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好きな人が義妹になった  作者: 西織
文化祭の片隅で
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 そんなことがあった、翌朝。

 いつもどおり、理久と彩花は早朝から河川敷を走っていた。

 昨日夜食を食べたせいか、彩花は普段より張り切っているようだ。

 そのせいで、ペースも息が上がるのも早い。

 張り切りすぎたらしく、途中で足を止めてしまった。


「す、すみません、兄さん、ちょ、ちょっと、休憩させてください……」

「彩花さん、大丈夫? ちょうどいいし、折り返そうか」

「す、すみません……。ペース、間違えちゃいました……」


 はあはあ、と荒い息を吐きながら、胸を押さえている。

 身体をくの字にして息を整えている彩花を待ち、理久はなんとなく川に目を向ける。

 今日も朝の空気は気持ちよく、川はキラキラと光に照らされていた。

 身体に眠気は残っているものの、朝の爽やかな空気、心地よい疲労感はいいものだった。

 そこでふと思い出す。


「あ。彩花さん、牛乳って冷蔵庫に残ってましたっけ」

「あー……、いえ、お母さんが飲み切っちゃったと思いますよ。流しに出してありました」

「そっか。じゃあコンビニで一本だけ買っていく? 朝ご飯にいるもんね」

「そうですね。朝持ってくれたら、買い出しのときでよかったんですけど。あ、兄さん。今日、スーパーの卵が安いらしいですよ。おひとり様一パックらしいので、わたしも行きます」

「それはありがたい……。彩花さん、今日何時くらいに帰ってこられそう? 買い出しいっしょに行くなら晩ご飯の材料も――」


 朝は気持ちよく、周りもあまり人がいない。

 だからつい、普段家でするような話をしてしまった。

 それ自体はきっと、とても普通のことだ。

 自分たちの家の周りや、スーパーでなら。

 聞かれても、きっと困りはしなかった。


 けれど。

 一番聞かれてはいけない人物に。

 その話を聞かれてしまった。


「――三枝?」


 第三者の声が聞こえて、振り返る。

 そこにいたのは、見覚えのある男だった。

 長身の短髪頭で、無骨な顔をしている男の子。

 普段は仏頂面の彼も、今ばかりは困惑を前面に押し出していた。

 彼は彩花と同じ中学校のジャージを着ており、どうやら彩花たちと同じくランニングをしていたようだった。


 あぁ。

 言っていたではないか。

 この辺をたまに走っている、と。


「後藤、くん……」


 彩花は信じられないものを見る目で、彼の顔を見つめていた。

 彼はそれには返事をせず、理久と彩花を交互に見る。

 動揺した声で、彼は言う。


「なんで、ふたりが、いっしょに。というか、なんなんだ、今の会話は。兄さん? 冷蔵庫……? スーパー……、買い出し……。なぁ三枝……。いったい、なんなんだ……?」


 会話を、聞かれていたらしい。

 言い逃れのできない、あまりにも家族らしいあの会話を。

 彩花は、クラスメイトには知られたくないと言っていた。


 だから、後藤にもわざわざ嘘を吐いてまで黙っていたのに。

 けれど、彼女自身は「彼になら伝えてもいいんじゃないか」と考え直していた。

 彩花の秘密が露見したのは、彼女にとってそれほど問題ではない。

 問題なのは。


『――あなたは、三枝が好きなんでしょう』


 恋心をぴたりと言い当てられた、理久のほうだ。

 これは絶対に、知られてはいけない秘密だったというのに。

 三人が三人とも困惑の表情を浮かべる中、川の音だけが流れていた。

第二章はここで終了です!

明日からはしばらく一日一回更新になってしまいます……!

すみません……!!

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