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好きな人が義妹になった  作者: 西織
文化祭の片隅で
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 ある日の夜。

 香澄が洗い物をしていたので、理久がその手伝いをしていると。

 風呂の呼び出し音が鳴った。

 今お風呂に入っている人から、ちょっと来てくれ、と呼び出されている。


「あれ? 今入ってるのって、彩花よね?」


 香澄が顔を上げ、風呂のほうを見る。

 先ほど理久が風呂から上がり、いつものように彩花が入っていった。

 呼び出し音なんて滅多に鳴らないために、ふたりして顔を見合わせる。

 そこで理久は、しまった、と思い出した。


「すみません、俺です。シャンプー使い終わったのに、補充するの忘れてました。俺、ちょっと渡しに――、行くのはまずいですね……」

「そうね……、本当に行くのかと思ってびっくりしちゃった……」


 先走って向かいそうになったが、赤い顔で足を止める。

 香澄も変な格好で固まっていた。

 ここは香澄に任せるしかない。


「すみません、香澄さん……。行ってもらっていいですか……」

「はいはい、大丈夫ですよ」


 パタパタとお風呂に向かった彼女を見送り、はあ、とため息を吐く。

 香澄がいてくれたからよかったものの、そうじゃなかったらまずかった。

 こちらがいくら扉越しにシャンプーを渡そうとしても、限界がある。

 ちらりとでも見えてしまったら、その時点で――。


「バカたれが!」


 不埒な考えが浮かびそうになり、全力で頬をビンタする。

 頬は赤くなっているだろうし、痛みは強いが、そのおかげで妄想はかき消えていった。

 何を考えているんだ、馬鹿者め。

 大体、香澄がいなければ彩花も呼び出しボタンを押さないだろう。

 頭を振ってから、理久は洗い物を再開させる。


「……それにしても」


 香澄がなかなか戻ってこない。

 用はシャンプーだと思っていたのが、別のものだったのだろうか。

 ちょっとだけ心配になる。

 かといって風呂場に様子を見に行くわけにはいかないので、キッチンから廊下を確認した。

 脱衣所の扉は少しだけ開いており、そこで香澄と彩花が何かを話しているのは聞こえてくる。


 話の内容まではわからないが、意思疎通は取れているようだ。

 問題なさそう、と理久はキッチンに戻った。


 しばらくしてから、香澄がようやく戻ってくる。

 しかしその表情は浮かないもので、むむむ……、という声が聞こえてきそうなものだった。

 理久は首を傾げる。


「ありがとうございます。遅かったですけど、シャンプーじゃなかったんですか?」

「いや、シャンプーで合っていたんだけど……、ううん……」


 香澄は頭を抱えながら、理久の顔を見た。

 その目がジトッとしたものになっている。 

 困惑していると、香澄はおずおずと理久の肩に手を置いた。


「理久くん。洗い物が終わったあとも、ちょっとここにいてくれる……?」

「いい、ですけど……」


 なんだろう……、何とも不安になる言葉だった。

 どうやら彩花のことに関わりがあるようで、「お風呂から出てくるのを待っててね」と言われてしまう。


 風呂に彩花と、理久には話の内容が全く想像がつかない。

 いくら何でも、シャンプーを忘れたくらいで家族裁判には発展しないだろうし。

 ほどなくして、風呂上がりの彩花がリビングに入ってきた。


「お風呂、頂きました……」


 ほこほこになったパジャマ姿の彩花は、とても艶っぽい。

 長い髪は乾かしても少しだけしっとりしていて、普段以上に綺麗だった。

 顔もほのかに赤く染まっていて、可愛らしいことこの上ない。

 けれど、彼女はなぜか気まずそうにお腹に手をやっていた。

 そんな彩花に、香澄は静かに言葉を突き付ける。


「彩花。座って」

「はい……」

 

 とぼとぼとダイニングテーブルの椅子に腰掛ける彩花。

 それを指示した香澄は、理久のほうに目を向けた。


「理久くんも、座ってくれる?」

「あ、はい……」


 異様な空気に呑まれながら、理久も同じように座った。

 完全に親が子供を説教するときのソレだ。

 本当に家族裁判が始まるのだろうか。

 三枝家では、それほどシャンプーの補充忘れが重罪なのだろうか、と不安に思う。

 香澄も定位置につき、ゆっくりと口を開いた。


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