところお前達、姉妹らしいが、名は何と?」

銃撃が止み、落ち着いたところで物陰から出てきた千歳と千晴は、それぞれ自己紹介をした。


「私、妹尾千歳…宜しくね~…」

「同じく、千晴…宜しく~…」


ケイガの勢いに押され、引き気味の姉妹。

「成る程。

お前が千歳で、お前が千晴か。


千…実に良い字だ。

私は元々東洋文化…特に日本の文化を高く評価しているが、漢字ほど素晴らしいものは他にそう無いと考えている!

その中でも漢数字…特に百を超える数を表す漢字は実に良い!

他国の言語なら数字で横長に表現せねばならない大きな数を、少ない文字数で表現できるのだからな!

そしてその中でも『千』…この画数といい、字の形といい、音訓の響きといい、実に感動的だ!

『百』『万』『億』『兆』『京』と、それ以上の数も良いが、形・読み・全体的な覚え安さから考えても、千という字はとても良いと思うのだ!」

ケイガの熱弁をただ魂が抜けたように聞いていた姉妹。

と、ここで唐突にケイガの雰囲気が変わり、彼は右脚を上げながら言った。

「でな、下半身不随を補うために装着してもらったこの着脱式の下半身なんだが、別の使い方も存在するんだ…」


「「…?」」


「こう…まずこの部分はこうやって着脱可能に…なっていてな、拳銃の後ろのフタを空けるんだ。

ちなみに右脚は…このように代わりの支えがあるから、歩行に支障は出ない。

で、左腕はここをこうしていくと…。

こう、変形するんだよ。


で、左腕の先端と拳銃を繋いで、更に拳銃の先端と変形させた右脚を繋ぐと…どうだ、凄いだろう?」


出来上がったのは大砲のようなライフルのような、四角い銃口を持つ長い銃であった。


「「……?」」


ケイガは身体と繋がった銃を構え、ポケットから取り出した管数本を左肩に繋ぎ、更に左尻辺りのハッチを開き、何やら灰色の石を数個入れると、そこに水を注いでハッチを閉め、左尻近くにも管を繋いだ。



「で…引き金を引くとだな……」

「「!!」」

勢いに押され何が起こっているのか解らなかった妹尾姉妹だったが、咄嗟に何が来るのか理解して、一瞬で左右に飛び退く。

そして次の瞬間。


ゴォォォォォォォォッ!


銃口から噴射されたのは、目映い輝きを放つ業火であった。


咄嗟に物陰に隠れて難を逃れた姉妹は、炎についての考察を巡らせた。

「火炎…放射器…」

「それも身体の一部を利用するなんて…」

「人禍の奴ら…どんな技術力よ…」

「それにあの炎の輝き方といい…」

「あの石、水、管の組み合わせといい…」

「多分…」

「奴が燃料に使ったのは…」

二人は顔を見合わせ頷くと、ぴったりのリズムで言った。

「「アセチレンガス!」」


アセチレンガス。又の名をアセチレンとは、入手が比較的安価な割に強力な可燃性を持つガスの事である。

釣具屋やネット通販で簡単に手に入る炭化カルシウム(カーバイド)に水を加えることで発生し、非常に燃焼しやすく、燃焼させれば先程のようにまぶしい炎を放つ。

また、酸素との混合ガスであれば実用バーナーとしては最高温度の3300℃を獲得可能である。

その燃焼力の秘密は歪められた分子にあり、酸素が無くとも圧縮しただけで爆発を起こすことさえある。


「その通りだ…よく判ったな」


「まぁね。

私達今丁度中学生なんだけど、理科教育だけは高校レベルまで言ってるからね」

「遺伝子とか医学とか生理学とか有機化学とか本格的な機械系とかは無理だけど、その程度なら朝飯前なのよ」


「ほぅ…実に素晴らしい。

やはり異形とは最高だ…」

火炎放射器を解体しながらそう言ったケイガに

「「褒めてくれてどうも有り難う!」」


そう言って3名は再び銃を取り、戦闘を開始した。


―これまた同時刻・別位置・大志―

「ッラァ!

ッシャアァ!」

人禍の兵士達を、まるでカンフーアクションの様に叩きのめして行く大志。

流石はチーム一の肉体派である。

残る敵は後一人。

丁度チームのリーダー格みたいな奴である。


リーダー格は銃を構えるが、大志はそれを素早くはじき飛ばすと、リズム良く拳を叩き込んでいく。


「オ!」

ドゴッ!

「オ!」

バギッ!

「キ!」

ゴギッ!

「タァアッ!」

ボガギッ!


「スマァァァァァッシュッ!」


メゴリバギャア!



大志の拳に吹っ飛ばされた相手は背中から壁にめり込み、土煙と共に息絶えたようである。


「動きがなってねぇな。

その調子で殴り合って俺に勝つつもりなら、あと百年は修行しねぇと駄目だろうよ」

と、息絶えたかと思われていた敵が、最後の力を振り絞って大志に告げようとする。


「……貴様…流石は……日異連……。

………だが…忘れる………な……。

…我々……より…強い……異形は……まだ大勢……居る……。


特に……貴様……この……先へ進むの……なら…………特……に……『奇怪小隊』……の……『エクスプレイションレス・マスク』様に……気を……付け……ろ………ウゴェハッ……!!」


言い終わるや否や、そいつは口から血の塊を吐き出して息絶えた。

軽く黙祷して先へ進む大志は、敵の言っていた固有名詞に対して考え、呟いた。


「『エクスプレイションレス・マスク』…日本語訳だと『無表情の仮面』…。


つーと、アレか?


よく漫画とかにいる、仮面被ったわけわかんねー雰囲気の奴か?

モロに敵キャラだな。これでもかってくらいに敵キャラだな。

で、あいつの口ぶりからすると上層部…それも異形なんだろうぜ…。

どんな能力なんだかな。


多分魔法使いみたいな奴なんだろうな。つーか俺みてぇな直接攻撃型とかマジありえねーだろ」


はっはっはっはと豪快に笑いながら歩く、アロハスタイルの大志。

と、次の瞬間。



ドゴォア!


「はっはっはっは―ァァアアアア!?」


人禍の拠点は空母だというのに内装がコンクリートで出来ている場所が殆どである。

それ故に天井が崩れ、思わずネタっぽいポーズで飛び退く大志。

アロハなので余計ネタに見えてしまうから不思議である。

上がる土煙の中から、低い声がする。

「噂をすれば影が差す…の言葉に従い、噂をされたので現れてみたぞ…」

「テメェが…エクスプレイションレス・マスクか…?」


土煙が晴れた先に居たのは、全身黒い筋骨隆々な巨体を有する、無表情どころか機械的で顔と認識する事さえ困難な、身長2.4mを超える大男であった。


「その通り…私がエクスプレイションレス・マスクだ…。

ところで…貴様…貴様…貴様はぁぁぁぁ―」


大声を張り上げるエクスプレイションレス・マスク。以下EM。



「―ぁぁ誰だ!?」



予想外の台詞を聞き、盛大に転ける大志。


「知らねーのかよ!

日本異形連盟東京チーム幹部補佐の大喜多大志だ!

敵の情報もろくすっぽ調べてねぇのかテメェ!」

するとEMは、

「おぉ。お前が日異連の者か」

「期待外れだろ?」

「いや、その逆だ。

寧ろ予想を超越していた。

此処までの者がまだ人類に荷担しているなど信じられなかったのだ」

「そうかよ…そりゃあ、とんだ過大評価だなァッ!」


拳を硬く、腕を柔軟にした大志の拳が、ゴムヒモ付き手球のようにEMへと飛来する。


と、次の瞬間。

EMの頭上に翳された彼の右腕がまるで大型車用タイヤの一部のように変形し、大志の鉄拳を受け止めた。

大志はすぐさま腕を元に戻し、言った。

「何だテメェ…その能力は?

楠木や田宮や…それに俺のにも酷似してんぞ…?」

するとEMは大志に手刀を叩き込み、答えた。

「これは私の、異形としての能力ではない。

身体の力が成せる技だ」

叩き込まれた手刀をどうにか硬化させた両腕で受け止める大志。

「身体の…力…?」


EMは大志の眼前に左拳を突き出す。

「そう…」

突き出された拳はどんどん変形していき、最後にはマグナムのような形状へと変化した。

「身体の力だッ!」


バシュオ!


火薬が弾けるような音がして、EMの拳から小振りだが鋭い弾丸が発射された。

それは一直線に大志の左目へと向かっていく。


そして弾丸が大志の左目に直撃した、次の瞬間。


グニョォォウン!


大志の頭は顔面を含め、まるで柔軟な衝撃吸収樹脂の様にへこみ、その反動で同じくゴムの様に軟化した弾丸が、EMの胸目掛けて飛んでいく。


「!?」


大志の能力を未だ知らないEMは、有り得ない出来事に驚いた。

ゴムの様に軟化し、反動で飛び返ってきた弾丸は何時の間にか元の硬度を取り戻し、元のそれを上回る速度と鋭さを得て、EMの胸を貫き、その衝撃で彼は仰け反った。


「……面白い能力だな」

大志の能力を悟り、感心するEM。

「だろ?

全身条件無視して硬くなったり柔らかくなったりするぜ。

無論俺の醜いブツ(・・・・・・)もな。ッハハ!」

お得意の陽気さと下ネタで返す大志。


しかし、弾丸を受け貫かれた筈のEMの身体の異変に気付いた大志は、その傷口に驚愕した。


「!?…テメェ…何だ…その傷口…ッ?


……てか、身体……ッッッ!」



筋骨隆々としたその巨体の、凄まじい輝きを放つ胸板には、確かに穴が開いていた。


だが、その傷口からは、



血液が一滴たりとも出ていなかったのだ。



「…まさか…テメェ……」



大志のその言葉を聞き入れたEMは、血を流さぬ自身の正体を明かした。





「そうだ。

如何なる進化の軸にも属さず、祖先も無く、子さえ残さない。

その身体は金属・樹脂・硝子等の無機物によって構成される。

その身体は変幻自在であり、質量・密度・体積を保ちさえすれば多彩な形態となる。

生物と無生物の境界に位置する…それだけであれば巨大なウイルスのような存在…それが私だ」


至って冷静なEMは、急に話題と話の調子を変えて語り始めた。



「それはそうと、闘士・大喜多よ…。

貴様、嘗て科学が魔術と呼ばれていた時代を知っているか?」

「…あぁ。

うちのゴイスー爺とオモシロ婆が大体その時代をリアルタイムで生きてたからな、話だきゃ聞いてるぜ…」

「そうか…。

嘗て、科学と魔術の境界が未だ曖昧であり、科学者が荒唐無稽な課題達成を夢見ていた中世の時代…。

その頃の科学者は自虐的な細長い爬虫類と神が刻んだ緑玉の碑文を信奉し、主に『錬金術師』等と名乗り、また周囲からもそう呼ばれていた…。

そしてそんな錬金術師達(アルケミスツ)が掲げていた、荒唐無稽だが偉大な数多くの課題…の、中でも代表的な三つ…。


一に、科学的な力を利用した卑金属の純金化。


一に、摂取した生物を不老不死化にする薬物の製造。



そして最後の一つ…錬金術師に限らず多くの者が夢見たが、その反面一部の者が嫌い恐れた課題を、貴様は知っているか?」





大志は、静かに答えた。



「あぁ…知ってるぜ…。





完全に……人為的な手段による……




………生命体の製造(・・・・・・)……だろ?」




「そうだ。

そして私は」




EMの口から語られたのは、衝撃の事実。






「私はその課題の…答えの一つ(・・・・・)だ」

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