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第十種:「殺人・彼女の覚悟」『百合・性的興奮』【真実・強者】《卑劣漢・自称天才》

―数分後―


グッピーを倒した後、その他迫り来る怪物達―巨大な青い蛸、全身鱗に覆われ強靱な尾を持った猿、軽乗用車程の大きさを誇る甲虫等―を悉く倒し続けた松葉は、遂に闘技場を抜け出す事に成功した。

あれ以降、ルルイエから返答はなく、どうやら自分では彼を殺せないのだと判断したのだろう。

抜け出す前に買い取って(・・・・・)おいた食料を頬張りながら、松葉は兵士のすっかり居なくなった船内を歩き回っていた。

仲間と合流するためである。


ふと、血肉と金属と樹脂の臭いが彼の嗅覚を刺激した。


「(…誰か派手に殺ってんな…?

どうせ鉄治か直美か大志辺りだろうな…あいつ等はそれこそジ●●プ気質だしよ…)」


臭いを辿って小走りで進んでいくと、そこには予想だにしない人物が居た。



「……エヴァ…?」



そう、それは確かに仲間のエヴァ・ブラウンだった。

ただ、機械人間兵の残骸が無数に散らばる中、彼女は壁際で気を失っていた。


「…エヴァ……やらかしたな…。

……とんでもねぇ相方を持つと苦労するってのは……こりゃあガチか。


にしても…一つ引っかかるのは、人禍の機械兵共の中身が血だって事なんだよな…。

銃や刃物が無いんで殴ったり蹴ったりが主だったんだが、まさか奴ら…生物だったのか…?」



松葉はエヴァに駆け寄り、呼びかけながら彼女を揺り起こす。

しばらくして、エヴァは目を開けた。


「おはようさん、女神様。

戦闘中に気絶なんて、らしくねぇな」

「……手塚様…私は、途轍もなく恐ろしい罪を…犯してしまいました……」


「…言ってみろ」


エヴァは淡々と語り始めた。

「…私は…私は、不本意に人間を…只の人間を殺してしまったのです…」

「どういう事だ?」

「はい…私が危機に陥ると『彼』が目覚めることは、手塚様もご存じでしょう。

そしてまた『彼』が…暴れ出したのです。

『彼』は機械兵達を殺していきましたが、その鉄の鎧の中から吹き出したのは…あろう事か人間の血肉や臓物だったのです…」

「……で?」

「…その後、瀕死の兵士が話し始めて……彼らは人間……それも、社会で未だ平等に扱われない奇形児達なのだそうです……。


私は嘗て、犯罪を犯した連盟メンバーを、義に厚い同胞が処刑する所を見てしまいました…。

それからというもの、異形が異形を殺すことは理に適ったことであり…いざという時には私も敵対する同族を殺さねばならないのだと…そう覚悟していました…。

しかし…彼らは人間でした……私は両親より、異形は人間にとって『影なる天使』であらねばならないと教えられていました……。

…例えそれが悪人であろうとも、天使として産まれた私が人間を虐殺する事は……有っては成らないのだと…そう思っていました…。

ですが…私は今日、この時……正当な理由も無く人間を殺してしまったのです……手塚様……私はもう、生きて行く自身というものが……無くなってしまいました……。


…もう…どうすれば良いのか……判りません……」


最終的に松葉の胸に顔を埋め、声を出して泣き出してしまったエヴァ。

そんな彼女の頭を、松葉は優しく撫でて慰めた。

「…エヴァ…心配しなくても良い…。

お前は…お前は何も間違っちゃあ居ない……全部あいつがやったことだ…お前の所為じゃあ無ぇよ…。

それにな、仮にお前がこいつらを殺したって、それはこの場合罪じゃあ無ぇ…。

お前は…正当な理由で奴らを殺したんだ……そんなのを罪に問う奴なんて…連盟に居やしねぇよ…」

「…手塚様……しかし私は人間を―「だからよ!違うっての!」


「良いか、エヴァ?コイツらは自分達の扱いの苦しさに耐えられず、周りがある程度守ってくれるにもかかわらず高望みを続け、その結果として全人類を裏切った。

だから、これは|天に居られる偉大な親父イエス・キリスト様がお前を通じてコイツ等に与えた制裁だったんだよ。

結果として殺したのはお前の意志でも、あいつの本能でもなかった。

お前と、あいつとが、そう動くように命じた、神だったんだよ。

だから気ぃ落とすな。

最初は異形が異形を殺すのだって耐えられなかったんだろう?」

涙を流しながら、頷くエヴァ。

「だったらよ、これを機にちったぁ殺人への抵抗感も克服したらどうだ?

直ぐにとは言わねぇ。

ただ、これからは『もしかしたら人殺すかもしれない』ぐらいの覚悟はしとけ。

俺とお前の約束だ」

「…はい、本当に有り難う御座います…。

では私からも一つ、貴男と約束をさせて頂いても宜しいですか?」

「…内容に寄るな」

「はい。では―」


約束の内容を聞いた松葉は少し驚いたように、エヴァに問う。


「本当に良いのか?そんな約束で」

「はい。決めましたから」

「…そうか。なら、止めはしねぇよ。

さて、そろそろ行くか」

「えぇ」


二人は他の仲間と合流するために、その場から立ち去った。


―同時刻・鉄治、リオ―


リオを押し倒した鉄治は、彼女の胸に変化させた手を突き刺し、その心臓を剔り潰した。

微量の血液を口元から流し、静かに息絶えていくリオ。

死体に駆け寄る政重を尻目に、鉄治はその場から立ち去った。


「主様ぁ!主様ッ!

何て事だ……こんな事…。

出来れば主様の敵を取りたいが…主様より弱い僕では仇なんて取ることは出来無いだろう…。

…となれば、選択肢は一つだ…」


政重は鋭く強化された爪を喉に突き立てながら言った。

「主様…今、会いに行きます……」

自害を決意した政重。

しかし、彼の行為は有る人物によって遮られた。


「死ぬな、政重」

隼人である。

「…隼人さん…何故止めるんです?

それに、敵は良いんですか?」

「何故だと?愚問だな。

お前、そんな事して冥府(あっち)のリオが喜ぶと思ってんのか?

あいつは誰よりお前を大切にしていた。

だから、お前にも生きて欲しいと思ってるんじゃないのか?

あと敵に関してだが、機械兵の群れに追い込んでおいたから、大丈夫だろ」

「……」

「…だから、生きろ。

たった今総統と交渉して来た。

今からお前は自由だ。

人禍を抜けたければ抜けろ。残りたければ残れ。

俺は干渉しない。ただ、残るのなら俺の相方として動いてくれないか?」


政重は熟考の末決断を下した。


「…僕は…人禍を去ります。

隼人さんには申し訳ないですが、主様の居ない人禍に僕が居る意味はありませんから」

「そうか…じゃあ、達者でな」

「はい」


政重は排気管のパイプを器用に外し、その中に潜り込んでいった。

恐らくこの後煙突から脱出する気なのだろう。

一方の隼人も、翼を広げながら言った。

「さて…俺も行くか」

こうして隼人は、再び敵を探しに戻るのであった。


―同時刻・雅子、ニコラ、薫、マシュー―


「閃ッ!」


ザシュッ!

傷付いたマシューの心臓に突き刺さる、薫の刀。


「がフッ……糞……俺も…ここまでか…」


キュォリッ!

傷口から刀が引き抜かれた瞬間、マシューは全身の傷口から血を噴き出しながら絶命した。


「…マシュー・オルセン。

武具の類を用いずにして某をここまで追い詰めるとは……敵ながら見事であった…。


…楠木殿…某は少し休みます…」


「了解…アタシも直ぐに行―「ぬぅぁああああッ!」

のんびり突っ立っている雅子の背後から迫るのは、日本の山林に棲む妖怪の如く身体を変化させたニコラ。

「さて、私らもそろそろ決着付けようか…」

雅子とニコラの表情は最早対照的であり、狂った様に必死な顔のニコラに対し、至って冷静な雅子。


骨、肉、毛、歯、爪、舌、血。

出せるだけの武器を出し切って雅子へ全力疾走するニコラに対し、雅子は右腕をエストックの刃の如く変化させ、ひたすら瞬間(とき)を待った。


そして、次の瞬間。



ズガシュウッ!




雅子の刃はニコラの眉間を精密に貫いており、血の一滴さえ流れていない。


即死である。




「…攻撃することにばかり気を取られて、防御を忘れるなんてね。

あの強固な脂肪シールドに守られていれば、戦況は大きく変わっていたでしょうに」

雅子は右腕を元の形に戻し、寝ている薫の方を向く。

「…薫ちゃん、なんて可愛らしい寝顔なのかしら…」

口元だけがもう既ににやけている。

絵敵に表すなら、ルナティックキモイとかいう表現が似合うのだろう。


「うふふふふ…本当、何とも言えない魅力的な寝姿……。

普段からキッチリした戦士キャラ程、偶に見せる可愛らしさって奴が際立つのよねェ…」

そう言いながら、寝ている薫にゆっくり歩み寄る雅子。

「うふふふふ……薫ちゃん可愛いわウフフ…」

雅子は薫の側に座り込み、彼女の学ランのホックを外し、ボタンも上から外していく。

身体の一部を変化させた様々なパーツを使いこなし、寝ている薫を起こさないように、まずは学ランの上着を脱がす雅子。

次に現れたのは、純白のカッターシャツ。

「…イイ…実にイイ…」

何だか恋歌に音波砲撃で散々やられた際のゴードンみたいである。

だがしかし、ゴードンが外見が醜く心が怪しいのに対し、此方は外見がそこそこ美しく怪しいもんだから余計不気味に見える。

「ウフフフフ……純白は純潔の証ィー…」

シャツのボタンを外していく雅子は、訳の判らない歌を口ずさんでいる。


そしてシャツも脱がし終わった雅子は、遂に最終段階へと到達していた。

「…うほぉあ……サラシ…流石村瀬さん、よく判ってらっしゃる…」

薫の白い肌と、整った上半身に巻かれた白いサラシを見て、気持ち悪いまでの笑みを浮かべる雅子。

既にコイツはマトモじゃあない。いや、今回登場しているキャラにそもそもマトモな奴なんて殆ど居ないに等しいんだが。


雅子は薫の胸に巻かれたサラシを緩め、彼女の身体をそっと床に寝かしつけた。

薫は未だ、清らかな寝息を立てて眠っている。


雅子はひとまず冷静になり立ち上がると、薫を跨いでその腹の上に座り込み、サラシの緩められた胸元へと手を伸ばす。





その後の光景は…ナレーションである私が解説するまでも無いので、読者諸君の脳内でご想像して頂くしか無かろう、と私は思う。



只、数分後に船内へ薫の悲鳴が響き渡ったのは言うまでも無い。



―同時刻・健一、ジェフリー―


「……」

傷だらけで立ち尽くす健一の背後には、崩れ去った瓦礫の山。


「(……勝った……だが苦しい戦いだった……)」

彼の背後には、立て半分に斬られたジェフリーと、輪切りにされたギャビー。

あの後、ジェフリーによって作られた瓦礫のアトゥイとの死闘を繰り広げた健一は、その不死生に苦戦を強いられ、どうにか操作者であるジェフリーを直接攻撃することでその効果を一時的に弱まらせ、そのままジェフリーやギャビー共々一気に決着を付けたのだった。


そんな健一は、足早に倉庫を脱出した。


と、そんな矢先である。

通路の向こうから、大群を成した獣が一斉に何かから逃げているような、地響きに等しい音が聞こえる。


「…?」


健一がその方向に目をやれば、無表情のまま全力疾走する恋歌と、それを追う機械兵達。

「……香山さん…お願いですから避けてて下さいね…」


健一は壁材同士の繋ぎ目を指で撫で、窒素レーザーを両手元に宿す。

その動きを遠目で見ていた恋歌は、瞬時に大きく跳び上がって天井に張り付いた。

機械兵達は一瞬にして恋歌が眼前から消え失せたと錯覚し、混乱する。

その隙を健一は逃すことなく、両手に宿ったレーザーを同時に放つと同時に腕をスライドさせ、機械兵を残らず焼き殺した。



恋歌は天井に張り付いたまま健一の所へやって来た。


「健ちゃん、ありがとー」

「どういたしまして。困っていたら助け合うのは当然でしょう?」

「だねー。

てか、そろそろみんなと合流しよー」

「ですね」


恋歌は天井から健一の方に飛び移り、二人は仲間と合流する為にその場から移動した。


―幾らか前・直美、大志―


EMを撃破した大志とレベッカを撃破した直美は、あの後合流し共に残る仲間達も探そうとしていた。


「ところで大喜多君」

「何だ香取?」

「この先に異形の気配があるの、判る?」

「あぁ、判るぜ。それも徒者じゃあねぇだろうな」

「よねぇ。徒者じゃあ無いわ…きっと、私達が今までに出会ってきた奴らより、更に強いわよ」

「ま、俺は兎も角お前が居りゃあ百人力だろうがな」

「何言ってんのよ、貴男だって十分強いでしょうが」


何気ない会話と共に歩む二人の前に、一人の小男が現れた。

外見から想定して年齢は40代後半といった所だろうか。

まっこと珍妙な顔立ちで、灰色のスーツを着ている。


「儂が一番、偉いのじゃああ!」

わけのわからない事を叫びながら、ショボいポーズを決め込む小男。

「「うっわ…また使い捨てキャラktkr」」

「誰が使い捨てキャラじゃ!」

「いやだって、こういう場合アンタみたいな絶対使い捨ての雑魚って相場が決まってるのよ」

「だな。登場の仕方がどう考えても使い捨てだし、台詞が明らかに使い捨てキャラである事を物語ってるしな」

「アレよね。これって第一部のマイケルみたいに疑似霊長が来て殺されちゃうってオチよね」

「だな。この第二部でも、ゴードンとかいう馬鹿がそんな悲惨な目に遭ってたらしいしな」

大笑いする二人に、小男は怒りながら言う。

「ぐぬ……わ、儂をナメておるな、貴様等!

言っておくが儂はデイヴィッド小隊のバカ共とは別格だぞ!

何てったって、儂が一番偉いのじゃからな!」

「「何処で?」」

「そりゃあ、人禍機関員の中でじゃい!

勿論、総統は除くがな…」

「へぇ」

「つまり手前は異形なんだな?」

「勿論じゃ!儂の能力は、あの安藤陽一さえ畏怖したとして有名なのじゃからな!」


安藤陽一さえ畏怖した能力


この言葉を聞いた瞬間、直美と大志の表情は一変した。

「な…陽一兄貴が畏怖…?」

「ちょ…貴男、名前は?」

小男の名を聞いた瞬間、またも二人の表情は一変する。


「儂は…曽呂野!伝説の曽呂野じゃ!」



「曽呂野…」

「あの…伝説の異形か…?」



曽呂野。

その名は、日異連の者なら誰もが知る伝説的な異形の名の一つ。

嘗て日異連において、接近戦で適う者無しと言われた格闘の異形・安藤陽一に決闘を申し込み、瞬時にして瀕死にまで追い詰めるも、助けに駆けつけた荒俣源太郎や手塚松葉の気配を察知するなり姿を全く見せずその場から消えたと伝えられる異形であり、その姿を見た者は未だ居ないとされている。



眼前に生ける伝説が居る事に驚き、立ち尽くす二人。

曽呂野を名乗る小男は、そんな二人を見て笑っている。

と、次の瞬間。



ヴァン!


曽呂野を名乗る小男の身体へ、赤く透き通った槍が突き刺さり、小男は絶命した。

そして、何処から都もなく響く声に、身構える二人。


「…何が『儂が伝説の曽呂野』よ…。

この船に不法侵入してうまく居座ってるだけの人間が調子に乗るなってェ…の。

やっぱり鵜を真似る鴉は鵜にゃ勝てないんだろうねぇ…」


それは大人びた女の声で、どこか笑っているのが判った。

恐らく、先程小男を殺したのもこいつであろう。



「…誰だ?」

「何処にいるのよ?」

二人の問いに、声の主は答えた。

「誰かって?

気付きなよ、アンタ等頭良いんだからさぁ…」


開けたダンスホールのような空間の中央に、一人の女が降り立った。


その女は、上半身へ白いシャツと袖のない上着を着込み、下半身に短いタイトスカートを履き、深緑色のロングヘアを棚引かせていた。

また頭髪は後頭部辺りの一部が束ねられており、軽いポニーテールになっている。

長身で手足が細く、引き締まったボディラインに、大きく形の整った艶やかな胸と尻とは、整った小顔と並び、男のみ成らず女さえも魅了してしまえるほどに美しかった。

そして、頭上に乗せたサングラスがまた洒落ていて良いなと、二人は同時に思った。


「初めまして、日本異形連盟のお二人。

アタシは曽呂野。

こんなナリだけど一応人禍の重役なんてヤらせてもらってるわ」

「へぇ…アンタが重役ね…お似合いじゃないの」

「全くだぜ…寧ろ、こういう組織の重役はアンタみたいな奴がやるべきだ」

「そう…優しいのね」

曽呂野はそう言うと、左手を上から下へと振り下ろした。


ヴァン!


その瞬間、直美の真上から赤く透き通ったギロチンの刃が落ちてきたが、その場に直美の姿は無かった。

「…」

曽呂野の整った顔に、表情はなかった。

そして次の瞬間、直美がその場に再出現して、曽呂野に言った。

「貴女ねぇ、相手の不意を突き過ぎよ」

「それが戦の基本って奴じゃないの。

それに、アンタも凄いわねぇ…アタシの『振り』を避けるなんて」

「獣化能力の持ち主でね、霧散化が仕えるのよ」

「そう…じゃあ、次はアンタね」

そう言うと同時に、曽呂野は左手を横に振る。

すると今度は大志の脚を巨大なモーニングスターが殴りつける。

しかし、彼の脚は無事であった。

大志は言った。

「せめてもう少し間を置いてくれよ。

まぁ硬化した俺の身体は遠く離れた位置から他の異形が放ったエネルギーをある程度打ち消す作用があるから助かったものの…おっかねぇ能力だな」

そんな言葉に、曽呂野は返す。

「そりゃあね。

私の能力『血霧(ケツム)』は、独自の物質『TBT(※)』で赤く透き通った物体を空中へ作り出し、対象を攻撃・破壊したり、防御に用いたりするものだから」

「ほぉ…そいつぁ面白いな…」

「えぇ…私達のチンケな能力なんかより、ずっと綺麗な能力だわ」


そう言いながら曽呂野へと歩み寄る二人。

一歩、また一歩と歩むたび、二人の能力は解放されていく。


大志の皮膚は硬質化して鎧のように成っていき、直美の身体は徐々に虎へと近付いていく。

対する曽呂野もまた、手元にTBTで出来た剣を作り出し、それを手に持った。


(※…Thrombus beautifully transparentの略 和訳:美しく透き通る血栓)



こうして2VS1の戦いが始まろうとした、その時であった。


「待て!この僕より先に手柄を横取りするなんて許さないぞ!」

間抜けな声がホールに響く。

声のする方向を見た曽呂野は声の主の姿を見るなり表情からやる気が失せ、残る二人もその姿を見て、先程小男を目にしたときと同じように思った。



「曽呂野!君は何て愚かなんだ!

敵の首を総統に捧げ昇格のために媚びを売ろうなんて!

全く君にはほとほと呆れてしまうよ!」


そんな馬鹿な事を抜かしている間抜けな声の主の姿は、もっと間の抜けたものだった。


そいつは全体的に丸っこい、達磨のような体つきをしていて、外皮はプラスチックのような光沢を放っている。

口元から腹にかけての色は白く、それ以外の部位は人工的なまでに青かった。

足は短く、まるで鳥の脚をアニメ的にデフォルトした様であり、口元もデフォルトされた鳥のクチバシに似ていた。

ヒレ状の腕も短く、左手ならぬ左ヒレには拳銃を、右手ならぬ右ヒレにはスタンダードなハンバーガーらしき物体を持っていたが、どうやって持てているのかは定かでない。

マイケルと同じような、上半身だけのタキシードを着ているが、どんな構造になっているのか、独特すぎる体系へ見事にフィットしていた。


「ちょ、デイヴィッド…アタシは昇格とかどうでも良いんだって何回言えば判ってくれるのよ?

それにこいつらとヤるのだって、只単に業務を全うしようとしているだけよ」

しかし、デイヴィッドと呼ばれた間抜け面はといえば。

「フ…またそうやって弁解するんだね君は。

見苦しいからやめたらどうだい?」

「…」

黙り込む曽呂野。

と、ここでデイヴィッドは大志と直美に気付いたのか、二人の方を向いて自己紹介を始めた。


「いやぁ初めましてお二人さん。

僕の名前はデイヴィッド。見ての通り可愛い可愛いペンギンの疑似霊長(ファフルトップ)さ。

エリート特殊部隊・デイヴィッド小隊を率いる傍ら、今動いている機械兵部隊の100万倍の強さを誇る史上最強の軍隊・ペンギン大隊総指揮官でもあって、全ての疑似霊長の頂点に立つ天才的存在さ!

ちなみにそんな天才の僕が人禍のコガラシ総統へ忠誠を誓うのは、全てのペンギンの故郷である南極大陸を滅茶苦茶にする人間共を滅ぼし、全てのペンギン達を安息に導くため!

ゆくゆくはペンギンによるペンギンの為のペンギンだけの巨大国家・ペンギン帝国国王になるつもりでもあるんだ!」


そんなデイヴィッドの話を聞いていた二人は、またも思っていた。

「(あれがペンギンってどういうことなの…。

ペンギンってアレよね?

スタイリッシュで可愛らしくてカリスマ溢れる目をした海鳥を言うんじゃないかしら…?)」

「(あれがペンギンとかわけわかんねえ…。

ペンギンってアレだろ?

寿司食いたさに空を飛ぶのやめて、海ん中に潜っていったっていう最強の海鳥だろ…?)」


直美はひとまず大志とアイコンタクトを取ってから、思い切ってデイヴィッドに問う。


「…へ、へぇ…貴方って…何か凄いのね!

でも一つ気になったの。

私の友達に動物に詳しいのが居てね、そいつの話だとペンギンの分布は南半球の一部地域に広がってて、南極に分布してるのは全6属18種類中、コウテイペンギンとアデリーペンギンの二種類だけって聞いたことがあるんだけど……違ったかしら?」

その言葉を聞いたデイヴィッドの表情が、一瞬にして豹変した。

「な、何だってェー!?

そ…そうだったのか……」

酷く落ち込むデイヴィッド。

ここで曽呂野が口を挟む。

「何?アンタ全てのペンギンの王になるとか言っておきながら、配下のことなんて知らなかったってわけ!

こりゃあ笑えるねぇ!」

するとデイヴィッドは突如怒りだして言う。

「えーい、黙れ黙れっ!さっきのは演技だ!

僕はゴミのアトゥイやクズのヤールーやバカのホロビやスケベの隼人とは違って優しいからね!

無知で無能な君達にあわせてあげていたのさ!」

「どうかしらね。

アンタの言うゴミが死んだとき、普段冷静で笑顔を絶やさない博士(ドクター)ってば、柄にもなく食道の隅っこで静かに泣いてたわよ?

僕は最高の我が子を死なせてしまった。保護者失格だーってね。

それにアンタの言うクズとスケベはアンタの部下を殺したし、一太を処分したのはアンタの言うバカよ?」


「な…何ィッ!?

そんな馬鹿な!

ッハ!…そういえば、マイケルやゴードンからの通信が途絶えていたんだった……まさかあいつら…」


「しかもアンタの部下と一太の処分は、ちゃんとした総統からの命令よ?」


「…ぐぬ……言わせておけば好き勝手言いやがってぇ!

良いだろう、曽呂野!

これから僕の『とっておき』を見せてやる!」

「はぁ、何とでも言いなさいな」

物凄い剣幕で怒るデイヴィッドに対し、至って余裕綽々の曽呂野。

「そう言って居られるのも今の内さ!

高橋、あれを連れてこい(・・・・・)!」


「「「連れ…?」」」


ダンスホールの外側へ無数に存在する扉の一つから、人影が現れた。

それは細身の美しい女であり、手には鎖を持っていた。

女が鎖を引っ張ると、それに伴って奥からもう一つの人影が現れた。

首に鎖を繋がれたその人影とは、黒髪で、白いシャツに淡い桃色のスカートを履いた少女であった。

外見から察する辺り、年齢は16~19辺りと思われる。

整って可愛らしい顔立ちに、曽呂野程では無いがスタイルも良く、一目見たなら多くの人を引きつけるような、そんな少女であった。

ただ、不審点が四つ程有り、それは曽呂野のみならず大志や直美にさえも判るものだった。


一に、その目と表情には生物的な活性が見えず、まるで死体か人工物の様である。

二に、その肌は透き通るように白かったが、人間の肌が持つような白さではなく、またハリもツヤも全く見て取れなかった。

三に、その肌には血の気が無く、まるで生きているようには思えない。


そして、四に―これは誰もが度肝を抜かれるであろう不審点で―――その左半身に一つ、弾痕が有った。

それも、その弾痕から肌にかけて、放射状にカビのようなものが広がっている。



「!!…(サカリ)ッ!

…このインポめ……アタシの盛に何をした!?」

曽呂野の表情は、静かなる怒りを見せていた。

無言の大志と直美もまた、その弾痕にだけは見覚えがあった。






小沢一太に撃たれた恋歌の腹に出来たものだ。

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