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第十二種:「愛し合う者達よ」『奇々怪々』【漁船の悲劇と清らかなジャーナリズム】

―前回より・盛―


「姉さんッ!」

「曽呂野様ッ!」

瓦礫の山に駆け寄る(サカリ)と機械兵。

必死に曽呂野を救出しようとする二人の背後から、大きな足音がする。

二人が振り返ると、そこには巨体の異形が居た。

褐色がかった黒色の、岩のような外皮を持った爬虫類的な大男。


益獣部隊に所属するワニガメの疑似霊長、アトスである。


「よぉ、親父様から呼ばれたんで来てみたが…こりゃあ酷ェ(ザマ)だな…。

退いてくれ、嬢ちゃん達。

あんたらじゃあこの瓦礫どかす前に身体がぶっ壊れちまうぜ」


黙って退く盛と機械兵。


アトスという異形は、益獣部隊のヒューマノイド型メンバーで一番大柄な男で(ヒューマノイド型に限らなければヤールーの方が大きいし、彼より大柄な者も居る)その巨体故に底無しの怪力と生命力を持っている。

情熱的な熱血漢で好戦的な戦士であり、義父である玄白を誰よりも尊敬している。

よって今回の曽呂野救出には打って付けのメンバーであった。

ただしその反面頭脳労働には全く向いて居らず、複雑な考えを巡らせたり、学習したり、記憶したりという行為がとても苦手であるが、彼はその弱点をある方法によって克服しているわけだが、その話は後ほど。



瓦礫を順調に取り除いていくアトス。

ふと、瓦礫の中から白く細いが見えた。


「姉さん!」


盛は思わずその腕に駆け寄り、手を取って頬摺りする。

するとどうだろう。

曽呂野の手は盛の手を幽かに握りかえしてきた。

思わず涙を流して喜ぶ盛だったが、アトスに肩を突かれて引き下がる。

アトスの作業が順調に進んだこともあり、曽呂野は直ぐに助け出された。


「姉さん!姉さんッ!」

曽呂野を抱き抱え、必死に名を呼ぶ盛だったが、曽呂野は一向に起きる気配がない。

思わず揺さぶろうとする盛に、機械兵は負担をかけては可哀想だからそっとしておくよう優しく語りかけた。

アトスは玄白に呼ばれその場を離れねばならなくなったが、呼ばれるついでに彼へと用事が済み次第此方へ向かうよう伝えておくと言い残し、その場を後にした。

更に機械兵も残りの仕事を済ませるため静かにその場から立ち去り、結局その場には曽呂野と盛だけが残された。



何も出来ず、ただ玄白の到着を待つことしか出来ない盛は、座り込んで己の弱さを改めて思い知った。


ふと、思わず泣きそうになる盛の膝に曽呂野の手が触れた。

「…?」

それは何かを探っていたようで、盛の左手に触れると、それを必死で掴み、引き寄せようとする。

「……何?」

盛は引き寄せられるがままに、曽呂野に寄っていく。

ある程度寄っていくと、続いて曽呂野は盛の肩を抱いてきた。

「え、ちょ…姉さん?」

されるが侭に抱かれていく盛。

そして曽呂野は、彼女の顔を自分の顔に近付けていき…




「っむッ!?」




接吻だった。

しかも曽呂野はかなりの力で盛を抱きしめているため、逃れようにも逃れられない。

一応恋人同士みたいな関係なもんだから、接吻の一つや二つは普段からしているが、まさか今する事になろうとは思っても見なかったのである。

しかも挙げ句舌まで入れてくる勢いであった。




しかし、そんな曽呂野の力もそう長続きはせず、口を盛から放すと、彼女を抱きしめていた両腕も、力無く床に倒れた。

「………?


…ね…姉さん…?

姉さんってば……ちょ…冗談きついよ…?

起きて?

博士(ドクター)がこっちに向かってくれてるだろうから……姉さんッ!!



―――姉さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」



木伏盛(キブシサカリ)の悲痛な叫びが、ホール内に木霊した。





―一方その頃・天井崩れて数分後の日異連一行―


直美・大志のコンビは何事もなく無事に仲間と合流し、色々と話し合っていた。

二十分ほど話し込み、報告や雑談も一段落したのでさっさと巨像を倒すなり船を沈めるなり不二子を殺すなり残る機関員を殲滅するなり不二子を殺すなり、残る様々な目的へ向かおうと一同は決意を固め、動き出そうとした。




と、その時。宙に浮かぶ小さな人影がどこからとも無く現れ、喋りだした。

「フゥ……糞小隊ノゴミ共ハトモカクトシテ……我ガ奇怪小隊サエモ私ヲ残シ全滅シテシマウトハ……連中ガ洒落ニナラナイ程強過ギルノカ…?

或イハ、我ガ部下共ハ所詮ソノ程度ノ使エナイ奴ダッタトイウノカ……?」


―――――――――!?――――――


一行は声のする方へ一斉に視線を集中させる。

其処に居たのは、宙に浮く不気味な姿をした緑色の細い小人。

身長は1m程…もしかすれば1mにも満たないのかも知れない。

毛のない肌は濁った緑色で、見ただけでは質感がどうなのかさえ判らない。

顔には大きく黄色いライトの様な目と思しき器官が二つと、閉じれば皮膚同士が癒着し、外からは全く見えなくなってしまう口と思しき器官が一つ。


「マァソンナ事ハドウデモイイノダロウ……使エヌ者ハ死ニ絶エルノダ…。


…ヨウコソ、ヨウコソ。

シンバラ及ビ日本異形連盟(J・F・L)ノ諸君。


自己紹介ガ遅レタナ。

私ノ名ハ『イェロウアイズ』!

奇怪小隊隊長ニシテ、人禍最高幹部ノ一!」

「イェロウアイズねぇ…実にシンプルな名前だ」

そんな鉄治の発言に、イェロウアイズは答える。

「正確ニハ『イェロウアイズ・ビリジアン』ダガ、ドノ様ニ呼ボウトモ大抵ハ自由ダ」

そんなイェロウアイズ・ビリジアン(以下YB)の発言を聞いた松葉は、こう聞いた。

「そうかい…じゃあ『ビリジアン』よ……俺達は今急用で急いでるんでな、ちと先へ通しちゃくれねぇか?」

そんな発言に、YBは怒りを交えて返す。

「笑ワセルナヨ、手塚松葉。

貴様ハ日異連ニ於イテ最モ恐ロシキ異形ダ……ソシテ貴様程強イ異形ハ今ノゴ時世ソウ居ナイ…。

…ソンナ貴様ガ、眼前ノ敵ヲ見逃サズシテ何ガ強者ダ?

何ガ禽獣ダ?

何ガ異形ダ?

コノ私ヲ殺サズシテ総統ヲ殺ソウナド、決シテ認メンゾ!」

そう言われた松葉は、熟考の末決断を下した。

「良し。んじゃ御前等、行きたきゃ30秒以内にこっから離れてくれ。

残った奴は強制的に俺と君でコイツと戦って貰う」


―30秒経ったが、その場を離れる者は誰一人としていなかった。


「御前等……」

振り返って思わず黙り込む松葉。

無表情だったが、心の中ではこんな自分如きをここまで信頼してくれている事に感謝していた。


突如、YBの左手が触手のように伸びて松葉に襲い掛かる。

それを健一が素早く切り落とした。

闘争開始の合図であった。

直後、直美と大志はアイコンタクトでお互い確認を取り、素早く左右から回り込んでその拳をYBの胴体へと叩き込む。


「ゲボェ!」

右から大志が放った岩の拳、左から直美が放った虎の拳を叩き込まれたYBは、そんな声を上げた。

明らかにYBの身体は左右に潰れたが、彼自身は何とも無かったかの様に元に戻ってしまった。

しかしそんな事など気にせず、今度は背後から鉄治が飛び掛かり、前方から薫が斬り掛かる。

YBは素早く地面に降下すると、その身体を瞬時に変形させ、まるで陸亀の様な姿になって地面に貼り付いた。

そうとは知らず、それぞれ鋼鉄の爪と愛用の刀をYBに振り下ろす。

しかし、


ガギィン!


「「ッ!?」」


二人の斬撃はYBの甲羅に弾かれてしまった。

有り得ない。

鉄治の金属は同様の物質以外で物理的に破壊する事が出来ないほどの硬度を誇り、薫の刀は彼女の能力により高速振動を続けている為大抵の物体を切り裂くことが出来たからだ。


怯み引き下がる二人に代わり、続いて攻撃を仕掛けたのは健一と雅子。

健一は手に持った鎖を思い切り引っ張った。

先端には巨大な球が装着されていて、これは雅子が化けたものである。

球は亀形態のYBに勢いよく襲い掛かり、緑色の亀を叩き潰すかと思われた。

しかしYBはまたも身体を瞬時に変形させ、筋骨隆々な人型の姿となって鉄球を太い右腕で受け止める左腕では鎖を掴み、未だ鎖を掴んだままの健一を逆に投げ飛ばすと同時に、鉄球に化けた雅子をも勢い良く壁に投げつけた。

壁に激突したショックで変身が強制解除された雅子。


松葉はそんな短時間の戦闘風景を見て思った。


「(こいつぁ強敵だな)」


―同時刻かそれ以降・巨像蘇生室―


「では、始めてくれるかい?」

「はい、わかりました」

それだけ告げると、玄白は部屋から姿を消し、中には盛と巨像だけが残された。

盛は巨像をじっと見つめると、両手の平を巨像に向けて張り手のように突き出した。

すると、見えない空気の膜に似たものが巨像を包み込み、辺りには強風が吹き荒れる。

実験器具が宙を舞い、服や髪型が乱れるのもお構いなしに、盛はこう唱えた。

「移れ」

その一言と同時に、巨像の姿は一瞬にして消えた。


そう、これこそが彼女の能力「転移」である。

頭の中に思い描いた場所へ指定した物体を転移させる能力で、一度に転移できる物体の数は一つだけ、記憶に無い場所を指定する場合その経緯度・高度を指定しなければならないなど制約は大きいが、それでもかなり巨力な部類の能力である。

まぁその代わりなのか、盛自身戦闘能力は殆ど備えていないのだが。


―同時刻・八丈島周辺の海域・漁師数名―


漁師達は何時も通り、漁船に乗って漁に出ていた。

狙うはトビウオ。特産品である「くさや」の材料にするのが主な目的である。

漁は開始二時間にして収穫がかなり多く、このまま行けば去年の記録を遙かに上回るだろうと誰もが期待していた。


「杉浦君、魚群探知機の様子はどうかね?」

船長の老人は、知人の青年・杉浦に言った。

「はい。大きな群れが近付いています。

上手く行けば去年を遙かに超える売り上げが期待できるものかと」

杉浦は紳士的に答える。

「それは良い事だのぉ、安心したで。

これからも頼りにしとるでな、宜しく頼むぞ」

老人は杉浦にそう告げる。

彼は老人に爽やかな笑顔を返した。


と、その時である。

自然では有り得ないような波が船底に発生し、船を大きく揺らした。

多くの船員達はバランスを崩して転んでしまう。当然老人も例外ではない。


「山本さん!大丈夫ですか?」

頭から血を流しながらも、杉浦は倒れたまま動けない老人・山本に駆け寄る。

「おぉ、杉浦君。大丈夫かいの?」

「僕は心配要りません。それより、山本さんの手当てを」

「儂は大丈夫じゃけぇ。君が平気なんじゃったら他の皆の所へ―――グボャア!!


山本の言葉を遮る様に、船が下から何者かによって握り潰された。

粉々に砕け散る船。散り散りになった船員の中には、死者も少なからず居る。

どうにか生き残った杉浦は、声を張り上げて山本の名を呼びながら彼を捜す。

しかしどれ程呼んでも返事は亡かった。

ふと、半ば諦め賭けていた杉浦の元に、何かが流れてきた。

それは山本が何時も大切にしていた亡き妻と対を成す木製の首飾りと、彼の右脚だった。


杉浦は、自分を我が子同然に可愛がってくれていた山本の死による悲しみの余り喉が潰れるほどの大声で泣き叫んだ。



悲しかったのである。

ただ、悲しかった。


―杉浦が泣き叫んでいる頃・都内のとある新聞社―


「編集長」

細身の女性記者が、編集長と思しき男に話しかける。

「どうした、平井?」

女は編集長に言った。

「得ダネです。

それも前代未聞の大ニュース」

「どんなニュースだ?」

「はい。

つい一分ほど前なんですが、八丈島近海でトビウオ漁船が突然バラバラになって沈んだとか。

それも、海中から出てきた巨大な手ににた何かによって握り潰されたとの事です」

「……」

報告を受けた編集長は暫く黙っていたが、熟考の末決断を下した。


「平井」

「何でしょう」

「今まで任せてた仕事全部もうやんな。

そんでな、御前の言ってるソレ全力で洗い上げろ。

他の事に手ェ出したらクビ以前に殺す。

今日の一面の見出しはこうだ。

『漁船粉砕!?八丈島近海に現れた謎の大巨人!!』ってな」

「判りました。では、行ってきます」

そう言い残すと、平井はその場から素早く立ち去った。

その姿を見て、編集長は呟く。

「…まさか来て今のご時世に水棲UMAとはな…。

まぁ最近は禿げ狗だのジパングデビルだのルスツモンスターだの何かとUMA騒ぎが多発してるから、時代の流れに沿ってるっちゃあ沿ってるがな…」


名門早稲田大学を卒業後、独力で新聞社「Y.M.A.(イマ)ジャーナル」を立ち上げ、その編集長を務める男・竹本晴彦。

彼は少年時代ニュースで目にした禿げ狗の奇怪さに惚れ込み、日本中に棲息するUMAの正体を何時か暴いてやると心に決め記者を目指し、下積み時代も専ら禿げ狗を初めとしたUMAについての記事で編集者に貢献する等取り付かれたようにそれらに固執する事で有名であった。


晴彦はコーヒーを一口飲んで、口元で笑いながら言った。

「…さァて、久々に面白くなってきたぜ…」

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