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好きな人が義妹になった  作者: 西織
文化祭の片隅で
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「彩花。あなたの体型、どうなったの?」

「! お、おかあさん! そんな、兄さんの前で言わなくても……!」


 彩花は羞恥に顔を赤く染め、香澄の腕にすがりつく。

 体型?

 どうやら家族裁判の対象は彩花のようだが、話が見えない。

 今も理久を恥ずかしそうにちらちら見ながら、香澄の腕を引っ張っている。

 けれど、香澄はそんな彩花に冷ややかな目を向けて、静かに言葉を並べた。


「これはね、彩花。わたしは理久くんにも責任があることだと思っているから。聞いてもらったほうがいい」

「俺が?」


 さっきから、何の話をしているか全くわからない。

 戸惑っていると、彩花が泣き出しそうな顔で肩を小さくさせた。

 どうやら膝の上で手をきゅっと握っているようで、肩まで力が入っているのが見て取れる。

 香澄はそんな彩花の肩に手を置き、「ほら、ちゃんと言いなさい」と淡々と告げた。

 彩花は今にも崩れ落ちそうな表情で、唇を引き結んでいたが……。


「……太り、ました……」


 自供する犯人のように、苦しそうにそう言った。


 ふと……っ、た……?

 そう言われても、と理久は困惑してしまう。

 今は伏せてしまっているが、彩花の顔はとてもほっそりとしていて、そもそもの顔が小さい。

 言われてみれば、夏休みよりは丸くなった……、かも……? と思わないでもない、というぐらいだ。


 理久からすれば、とても「太った」と言えるものではなさそう。

 確かに、女子は一キロ二キロの増減で大騒ぎするようなイメージがある。

 るかがよく、「ぐえーっ! 太ったァー!」と苦しそうに申告してきて、実際に増えたのは一キロ程度、ひどいときは数百グラムのときもあった。


 その当惑が伝わったのか、香澄は据わった目でこう続けた。


「具体的に言うと――「お母さんッ!」

 

 香澄が何キロ太ったか言ったようだが、彩花の悲鳴でかき消される。

 さすがにそれは公開処刑が過ぎないだろうか。

 数ヶ月前に兄妹になったばかりで、本質的には自分たちは他人なのだ。

 慌てて、理久が口を開く。


「いや、あの。とてもそうは見えませんけど……?」

「そうね。彩花は顔には出ないから。だからわたしも油断してた。でも彩花は、お腹につくの。身体に出ちゃうの。久しぶりに彩花の裸を見て、ビックリしちゃったわ」


 そうはっきり言われ、理久は気まずく目を逸らす。

 彩花は泣き出しそうな顔で俯いているが、太ったことへの羞恥が先行しているらしい。黙り込んだままだった。

 おそらく、これが彼女に与える罰なのだろう。

 普段はやさしく、理久にも彩花にも穏やかな香澄だが、この件に関しては過去にひと悶着あったのかもしれない。目が違う。

 そして、香澄は感情のない声で淡々と告げた。


「これは理久くんにお願いしてなかった、わたしのミスでもあるわ。だから母親として、改めて理久君には伝えておきたいの。彩花はね、放って置いたらいずれこうなるわ」


 香澄はスマホを操作し、こちらに画面を向けた。

 そこには小学生低学年くらいの彩花が写っている。

 かわいい。

 可愛くはあるが……。

 こちらにピースをしている彩花は、その顔つきが妙に……。


「ふ、ふくふくですね……」

「ふくふくでしょう……」

「お母さんっ!」


 彩花は再び悲鳴のような声を上げて、母のスマホを取り上げようとする。

 今の彩花はすらりとしていて、あれだけ食べるのが不思議なくらいに細い。

 太らない体質なのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 太りにくくはあるのだろうが、それでも太らないわけではない。


 現に、写真の彩花は顔がぷっくりしていて、身体も丸かった。

 まさか、彼女にこんな時期があったとは……。

 そうなった理由を、香澄は静かに語る。


「彩花はね、ブレーキをかけないと無尽蔵に食べちゃうから。わたしがご飯を作っていたときは、量を調節して食べ過ぎないようにしていたの。間食の習慣も作らないようにしてて。でも、そこを気を付けていれば、太ることはなかったの。だから、この生活でも大丈夫だと思ってた。理久くんが作ってくれる料理も、そんなに量は多くなかったしね。……でも、彩花はここまで太った。何か、心当たりはある?」

「…………………………」


 ありまくる。

 夏休みのアイスから始まり、ホットケーキやスイーツビュッフェ……、理久は彼女といっしょにいっぱい食べてきた。

 彼女が喜ぶ顔が見たくて、つい間食したことは何度もある。

 そして、ここ最近のお夜食。


 あぁ。

 あれだけ余計なカロリーを摂取していれば、太るのも無理からぬ話だった。

 実際、理久も体重は増加していた。

 元々が細いから、気にならないだけで。


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[一言] >元々が細いから、気にならないだけで。 ふっ、てなったw
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