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好きな人が義妹になった  作者: 西織
それぞれの想いと
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 以前のことを思い出したからか、何だか気まずい空気が流れてしまった。

 部屋でふたりきりで微妙な空気になるのは、悪い意味でドキドキしてしまう。

 それは彩花も感じていたのだろう、パっと話題を変えた。


「そ、そうだ、兄さん。さっき、あまり眠れないと言ってましたよね?」


 先ほどの安眠の件まで話を戻し、彩花は左手を持ち上げた。

 そして、それに右手の親指を当てる。


「ここにですね、安眠のツボがあるんですよ。眠れないときは、押してみてください」


 彩花は手のひらの中心部分、そこから少しずれた場所をぐぐっと押し込んでいる。

 香りだけでなく、ツボまで把握しているなんて。

 案外、眠りにはこだわりがあるんだろうか?

 さっきのアロマのときもそうだが、ちょっとテンションが高い気がする。

 ツボはよくわからないが、眠れるのなら試してみたい。

 理久は自分の手のひらと、彼女の手のひらを見比べる。


「ここ?」


 彼女が示していた場所を見ながら、自分の手をぐりぐりと親指で刺激してみる。

 よくわからない。

 合ってるのかどうか、正解を判断する方法もわからない。

 首を傾げていると、理久の手を彼女の両手がふわりと包んだ。

 えっ!? と驚きの声を上げなかった自分を褒めたい。

 もしそうしていたら、彼女は我に返って、絶対に手を離していたはずだ。


「ここです、ここ。きゅうっとした痛みを感じませんか? 眠るときに、ここをぐりぐりしていると、いつの間にか眠りに落ちているんです。痛気持ちいいくらいの強さで……」


 嬉しそうに、彩花は説明してくれる。

 声が弾んでいるし、やはりテンションが上がっているようだ。

 かわいい。

 かわいいけれど、ドキドキはする。

 それはもう、めちゃくちゃドキドキしている。

 だって、好きな子に手を握られているのだ。


 彼女の手は料理するときによく見たが、肌が白くて、指の一本一本がすらりと長い。

 そして、しなやかだ。

 きっと触れたら、同じ人間とは思えないほどにやわらかいと思っていた。


 こうして触れたことにより、その感覚が正解だったことを悟る。

 彼女の体温、やわらかな肌、すべすべとした感触。

 それらがこちらの手を包んでいるのだから、心臓は痛いくらいに跳ね上がった。


「なので、眠れないな~、と思ったときはここを押してみてください。そうしているだけで、落ち着いて……、きもし……、ます、し……」


 饒舌だった彩花の声が、徐々に小さくなっていく。

 説明に夢中で気付いていなかったようだが、今男性の手を握っていることを実感したらしい。

 彼女の頬が少しずつ赤くなるのが見えた。

 けれど、こちらはとっくの昔に真っ赤だ。

 もしかしたら、彩花はそんな理久を見て、己のしたことを実感したのかもしれない。

 手をパっと離して、引っ込めた。


「あ……、なんだか、照れちゃいますね」

 

 気まずい空気に耐えられなかったのか、彩花は顔を上げて笑う。

 赤くなった頬、照れくさそうに笑った顔、たどたどしい照れ隠し。

 言うのか、それを。

 確かに、この空気は照れくさいけれど。

 そんなことを言われたら。

 より、意識してしまうのではないか。


「――――ぁ」


 そんな彼女を、愛しい、と強く思う。

 心から愛しい。

 目の前にいる彼女のことが、だれよりも好きだ。

 こうしていっしょに暮らす中で、これ以上ないほどに惹かれていく。

 今すぐ、彼女を抱き寄せられたら、それに応えてもらえたら、どんなに幸せだろう。

 そんな罪深いことまで願ってしまう。

 少し前まで、「付き合いたいかどうかなんて、わからない」と言っていたのに。

 こんなにも短い間に、心は彼女の手によってどんどん変化していく。


 今までは、そこに切なさと痛みを感じていた。

 決して近付けない、近付いてはいけない、近いからこそ踏み越えられない境界線が引かれていた。

 でも。

 あくまで保険ではあるけれど、るかは「我慢できなくなったら、言えばいい」と言ってくれた。

 こんなにも愛しい気持ちが噴き出したことは、今までになかった。

 踏み越えてしまって、いいのではないだろうか。

 だって、心はこんなにも――。


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